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第1章 2話 宇宙采配のキス(2/3)

 あの不思議な体験がいかに素晴らしかったか。
 覚者の波動、見た目の印象とのギャップ、細胞が震えたこと、身体にインストールされた情報など、を。

 無性に共有したくて理解できそうな友人何人かに話そうとした。しかしなぜかみんな、その話しを切り出した途端、目が虚(うつろ)になり頭が朦朧となってきて、最後まで聞けない。

 物理学を生業にする友人の男性は覚者が登場したくだりで
「舞、オレ急に眠くなってきた」
といい、
「ちょっと待ってて、コーヒー入れるから」
とキッチンへ行ってしまった。

 また、その数日後プロのピアニストで那智や熊野で自分を整える精神修行をしている友人の女性にも話してみた。彼女は特有の共感覚を持っていて、感情移入するポイントが楽譜上に浮き出る。
 そして彼女もまた、覚者登場のシーンで楽譜に書き込み中の万年筆をテーブルにカタンと置いて私の目ではなく遠くを見ながら言った。
「舞ちゃん、私なんだか頭にモヤがかかって、舌も回らない」
 一瞬脳溢血じゃないかと心配したが、話しをやめた3分後には元のハキハキした気丈な女性に戻っていた。

 私は、よほど私の漫談力が低く、もう聞いていられないという悲鳴現象だったのだろうかと凹んだ。
もう誰にも話さない、と自分に誓った。

 しかし後日、同じ日に2人から立て続けに連絡が来て同じ事を言われた。

「ちゃんと覚えてないけど、その方が夢に出てきた」
と。

「え?!何かされた?!」
私はその覚者とのキスや不思議な一体感を得たところまではニ人に話していなかった。その前段で二人とも話しを遮ったから。

「いや、目の前に座ってただけ。たださぁそのあと気になったのが、オマエのことだよ。アイツ絶対怪しいって。ヤバいよ。」とは友人男性。

友人女性は
「見たことないのに、絶対あなたが言ってた人だって思ったのよ。座って何かしてたわ。髪が長くて見た目は変わってたけれど、すごく知的で穏やかな印象だった」

 印象は正反対だったが、聞けば聞くほど二人とも同じ夢を見ていた。

 気がつくと朝靄がかかった海岸のような広陵の砂地に裸足で立っていた。
ここはどこだろう?
 辺りを見渡したが、まったく分からない。
 モヤは見たことのないような淡い紫色で、ツヤツヤと光っていた。
 なんとも言えない儚い美しさに、
無性に寂寥感に駆られ、誰か居ないか探した。

 ここまで二人は同じくだり。

そしてかたや
 男性はふと、フランクドレイクのドレイク方程式を思い出した。ドレイクは銀河系に地球以外の文明数がどのくらいあるのか計算する方程式を出した天文学者だ。
 直感的に、ここは地球外だと感じたという。その根拠が欲しくてドレイクの公式N=Ns×R×fp×ne×fl×fi×fc×L÷Lg
の答えが1000億であることを思い出した。

 かたや女性は、同じ景色の中で音楽が聞こえていた。それは、エリックサティのジムノペティだった。

 エリックサティとは当時音楽界で支持を得ていた2大勢力から逸脱し、独自の神秘的な世界観をこのジムノペティに込めた音楽界の異端児。
 エリックサティを敬愛する彼女は、私が語りかけ中断した覚者にも同じようなアフィニティ(親和性)を感じ、この時点で覚者が居るのではと直感したという。

 そのあとは
2人とも砂の上にあぐらをかいて座っている覚者を見ることとなる。

 そして、これには理由があった。
宇宙采配の予想もつかない展開となった。


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