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自動車のメカニズム(ダンパー編)

【はじめに】

ダンパーはスプリングとともに乗り心地や走行性能を左右する重要な装置です。

しかし理解がなかなか進まない装置でもあります。

今回はダンパーに的を絞って説明していきたいと思います。

サスペンションの構造やダンパー・スプリングの概要は下記のノートを見てください。


【ダンパーの役割】

ダンパーというのは減衰機です。

減衰というのは減らすという意味です。

バネで重量を支えると反力から振動が生み出され、ずっとバウンドし続けてしまいます。

このバウンドの運動エネルギーを減らすことで、振動を収束させます。

減らすといってもエネルギー保存の法則があるので、無くしてしまうことは出来ません。

ダンパーでは運動エネルギーを熱エネルギーに変換します。


【どんなダンパーが良いのか?】

主な役割は減衰ですが、運動の速度に応じて強い抵抗を産むため、沈み込みの速度のコントロールにもなります。

車体全体が沈み込むようなバウンド運動に関しては振動を長引かせないで、かつ元の車高にスッと戻るものが好ましいです。

ロールやピッチングなどの車体が水平から傾くような動きに関してはドライバーの快適性に関係するため変化の速度を抑えるような動きが好ましいです。

この変化速度が速いと、車が踏ん張らないように感じられ、感覚としては「恐い」動きになります。


【ダンパーの構造】

今の車に使われているダンパーはほぼオイルダンパーです。

オイルダンパーは外観から見える筒とロッドがあり、筒の中にはオイルが満たされています。

ロッドの先には筒の中にピストンが取り付けられており、ピストンにはオリフィスと呼ばれる小さな穴が空いています。

路面からの反力を受けてロッドが押し込まれたり、バネの反力でロッドが引っ張られる時にオイルがオリフィスを通り、ピストンを隔てて2つの部屋を行き交います。
この時のオイルの流れが抵抗になり、減衰が行われます。
(オイルの流れは熱として発散されます)


【オリフィスの構造】

概略図では分かりやすくするために単に小さな穴が空いているだけのものを描きましたが、実際には穴と蓋の役目をするバルブで構成されています。

縮む時と伸びる時で違う穴を通ります。

違う穴を通す必要があるので、片方のバルブには穴が開いています。


【オリフィスの動き】

縮む時は外側のオリフィスを通ってバルブをオイルが押し開けます。

内側のオリフィスにはバルブが邪魔をしてオイルが通りません。

伸びる時は縮む時とは逆に内側のオリフィスを通ってバルブをオイルが押し開けます。

上側のバルブにはオイルが通るための穴が空いていて、邪魔をしない構造になっています。

外側のオリフィスにはバルブが邪魔をしてオイルが通りません。


【モノチューブとツインチューブ】

ダンパーの構造は主にモノチューブ式(単筒式)とツインチューブ式(複筒式)があります。

主に使われているのはツインチューブ式です。

この構造はシャフトが出入りする際の筒内の容積変化(入ったロッドの体積ぶんだけ狭くなる)への対応方法の違いです。


【ツインチューブ型】

文字通り筒(チューブ)が2つあります。

ピストンとオイルが入っている筒の外側に筒が設けられています。

ダンパーが縮み、ロッドが入り込んでくると筒内の容積が小さくなるのでオイルを外に出す必要が出てきますが、その溢れたオイルを受け止めるのが外側の筒です。

外側の筒へのオイルの移動にもバルブがあり、ここでも減衰が発生します。

外側の筒には溢れたオイルの他にガスが封入されており、少しだけ反力を発生します(空気バネ)

縮み側と伸び側で主に減衰力を作るバルブを分けることで、高いガス圧を加えなくてもキャビテーションが発生しにくくなっています。

このタイプのダンパーは必ず筒が下になっている必要があります。
(気体が上にくると内側の筒の中に入ってしまうため)


【モノチューブ型】

文字通り筒が1つです。

ロッドが入り込んできた容積変化は筒の中に設けられたガス室が容積変化することで受け止めます。

ガス室はロッドが入ってくるところの反対側にあり、フリーピストンと呼ばれる壁でオイルと隔てられています。

ガス室の圧力は高く設定されています。

これは伸び方向の容積変化に追従するためですが、追従できないとオイルが圧力変化により気化してしまうためです。

このためフリーピストンにも高い圧力に耐えうるためのシールの締め上げが必要になり、オイルに強い圧力が常にかかった状態になるためロッドのシールも締め上げる必要があります。

