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自動車のプラットフォームとは何か

【はじめに】

近年自動車業界ではプラットフォームという言葉を耳にすることが多いです。

しかし残念ながら正しい解釈のもと使われていることはほとんどありません。

 

【プラットフォームとは何か】

一般的にプラットフォームと聞いて、多くの人が想像するのが駅のホームです。

しかし駅のホームとの関連性は皆無です。

近いのはコンピュータ業界のプラットフォームです。

コンピュータの世界ではOSやハードウェアなど、アプリケーションを動かすための土台のことを指します。

例えばWindowsやAndroid、iOSなど。

アーキテクチャ(設計思想)に近いですが、もう少し実体寄りです。

車の場合は開発の土台です。

車の場合はアプリケーションを乗せるといった使い方は(今のところ)しないので、ちょっとニュアンスが違います。

コンピュータよりもアーキテクチャ寄りです。(「アーキテクチャ」を含む名前のプラットフォームもあります)

広い意味でのアプリケーションはそれぞれの車種・製品です。


【なぜプラットフォームが必要なのか】

車という製品は人の生命に関わるとても危険なものなので、安全に関する様々な工夫が盛り込まれ、危険な製品は世に出せないように規制が強く縛っています。

それらの規制をクリアしつつ製品を世に送り出すことはとても労力(=コスト)がかかります。

一方で、ユーザーの好みはとても幅広い多様性があるため、ある車種を心血を注いで注力して作っても好みに合わなければそっぽを向かれます。

なので目的を同じとする部分を共通化して、限りある開発資源を節約するためにプラットフォームを構築します。

同じものを1から作り直すなんて、企業にとっては無駄が多いので当然の帰結です。


【共有化の範囲は?】

この時の「共通化」は部品の共通化だけではありません。

設計の考え方や、規格化も含まれます。

例えば、CANのIDは設計者が決めて良いので
車種毎にバラバラになってもおかしくはありませんが、共通化することで電子系の部品を共通化出来たり、最近流行りのコネクテッドカーでは車両情報の分析なんかに役に立ちます。

CANに関しては以下

各メーカー、各グループで出来るだけ開発資源を共有化するとスケールメリットが出ます。

そして、各メーカー、各グループで得意とするタイプの車が違うので、共有化の範囲も変わります。

なので、「普通プラットフォームはこの部分」なんてことは言えません。

一時期新型車発表の際、盛んに報道されたのは部品の共有化率と開発期間でした。

企業の利益はざっくり言うと投資に対するリターンなのでどれくらい投資が節約できたのか?という経済的な面での報道です。

しかし、部品そのものの共有化を無理に進めるのは得策ではありません。

共有化しようと思うと車の大きさが様々なので、無理があります。
高い車なのに安い車と同じ部分が目に見えてしまうと、購入意欲を損ねます。

そのため共有化のメリットがとても大きい部分だけを注力して共有化します。

人の目から見える部分の差別化は行えるが、中身は同じといった考え方が多いです。


【よくある勘違い】

よくある勘違いは、シャシーのことをプラットフォームだというものです。

確かにシャシーは車を成り立たせる大元で、1つのシャシーをベースにさまざまな車を製品化することもあります。

しかし、シャシー部品は全く違うのに同じプラットフォームだったりするケースが増えて来ています。

今のトレンドでは衝突安全のための構造を共通化することが多いです。
(とはいえ部品が同じとは限らない)

前述のCANの例のように電子制御プラットフォームもあります。


【プラットフォームは最近出来たのか?】

自動車のプラットフォームは最近聞く言葉ですが、プラットフォームの概念から考えると、昔からあります。

それこそT型フォード(量販車の始祖)の時代からあります。

よく新型車発売ニュースで「プラットフォームを刷新」とか「プラットフォームを新開発」とか「新プラットフォームを採用」とかの言葉が踊っていますが、プラットフォームは連綿と受け継がれ、進化するものです。

新型車が目指す姿にプラットフォームの能力が足りなければ新型車開発時にプラットフォームの能力を引き上げ、逆にFMCでプラットフォームの更新により新型車の能力が向上します。

様々な技術的なトレンドを逐一盛り込むので、素材や制御やパワーソースや生産技術の進化が盛り込まれます。


【各社有名どころのプラットフォーム】

〈MQB〉

フォルクスワーゲンのプラットフォーム。

Modulare Quer Baukasten(モジュールクロス構成キット)の略で、従来のプラットフォームの枠を大幅に広げ、各社のプラットフォーム戦略にインパクトを与えたプラットフォームです。

エンジンルーム〜バルクヘッド周辺のみを固定化して、他はスケーラブルな展開ができるように自由度を高めているのでB〜Dセグメントの大きさがカバーできるようになっています。


〈CMF〉

日産のプラットフォーム。

Common Module Familyの略です。

これもMQBの影響を強く受けています。

従来の車体構成プラットフォームに加えて、電子制御プラットフォームも含みました。


〈TNGA〉

トヨタのプラットフォーム。

Toyota New Global Architectureの略です。

MQB思想の影響を多く受けているプラットフォームです。

トヨタは車種の幅が広いので、セクションごとに作り変えが出来るプラットフォームを従来から持っていました。

TNGAでは更に共通化を進めるとともに、低重心化などの商品能力向上も目的に含めています。


〈SPA〉

ボルボのプラットフォーム。

Scalable Product Architectureの略で、名前の通り、大きさの自由度を高くしたことを物語っています。


【あとがき】

プラットフォームは目に見える部分よりも、概念的な部分が多いので分かりづらいと思います。

自動車という製品はハードウェアが主力なので特にその傾向は強いと思います。

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