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イーオンズエンドについての短考察:外殻としてのキーワード効果

先日、戸塚中央さんとイーオンズエンドのゲームデザインについて議論した。
その中で、ゲームデベロップメント上の気付きがあったので文章にすることにした。

当記事はある程度の知識があるボードゲームのゲームデザイナー、デベロッパー、ユーロ文脈のボードゲームファンを対象に書いた。

当記事は、様々な事情で筆者がかなり忙しく、全体について細かく話していく体力がない状態のため、一部分にのみフォーカスした短い考察となっている。イーオンズエンドの魅力は他にもあると考えているが、この記事では触れない。
筆者は110回弱程度、イーオンズエンドを全拡張に渡って遊んでいる。イーオンズエンドレガシーは3周プレイした。
さらに遊んでいく中で、今後考えが変わる可能性もある。

イーオンズエンドが遊ばれ続ける理由はなんだろうか?
ゲームシステム自体が、非常に洗練されているのも理由の一つだと考える。
大きな敵に、味方と力を合わせて戦っていくのはそれだけで楽しいし、予備動作を伴った大攻撃、湧いてくるミニオンなど、デジタルゲームらしさをアナログゲームに丁寧に落とし込んでいる。

しかし、洗練されたゲームシステムのゲームは他にもある。特筆してイーオンズエンドがリプレイされるのには、他の理由があると考えるのが自然だ。
僕は、遊ばれ続ける1番の理由はリプレイアビリティにあると考える。
概念的な言葉なので、正しく記載するために大まかに定義すると、リプレイアビリティとは「プレイヤーがそのゲームをまたやりたいと思うかどうか」である。

多数のゲームが出版される現代において、リプレイされることが難しいのはこの記事でも書いた。「プレイヤーがどのような時にリプレイアビリティを感じるのか」については議論の余地や主張が多々あると思うが、いくつかの例を上げて、少しだけ紐解いてみよう。

例えば、アティワ。
Uwe Rosenberg先生によってデザインされた、非常に洗練された自然の食物連鎖テーマのゲームだ。
プレイすれば、まず間違いなくUwe Rosenberg先生の手腕に驚かされるだろう。
しかし、このゲームを2回、3回と遊ぶとだんだんと飽きてくる。
点数の取り方が、あまりにワンパターンすぎるためだ。1回のプレイで、アティワのほぼ全てを知れてしまう。
軽量級〜中量級のゲームだと、点数の取り方はワンパターンでも良いが、ある程度重量級になってくるとこれでは単調になってしまう。
このことから、リプレイアビリティを刺激するには、点数の取り方(=勝ち方)、プレイの方法が多様である必要がある、と考えた。

次に、デッキ構築ゲームの祖であるドミニオンを見てみよう。
こちらも洗練されたゲームデザインの中量級だが、こちらは膨大なコンテンツ量があり、わかりやすくリプレイアビリティを高めようとしている。
バイアスがゲームに与える影響は極めて大きいため、「膨大なコンテンツ量がある」というのはそれだけでリプレイアビリティを刺激しやすい。
しかし、膨大なコンテンツ量があっても、僕はドミニオンを20回程度プレイして辞めてしまった。
コンテンツを入れ替えても、あまりプレイ感が変わらないように感じたからだ。(筆者がステロ人間なせいかもしれないが)
このことから、コンテンツ量の多さは一定有効だが、それだけでは十分ではなく、プレイ感が大きく変わることが必要であると考えた。

これは余談だが、ドミニオンのように大量のコンテンツを作るのは、ゲームデザイン、ゲームパブリッシングの両面から見て結構大変だ。
面白く創発的なカードの効果にできる要素は(付け足さない限り)限られているし、数字が違うだけのカードになりかねない。それを避けるためには、カード効果をどんどん複雑にしていく必要があり、認知負荷がかかりすぎる。
さらに、カードが増えればそれだけイラスト作業が増え、テキストが増え、ライターさんに依頼し、校正者さんに依頼し.…と高いコストがかかる。

さて、今まで出てきた考えをまとめると
点数の取り方(=勝ち方)、プレイの方法が多様である必要がある
コンテンツ量の多さは一定有効だが、それだけでは十分ではなく、プレイ感が大きく変わることが必要
という感じ。
なんなら一つ目もプレイ感の話にまとめられそうな感じがするが、それについては今度もう少し時間をかけて考察しよう。
これらは抽象的な仮定レベルの話なので、あんまり意味があるものではない。
僕はリプレイアビリティのあるゲームにこういうものを感じている、程度に捉えて欲しい。