シールを締め上げると、この部分がフリクションになり、速度に応じた減衰とは異なるオフセットされた減衰が発生します。

フリクションは特に動き始めや微小ストロークで動きにくさ=硬さとして現れる事になります。

ツインチューブ式はモノチューブ式と違って水平や上下反対に取り付けても大丈夫です。

そのため上下逆に取り付けることもあります。
(倒立ダンパーと呼ばれる)


【ストラットサスペンションの曲げモーメント】

少しだけダンパーそのものから離れます。

しかし、ダンパーに強い関係があるので説明します。

ほとんどの乗用車のフロントサスペンションにはストラットというサスペンション構造が採用されています。

この形式はエンジンルームの空間に浸食せず、バネ・ダンパーの作業効率も高く、部品点数も少ない方式で非常に優れています。

しかし、構造上ダンパーを曲げる力がかかります。

この力に対応するための方法がいくつか取られています。


【倒立ダンパー】

ダンパーの外側にさらに筒をかぶせて曲げ方向に対しての剛性を高くした方式です。

上下逆に取り付けることで曲げ方向の剛性を高める狙いがあります。

倒立式でない場合、チューブに取り付けられたナックルが邪魔で外側にチューブを置くことは出来ません。

また前述の通り、モノチューブ型のダンパーが必要になります。

モノチューブダンパーは構造上ロッドを細くする必要があり(伸縮の為の体積変化が大きくなり、ガス室の体積が大きくなる)、その意味でもアウターチューブの設置はほとんど必須になります。

しかし、アウターチューブもまたフリクションの元です。


【曲げモーメントキャンセルスプリング】

ダンパーにかかる力をスプリングの取り付け方で対策する方法です。

画像のように斜めに取り付けたりオフセットしたりする事でダンパーにかかる力を打ち消します。

しかし、アフターパーツのダンパーによくあるように車高調節式サスペンションの場合はスプリングがオフセットされずに備付られているとが多いです。


【キャビテーション】

オイルダンパーのオイルに気体が混ざることをキャビテーションと言います。

オイルに気体が混ざるとオイル自体が弾性をもちます。(空気バネになる)

そうするとオイルがピストンに隔てられた部屋を移動することなくロッドが上下に移動して、減衰の役目を果たしません。

また、オリフィスを通過する際に気体だと抵抗が少なくなるので、これまた減衰の役目を果たしません。

伸びの時にピストンよりも奥の空間はオイルの圧力が下がります。
オイルの圧力が下がるとそれまで完全にオイルで満たされていた空間に突如気体が発生します。

炭酸飲料が蓋を開けて大気圧になると、中からシュワシュワと気体を発するのと同じ原理です。

特に空間の閉鎖されたモノチューブ型では顕著で、高いガス圧によっては抑止されていますが、経年劣化でガス圧が低下するとキャビテーションが起こりやすくなります。


【モノチューブ/ツインチューブ比較】

〈搭載自由度〉

ツインチューブは天地無用なので、必ずシリンダーが下に来ますし、斜め装着にも限界があります。

モノチューブであればどのようにも設置できます。

〈ガス圧〉

モノチューブのガス圧は1.5MPa(約15気圧)前後、ツインチューブのガス圧は0.6〜0.8MPa(約6〜8気圧)ほどです。

モノチューブは前述のようにキャビテーションを防ぐためにガス圧を高くする必要があります。

この気圧は後述するフリクションに関係するほか、空気バネの強さにも関係します。

〈フリクション〉

モノチューブは前述のようにガス圧が高いのでシールをキツクする必要があるためフリクションが高いです。
(ガス圧が高いとオイルも高い圧力がかかってガスやオイルの漏れを防ぐためにはキツイシールが必要です)

