自動車のメカニズム(CVT編)
【はじめに】
下記のノートからのスピンオフです。
CVT(Continuously Variable Transmission)は日本語に直訳すると連続可変変速機ですが、無段変速機と言われます。
その名の通り変速の「段」を持ちません。
CVTには様々な形式のものがありますが、ここではハイブリッドシステムを除く、いわゆる普通の変速機のCVTを説明します。
ハイブリッドシステムについてはこちら
【CVTの種類】
CVTには以下の種類があります。
〈ベルト式〉
・プッシュベルト式
・プルベルト式
〈トロイダル式〉
・ハーフトロイダル式
・フルトロイダル式
最もメジャーなのはプッシュベルト式で大半のCVTがこれです。
プルベルト式はアウディで採用されていましたが、今はスバルしかありません。
ハーフトロイダル式は日産で採用されていましたが、今はありません。
フルトロイダル式は試作で見たことがありますが、採用例は知りません。
【ベルト式の構造】
1本の環状のベルトと2つのプーリー(バリエータとも言う)からなります。
プーリーは2つの向かい合った円錐状のパーツから構成されていて、このパーツの間の距離は油圧により変えることができるようになっています。
パーツ間の距離が広くなるとベルトはプーリーの表面から奥まった位置に移動します。
逆に距離が狭くなればプーリーの表面の方まで出てきます。
パーツ間の距離を調整しベルトに張力を与えています。
【プッシュベルトの構造】
現在主流の方式です。
自動車用CVTは当初ゴムベルトでしたが、うまくいきませんでした。
そこで金属のベルトを開発し、導入しました。
オランダのファンドーナという会社が開発したモノです。
そのとき導入されたものと同じタイプのものが連綿と受け継がれています。
金属製の薄い輪っかを何層にも重ねて、その上に金属製の薄いコマを並べた構造をしています。
コマは剛結されておらず独立していますが、隙間はほとんどなく並べられているので、コマを動かすとその前のコマを押す形で力を伝えます。
そのためプッシュベルト式と呼ばれています。
【プルベルト(チェーン)の構造】
基本的には自転車のチェーンと同じ構造で、二つの穴の開いた小さな金属のプレートをピンで次々に繋いで構成されています。
プッシュベルト式よりも曲げ角度が大きく取れるため、プーリーを小型化出来るメリットがあります。
【ハーフトロイダル式の構造】
乗用車用に唯一採用されたトロイダルCVTです。
日産がエクストロイドCVTと名づけて、最終型セドリック・グロリアとV35スカイラインに搭載しました。
日産はベルト式のCVTにエクストロニックCVTという名前を付けています。
このネーミングはエクストロイドCVTの名前と無関係ではないでしょう。
(以前はハイパーCVTとかいう名前でした)
入力と出力の2枚のディスク(向かい合った富士山のような形)とその間を複数のパワーローラーがつないでいます。
パワーローラーの角度を変えるとディスクとの接触点が変わり、ディスクの有効径が変わるので、変速比が自在に変えられます。
高い圧力をかけると固体になる特殊なオイルを使ってディスクとパワーローラーの接合をしています。
【フルトロイダル式の構造】
ハーフトロイダル式のディスクの形状が変わっています。
ハーフトロイダル式の説明で富士山と形容しましたが、富士山の裾野がもう一度盛り上がったような形をしています。
ハーフトロイダル式よりも広いレシオカバレッジを持っています。
【バックはどうやるのか?】
CVTの変速機には変速操作をすることは出来ますが、回転の向きを前後に変えることは出来ません。
なので、リバース用のプラネタリーギアが付いていて、バックできるようになっています。
プラネタリーギアについては下記のノートにまとめてますので見てみてください。
【CVTのメリット】
CVTはその名の通り変速が無段階なので、基本的に変速ショックがありません。
速度とエンジン回転数の関係を比較的自由に設定できるため、エンジンの効率の良い運転状態(主に回転数)を速度によらず実現できます。