さて、イーオンズエンドに話を戻そう。
イーオンズエンドはデッキ構築という構造に、VPP、ボス変更まで組み込んでいるため、コンテンツの洪水と言っていいレベルまでコンテンツ量を増やしている。
これはプレイヤーのバイアスを非常に良くしているが、何回も遊んでいると、デッキ構築としてのコンテンツ、VPPのコンテンツ部分はあまりプレイ感を変えていないことに気付いた。
もちろん、タクレンなどユニークなキャラクターはいるにはいるのだが、似たような効果が結構多いし、キャラクターによってプレイを変えるってことはあまり多くない。
カードもあまり多様ではない。特にSpellは、EchoやPreppedなどを除けばほとんどが「x点を与える」に収束される。
イーオンズエンドに最大のリプレイアビリティを与えているものは何か。言い換えると、プレイ感の変更、プレイの変更をもたらしているものはなにか?
それは、ボスの変更だと考えた。
ボスは1枚のボードと9枚のカードを基本的な構成要素として持つ。
これだけのコンポーネントで、大きくプレイ感やプレイが変わる。これは、ボスの動きを決める「ネメシスデッキ」に秀逸な仕掛けがあるからだ。
ネメシスデッキは、基本カードとボス特有のカード9枚を混ぜて作られる。つまり、全てのボスは9枚を除いて大体同じカードで行動を決定してくる。
これだけ聞くと、大体同じプレイ感になりそうなものだが、実際には全然違う行動をしてくる。
これは、暴走というキーワードが、ボスごとに違う挙動をするからだ。

TCGにおけるキーワードは、大抵の場合効果が決まっている。例えば、デュエルマスターズにおけるダブルブレイカーは、いつ誰が見ても、どこで見ても、「シールドを2枚ブレイクする」という効果の省略だ。

暴走は、戦うボスによって効果が違う。
ある時は「このボスに防御トークンを置く」になるし、ある時は「繭が3回復する」になる。暴走効果というキーワードは、外殻として、アイコンとしてデッキの中に入っているのだ。

これにより、同じコンポーネントを使い回しているにも関わらず、デッキ全体がそのボスに適した挙動をし、プレイ感が大きく変わっている。

いままでも「同じアイコンがゲームごとに効果が変わる」というものはあったが、いずれも味変程度に留まり、プレイ感を大きく変えるには至らなかった。(タイニータウンの得点条件カードや、クアックサルバーのチップ効果など)

イーオンズエンドは、カード内のキーワードにこれを行ったのが本当に素晴らしい。外殻キーワードは、デッキ構築やVPOと近い、ゲームという物自体をメタ的に捉えた発明だ。
これは他のゲームでも転用できるのではないかと考えた。

いくつか、これの転用の例をあげてみよう。
150枚のデッキがあるボードゲームで、プレイヤーは月を発展させることを目指す。
デッキの中には外殻キーワードが3種類、外殻キーワードを効果に含むカードが、それぞれ50枚づつデッキに入っている。
ゲーム開始時に、外殻キーワードの効果を決めるカードを3枚ドローし、それぞれのキーワードは今回のゲーム中はその挙動をする、と割り当てる。
.…こうすると、デッキの効果は毎回大きく変わるので、プレイヤーは毎回違ったプレイ感でプレイできる。前回強かったあのカードが今回も強いとは限らない。

もう少しメタ的に捉えて、外殻キーワードビルドゲームも作れるだろう。
プレイヤーは、外殻キーワードを含む初期デッキを持っている。
最初はキーワードの効果は弱い。1金を得るとかその程度のものだ。
プレイヤーは得たお金で、キーワードの強化を購入できる。
キーワードの強化を購入すると、プレイヤーの初期デッキは一気に挙動を変える。各キーワードが2金を出せるようになる。
…と言った感じ。起動回数などの調整は難儀するだろうが、ワクワクする。

外殻キーワードを使いこなすことができれば、少ないコンポーネントで多様なプレイ感を作ることができそうだ。

イーオンズエンドからは、デザイナーのKevin Rileyのひたむきな学習量とゲームへの愛情が感じられ、非常に好感を持っている。
未プレイの方には、強くプレイをお勧めする。(筆者は2人プレイが好みだ。)


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