ストラットの倒立ダンパーではアウターチューブの摺動があるためさらにフリクションが大きくなります。

〈全長〉

モノチューブはフリーピストン分だけ有効ストロークが減るので、全長は長くなります。

その分だけ車体の空間を占有します。


〈ピストン断面積〉

ツインチューブは二重構造であるためピストンの断面積は小さくならざるを得ない。

モノチューブはその逆。

減衰力はピストンの断面積で受ける圧力が基本なため、大きな力を受けるには大きなピストン断面積が必要です。

〈放熱性〉

モノチューブはオイルの入っているチューブが外気に触れているので放熱性が高いです。

オイルダンパーは運動エネルギーを熱エネルギーに変換する装置なので、高い減衰力には放熱性能が重要になってきます。

ラリーカーの中にはダンパーの熱対策のため、ストラットでもワザと斜めに装着されたダンパーを採用した例があります。

〈コスト〉

部品点数的にはツインチューブの方が多いので、ツインチューブの方がコストが高そうに見えます。

しかし内部の工作性精度を問われる(性能に大きく影響する)のでモノチューブの方がコスト高です。


【ダンパーの作動効率】

タイヤ⇄車体の距離変化量=サスペンションストロークに対してダンパーの変化量が大きいほど、ダンパーは上手に動きます。

作動効率はレバー比により決定されます。
サスペンションアームの途中にダンパーが取り付けられていれば動きが小さくなり、アームの端に行くほど1対1に近づきます。

また斜めに取り付けられても作動効率は下がります。
垂直に近いほど作動効率は高くなります。

ダンパーは変化速度に応じて減衰力を発生させますが、ダンパー速度が出ていない時には減衰力がうまく発生しません。

サスペンションは大きなバンプを乗り越えたときの大きなバウンドにも対応するように作られていますが、日常的にはシチュエーションとして最も多いのは道路の小さな凹凸を乗り越える場面です。

小さな動きでも減衰が発生すると微振動の収束が早まり、快適性が向上します。

F1などの競技用の車両では、複雑なリンクの組み合わせでレバー比を使い、ストローク量よりも大きなダンパーストロークを発生させる方式を取っています。

理由としては上記の理由や、サスペンションストロークそのものが小さいことも挙げられます。

市販車では複雑なリンクの組み合わせでストローク量を増やすことは構造上難しいので、1対1に出来るだけ近づけるようにする工夫が重要です。

しかし、ダンパーのストロークを多く設けることは多くの空間を占有することになるのでキャビンや荷室などの機械機構以外の空間とのせめぎあいになります。


【リバウンドスプリング】

ダンパーの中にバネが入っていて伸び方向の制約をします。

ガス室の反力をキャンセルする働きがあります。


【減衰力可変ダンパー】

減衰力をコントロールすることで、シチュエーションによって適切な特性を選択できるようになります。

その多くはユーザーの手によるマニュアル操作です。

室内からのスイッチやダイヤルによるコントロールができるものもあれば、ダンパーに備え付けられたダイヤルなどでコントロールするものもあります。


〈オリフィス変化方式〉

ピストンに空いたオリフィスを部分的に閉じたり開いたりする事で減衰力を調整します。

閉じていれば抵抗が強くなり=減衰力が増し、開いていれば抵抗が弱くなり=減衰力が低下します。


〈オイル特性変化方式〉

オイルに磁性体材料を混ぜ、磁力によって粘度を変化させることにより、減衰力を変化させます。

マグネティックライドという商品名が付いています。

GMやAUDIで採用されています。


【イナーター】

乗用車への採用はありませんが、近年F1などの競技車両へ採用され、車両の動的制御の第3の要素として定着しています。

外見はダンパーに似ていますが、中身は全く違います。

構造的にはシャフトにネジが付いていて、シャフトの出入りによってシリンダー内の円盤を回すように出来ています。

円盤の慣性重量がイナーシャになるのですが、動いていない時には動きにくく、一旦動き出すとなかなか止まらないという動きになります。

車体のイナーシャ(=慣性)は車体の重量でしたが、車体重量を変えずに円盤の慣性で慣性的な動きを調整できるようになります。

物理的にはRLC電気回路と対比すると分かりやすいです。
RLCのR=抵抗、L=コイル、C=コンデンサーですが、サスペンションに置き換えるとRがダンパー、Lがスプリングそして、Cがイナーターです。

イナーシャルダンパーとも呼ばれることがありますがこれはネーミングがイマイチです。


【あとがき】

ダンパーは乗り心地を左右するとても大事な部品ですが、とても分かりにくい部品でもあります。

そのため、ただのおまじない的な軽い扱いを受けたり、逆にブランド信仰が横行したりします。

ノーマル車両で組み込まれているダンパーはストロークを最大限に確保して、乗り心地に最大限得ているし、どんなユーザーが運転しても危険性が無いように操縦安全性も確保するといった、とても優れたものです。

アフターパーツメーカーは市場要求から「まずはローダウンありき」で設計せざるを得ず、ある程度「ユーザーの好み」という大義名分を拠り所に作り込んでいます。


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