固定段変速モード(パドルシフトやシーケンシャルシフトによるスポーツモード)の段数に高い自由度を持っています。
【CVTの弱点】
CVTはエンジンの効率の良い運転状態を実現するのに向いています。
これだけ見ると効率でCVTを上回るトランスミッションは存在しないように思えてきます。
しかし、CVTには大きな弱点があります。
〈CVTの効率〉
前述の通り、CVTのベルトとプーリーは摩擦で動力を伝えます。
摩擦力を生むためには高い圧力で押し付けるために高い油圧が必要です。
仮に高い油圧をかけないとベルトが円周方向に滑り、バリエーターが傷つき故障してしまいます。
油圧はどこで作っているかというと、エンジンの駆動軸に結びついていて、トルコンの後ろのオイルポンプで作っています。
特に変速時には大きなロスがあります。
CVTの非変速時には約10%のロスが常時発生し、変速時の油圧ロスは40%にも及びます。
これを補填しているのはエンジンの効率の良い状態での運行と、エンジンブレーキ時の制御(長い距離を減速=燃料カットできる)です。
しかし、これらはドライバビリティとの兼ね合いで全てが実現できるわけではありません。
〈ドライバビリティ〉
CVTの登場当初、ラバーバンドフィール(ゴムバンドのように反応が遅れる)と揶揄されました。
元々エンジンという原動機は応答性が高く無いので、ユーザーの操作に対してワンテンポ遅れます。
そこでさらにCVTの変速が加わり、応答遅れが増大する動きになります。
各社この問題には対処していて、変速を抑え、まるでステップATのような制御をするようになりました。
しかし、ステップATのような変速をする無段変速機に矛盾を感じるのは私だけでしょうか?
ステップATの変速ショックも制御の精密化によってほぼ無くなってきています。
(変速感の演出のため、ワザと付ける車があるほど)
〈CVTの重さ〉
CVTは他のトランスミッションに比べると構造が単純なため軽そうに見えますが重いです。
これはプーリー(バリエーター)が高い油圧に耐えられるようとても頑丈に作られているためです。
【なぜ高性能車にCVTが無いのか?】
CVTは摩擦で動力を伝えています。
高性能車はエンジンのパワーがあるので、CVTの摩擦もそのパワーに耐えなければならず、高い摩擦を生むにはとても大きな圧力をかける必要があります。
ベルトにも高い負荷がかかるので、同一の材料ではおのずと限界が来ます。
近年は改良に改良を重ねて多くの排気量で採用されるに至っていますが、それでも各メーカーの最も排気量の大きなモデルでは使われません。
【副変速機付きCVT】
CVTの変速はプーリー(バリエーター)の接触点による有効半径の差によって生まれます。
この差を大きくとると変速の幅(レシオカバレッジといいます)が広く取れます。
しかし、ベルトの曲げ限界からおのずと最小径は決定されるのでレシオカバレッジを広く取ろうとすると最大径を増やすしかなく、最大径を増やすとただでさえ重いバリエータの重量増をもたらしトランスミッション全体が大きくなってしまいます。
そこで、2段変速装置を使ってレシオカバレッジを増やす方法が考え出されました。
バックはどうやるの?のところで説明したように、もともとCVTはリバース用のプラネタリ―ギアを持っているので、そのもう一つの機能である変速を使って実現しています。
この方式では部品点数もさほど増やさずにレシオカバレッジを増やす(もしくはバリエータを小さく)ことができます。
運転してみると、速度が上がっていくときにCVT特有のヒューンという動作音の音程が変わり、若干途中でもたつくような運転感覚があります。
【あとがき】
CVTはとても普及しました。
燃費(=効率)要請の強いこのご時世で、伝達効率の低いこのトランスミッションが普及に至るには、一朝一夕では成しえない絶え間ない努力の賜物(たまもの)だと思います。
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