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自動車のメカニズム(タイヤの詳細編)

【はじめに】

タイヤは黒くて硬いゴムの塊で、メカニズムなんてないだろうと思われるかもしれません。

しかし車の中で唯一路面と接していて、車のすべての運動を作り出す根元の装置です。


【タイヤの構造】

タイヤの内部は何層にも分かれています。

タイヤは真っ黒のゴムの塊のように見えますが複合素材です。

複合素材というのは、複数の材料を組み合わせた材料で、車用途だと合わせガラスやFRPなんかが使われます。


〈カーカス〉

タイヤの構造物の中で、骨格に位置します。

ゴムを除くと多くの部分を占めています。

素材は、繊維で以下の材料が主に使われます。

[レーヨン]
かつて多く使われていたが、現在ではあまり使用されていない。

高温でも変形が少ないので、ランフラットやスポーツタイヤで使われる。

[ポリエステル]
現在の主流繊維。服の素材としても有名でPET樹脂からなる。

表面活性が低いためゴムとの接着力を高めるための接着剤が必要です。

[HMLS]
HMLSは「High Modulus Low Shrinkage」の略で、直訳すると「高弾性低収縮」です。

こちらはPEN樹脂からなります。


〈ベルト〉

トレッド面にありカーカスの上にある繊維です。

主に金属製ですがアラミドが使われることもあります。

タイヤが遠心力で円周方向に変形しないように締め上げる役目があります。

タイヤの円周方向に対して20度程度の角度を付けて、二重に巻かれています。
1重目と2重目の角度は反対方向に付けられ、タイヤがよじれることを防いでいます。


〈ビードワイヤー〉

ビード部にあるワイヤーで金属製です。

タイヤとホイールをつなぐ重要な役割があり、とても丈夫にできています。

あまりにも伸びないとタイヤをはめられなくなるのである程度は伸びるように出来ています。

〈ビードフィラー〉

ビード部にあるゴムで、タイヤの剛性を保持するために変形しづらいゴムが使われています。

〈インナーライナー〉

タイヤの内側の表面で、タイヤの気密を司っている部分です。

この部分の素材に粘度の高い素材を設けてパンクの際の空気漏れを防いでいます。


【ラジアルタイヤ/バイアスタイヤ】

用途は基礎編で説明しましが、ここでは構造の違いを説明したいと思います。

バイアスタイヤはラジアルタイヤよりも先に生まれました。

それまではホイールにゴムの塊を付けていましたが、中に空気のチューブを入れて空気で支えるタイヤとして生まれました。

ゴムの内部にカーカスと呼ばれる樹脂製のワイヤーを張り巡らし、構造を強化しています。

バイアスタイヤではカーカスが斜めに入っていますが、ラジアルの場合は真横方向です。
左右のビードをつないでいます。

ラジアル (radial)というのは放射状という意味です。

これはカーカスがホイールの回転軸から見てカーカスが放射状になっていることが由来です。

ラジアルタイヤはカーカスの上にさらに金属製のワイヤーを張り巡らし、強化したものです。

金属製のワイヤーはトレッド面のみを覆い、トレッドとサイドウォールの剛性を別々に担保しています。


【タイヤのゴム】

カーカスと呼ばれる樹脂のワイヤーを編んで構造化したものをベースにゴムを整形しています。

ゴムも1種類ではなくさまざまな素性のゴムを組み合わせてタイヤは作られます。

主に以下の種類があります。

天然ゴム(NR:Natural Rubber)
スチレン-ブタジエンゴム(SBR:Styrene-Butadiene Rubber)
ブタジエンゴム(BR:Butadiene Rubber)
ブチルゴム(IIR:Isobtylene‐Isoprene Rubber)
イソプレンゴム(IR:Isoprene Rubber)

SBRにも2種類あり、エマルジョンタイプ(E-SBR)とソリューションタイプ(S-SBR)があります。

構造別に用途並べると以下のようになります。
ベーストレッド BR,NR
トレッド S-SBR,E-SBR,BR,NR
インナーライナー BIIR,CIIR
サイドウォール BR,NR
チェーファー BR,E-SBR,NR
ビードフィラー NR


