自動車のメカニズム(AT編)
【はじめに】
AT(automatic transmission)にはさまざまなタイプのものがありますが、ここではプラネタリーギアを使った、いわゆる普通のATを説明します。
最近はCVTが多いので、対比してステップATとも呼ばれます。
かつてはトルコンATと呼ばれてましたが、今はトルコンの付いてないATもあります。
【プラネタリーギア】
遊星歯車とも呼ばれます。
プラネタリーギアは3種類のギアで構成されます。
・サンギア
・プラネタリーギア
・リングギア
惑星の構成になぞらえて「太陽」「惑星」の名前が付いています。
リングギアだけは形状から名づけられていますが。
プラネタリーギアはキャリアに備えつけられていて、キャリアの回転を制御します。
このギアに何につなげるかで変速が変わります。
どれか1つを回し(入力)、どれか1つを固定すると、残りの1つが回されます(出力)。
【プラネタリーギアの動作モード】
1組のプラネタリーギアで8種類の動作モードがあります。
変速比は2種類で入力と出力を変えることで、減速と増速が切り替わります。
以降、簡単な模式図を使って具体的にどうなるのかを説明します。
実際のATとは異なります。
実際のATは複数のプラネタリ―ギアを使って変速操作をしているので現在は6~10速の変速段があります。
【減速:1速】
入力する回転数を減速して出力するモードです。
サンギア:入力
キャリア:出力
リングギア:固定
クラッチの締結に関しては図を見ていただいたほうが分かると思います。
【等速:2速】
変速をしないので、入力された回転数をそのまま出力するモードです。
サンギア:入力
キャリア:入力
リングギア:出力
【増速:3速】
1速の入出力を逆転させて増速するモードです。
サンギア:出力
キャリア:入力
リングギア:固定
【逆転減速:リバース】
入力と反対方向に回転して出力するモードです。
サンギア:入力
キャリア:固定
リングギア:出力
【ニュートラル:1速待機】
入力された回転を伝えないモードです。
信号待ち等のニュートラル制御等で使われます。
全部のクラッチをつなげなければ良いですが、ブレーキを緩めたときにすぐに動力を伝えられるように、あらかじめ他のクラッチをつなげておきます。
サンギア→入力
キャリア→つながない
リングギア→固定
【湿式多板クラッチ】
湿式は液体(ATフルード)に浸されているから。
多板は何枚も板を使うからです。
図を見ると分かりますが、油圧で制御され、圧縮することで締結されます。
クラッチは金属のプレートですが、表面の摩擦材はなんと紙です。
設計や制御に失敗して熱がこもると焼けてしまいます。
【油圧回路(バルブボディ)】
金属の塊に深い穴が迷路のように掘られています。
ソレノイドバルブが横から差し込まれ、迷路の途中の出入り口を開いたり閉じたり制御しています。
図はとても簡略化してありますが、電気の流れる量をコントロールすることで、流す油の量を調整するリニアソレノイドバルブが主流です。
【ワンウェイクラッチ】
昔のATは今の段のクラッチを離して次の段のクラッチを締結するタイムラグで動力の伝わらない空白時間が多く、その間の後退(減速)を防ぐためにワンウェイクラッチという一方こうにしか回らない仕組みが導入されていました。
近年のATでは、ワンウェイクラッチの数はどんどん減らす方向にあります。
【近年の多段AT】
ATも当初はトルクコンバーターの副変速機という位置づけで2~4段とかだけでした。
しかし、最近は10速ATまで登場しています。
〈ラビニヨ式プラネタリ―ギア〉
ちょっと変わった形のプラネタリ―ギアです。
トヨタの8速ATから採用され、多くのATに使われています。
〈ドッグクラッチ〉
ドッグクラッチはMTでも使われますが、ATでも採用されるようになりました。
ドッグはdog=犬のことで、犬の歯のように歯と歯が噛み合うことで力を伝えます。
湿式多板クラッチは回転が合っていないときでもつなぎ始めることができますが、油圧をかけておく必要があります。
ドッグクラッチは油圧をかけておかなくても噛み合いで力を伝えるので効率が良いのですが、回転数が合ってないと噛み合いません。
近年の制御ソフトウェアの向上で、回転数を精密に合わせることが可能となったため採用されました。
【あとがき】
日本では小型車以下の車にはCVTが多く、とても普及しているハイブリッドカーもCVTが多いです。(違う機構ですが)
しかし、ATの歴史上最も古いこの形式のものも進化を遂げています。
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