【ガラス転移温度】

ガラス転移温度というのはガラス質に転移する温度のことです。

転移というのは相転移の事で物質の状態(相)が変わる事です。

例えばH2O(水)で言うと
氷(個体)→水(液体)→水蒸気(気体)と変わることを指します。

ゴムは低い温度ではガラス質になり、ある一定の温度を超えるとゴム状になり、さらに一定の温度を超えると流動体となります。

ガラス転移点
SBR -44〜-46℃
BR -95〜-110℃
NR -69〜-74℃
IIR -67〜-75℃
IR -63〜-72℃


【コンパウンドとは】

タイヤのゴムはコンパウンドと呼ばれることもあります。
単に「タイヤのコンパウンド」といった場合はトレッド面の素材を指すことが多いです。

コンパウンドとは化学合成素材全般の事を指します。
例えばボディの塗面についた細かい傷を慣らすための素材に使われます。

タイヤのトレッド面も大半がゴムですが、良い特性を得るためにさまざまな材質が配合されています。

中でもカーボン(炭素)はメジャーな物質でタイヤが黒いのはカーボンが配合されているからです。

カーボンは補強材として古くから入っています。

近年ではシリカ(SiO2=二酸化ケイ素)の配合がとても大きく取りざたされています。

ミシュラン(日本ではグルメガイドブック ミシュランガイドの方が有名ですが世界でもトップクラスのタイヤメーカーです)が始めた事です。

シリカを補強材にするとタイヤのグリップの鍵である発熱が抑えられます。

ゴムは奥が深く、タイヤ以外の車の部品にもよく使われます。

「切れにくい」「よく伸びる」「寿命は長く」「溶けにくい」などなど、良い特性を得るにはノウハウが必要です。

またノウハウを盗まれないために成分分析を撹乱する材料も混ぜ込まれます。


【ヒステリシスロスと転がり抵抗】

ゴムというものは固体のようで、内部では流動しています。

流動は外部の刺激により行われ、分子同士が擦れて摩擦熱を生みます。

外から受けた運動エネルギーを熱になって発散してしまうのでヒステリシスとも呼ばれます。

このロスのせいで転がり抵抗が発生するため、シリカを使ってヒステリシスロスの少ないタイヤを作るのが、ここ数年のトレンドです。


【接地面積】

タイヤの接地面積はハガキ1枚ぶんです。
と、よく言われます。

タイヤを太くすると路面との摩擦が増えてグリップが増すと思われがちですが、タイヤを太くしても接地面積は増えません。

荷重と内圧が同じなら接地面積に変化はなく、接地面の形状が変化します。

普通はほぼ正方形の接地面積が、タイヤの横幅が広くなると横長に変わります。


タイヤの剛性が上がると変形量が少なくなるので接地面積は減ります。

その関係で扁平率が下がると接地面積は減ります。

扁平タイヤで接地面積が増えると思う人が多いですが、実際には逆です。


【μ(ミュー)とは】

摩擦係数の事です。

物理で習ったと思いますが、クーロンの摩擦法則というものがあり、摩擦力は次の式で表されます。

F=μP[荷重P、摩擦係数μ、摩擦力F]
ここで注目すべきは、接地面積が式に登場しないところです。

一般的なイメージと違いますが、接地面積が広くても狭くても摩擦力は変わりません。


【荷重と扁平率とグリップの関係】

扁平率が高くなると相対的にサイドウォール高が減り、タイヤの剛性が高くなります。

タイヤの変型が少なくなると、にじり滑る量が減り、グリップが増します。

にじり滑る量は荷重に比例します。

グラフは荷重とミューの関係です。


先ほどの摩擦力の計算式はその時の荷重とその時のグリップ力です。

ゴムの物性で荷重が大きいほどμが小さくなる(傾き負のほぼ正比例)ので、μをNの式で置き換える必要がある。

置き換えるとNの二次関数になります。

置き換え後のグラフは上記のようになります。


【SA/CP/CF】

ステアリングを切ると、進行方向とタイヤの向きに差がつきます。

この時、タイヤの進行方向と、タイヤの向きの差の角度のことをスリップアングル(略してSA)と言います。

この時、タイヤの横方向に、遠心力と釣り合った力が発生することによって車は旋回することが出来ます。

この横方向の力のことを横力(よこりょく)といいコーナリングフォース(略してCF)と言います。

CFはSAが小さい時はSAに比例して増えますが、ある程度まで行くと、だんだん増え方が鈍くなり、最終的には少し減ってしまいます。

途中までの比例域の比例定数のことをコーナリングパワー(略してCP)と言います。


【摩擦円】

タイヤが車で使われると前後方向と左右方向のグリップを使って走行します。

通常走行時、前後と左右はどちらかだけ使うということは無く、同時に力を発揮します。

それを表したのが摩擦円という概念です。

グリップの限界を円で示し、前後方向と左右方向の力の合成ベクトルを重ね合わせて描写します。

円をベクトルがはみ出せば滑り、円内であれば滑らないという事になります。


基本的には荷重が高いほどグリップも増すので、荷重がかかったタイヤの摩擦円は大きく、荷重が抜けたタイヤの摩擦円は小さくなります。


【パンク検出】

ランフラットタイヤ装着時にパンクがドライバーに分りづらいため検出装置が義務付けられています。

手法としては、空気圧センサ式と、車輪速センサ式の2つです。

〈空気圧センサ式〉

ホイールに空気圧センサーを取り付けて、車体と通信することにより検知するものです。

今はコストの関係で車輪速センサ式に押されていますが、路面のセンシングしようとしたときにタイヤ・ホイールとの通信が必要になるので、路面情報をビッグデータとして活用し始めようとしたときに盛り返すかもしれません。


〈車輪速センサ式〉

車輪速センサの回転数差を演算して検出するもの。
気圧の減ったタイヤの有効径が変わることを利用しています。

特にセンサーを追加することがなく、高速回転するホイールとの通信も不要なのでコスト的に有利です。

とても普及しています。


【あとがき】

走りの根源であるとともに、第1のサスペンションでもあります。

車の進化の中で最も地味で最も大きな役割を果たしてきたと言っても過言ではありません。

ここに書いたことは詳細編と言いつつも、車の運動の中では基礎中の基礎です。


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