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ヤクルトと潰瘍性大腸炎の関係について調べてみた

一般的にプロバイオティクスの炎症性腸疾患に対する効果はある程度認められているかと思います。例えば、私も経験があるのですが、病院の外来で5-ASA製剤に併せてミヤBMを処方されることがありました。また、個人的にはミルミルをスーパーで買って飲んでみたりしたこともありました。

ただ、どうにもこうした乳酸菌製品やサプリメントは効き目が薄いというか効いているかどうか分からないというのが正直なところでした。

そこで、プロバイオティクスと潰瘍性大腸炎の関係について調べていると、以下のようなページが見つかりました。私個人的にはプロバイオティクスの効果に対しては懐疑的でしたが、同時にきちんとした研究結果について調べたこともありませんでした。

今回は中でもヤクルトが公開しているレポートを参考に、ヤクルトと潰瘍性大腸炎の関係について調べてみました。

上記のヤクルトのレポートを読みつつも、やはりアカデミックなジャーナルの確認も行うべく、参考論文[1]の論文を今回はメインに紹介します。

今回の論文の結論

  • 度から中等度の活動性潰瘍性大腸炎患者20人に、従来の治療と並行して、ビフィズス菌発酵乳100mL/日またはプラセボを12週間無作為に投与したところ、臨床的および内視鏡的活動指数と組織学的スコアが改善した。

  • 治療後の臨床活動指数はビフィズス菌発酵乳群でプラセボ群より有意に低かった

  • 治療後の内視鏡的活動指数と組織学的スコアは、ビフィズス菌発酵乳群で有意に低下したが、プラセボ群では低下しなかった。

  • 糞便中の酪酸、プロピオン酸および短鎖脂肪酸濃度の増加は、ビフィズス菌発酵乳群で有意であったが、プラセボ群では認められなかった。いずれの群においても副作用は認められなかった。

論文の詳細

治験内容

この論文の被験者はプロバイオティクスだけでなく、標準治療も並行して行われています。標準治療としてはSASP(500mg錠、3〜4g/日)または5-ASA(250mg錠、2250〜3000mg/日)を用いて行われたとのことです。試験期間中にステロイド治療を受けた患者はおらず、両群の全患者はこの間、他の発酵乳製品を摂取しないよう指示されました。

摂取したのはヤクルト

市販のBFM製品はヤクルト株式会社(東京、日本)から提供されたもので、ヤクルト株ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ヤクルト株ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ヤクルト株ラクトバチルス・アシドフィルス株の生菌を含み、100mLボトルあたり少なくとも100億個であり、毎日100mLを12週間飲むよう指示されました。同じくヤクルト株式会社が製造した、上記の生菌を含まないBFMプラセボ製品が、プラセボ群メンバーの家庭に届けられました。

評価指標

治験効果を測る指標としては以下のようなものが用いられました。

  • 臨床活動性指標スコア

  • 内視鏡的活動性指標スコア

  • 病理組織学的炎症活性

  • 短鎖脂肪酸(SCFA)含量

  • 糞便中の微生物分析

治験結果

  • 臨床活動性指標スコア

    • BFM群のCAIスコアは、12週時点でプラセボ群より有意に低かった(臨床的な症状が改善していた)

左がBFM介入群、右がプラセボ群。時間経過とともにCAIスコアが低下している。
(引用元:Alimentary Pharmacology & Therapeutics, 20: 1133-1141.
  • 内視鏡的活動性指標スコア

    • BFM群では軽度ではあるが統計学的に有意な減少を示した。

左がBFM介入群、右がプラセボ群。内視鏡的活動性指標スコアに大きな差は見られない。
(引用元:Alimentary Pharmacology & Therapeutics, 20: 1133-1141.)
  • 病理組織学的炎症活性

    • 治療開始12週後に4.4±0.3から3.1±0.3に有意に減少した(P< 0.01)。一方、プラセボ群では、スコアは3.6±0.3から3.0±0.4に減少したものの、治療開始前と治療開始12週後の値に有意差は認められなかった。

  • 短鎖脂肪酸(SCFA)含量

    • 試験開始時、プラセボ群とBFM群の間で、プロピオン酸以外のSCFA濃度に差はなかった。12週間のBFMサプリメント摂取後、BFM群では総SCFAsの有意な増加が認められ(P< 0.05)、酪酸とプロピオン酸が顕著に増加した(P< 0.05)。プラセボ群では、各濃度にも総SCFAにも変化は見られなかった。

  • 糞便中の微生物分析

    • ビフィズス菌のうち、B. breveと B. pseudocatenulatumの糞便中菌数は、BFM群で有意に増加したが(P< 0.05)、プラセボ群では増加しなかった。

記事のまとめ

論文中では臨床的なスコアがプラセボ群では改善しなかったのに対してビフィズス菌飲料(BFM)摂取群では改善していた点などを挙げBFMの効果が示唆されていると報告しています。ただ、この研究は5ASA製剤などと併用して進められており、BFM単体での改善ではないことに注意が必要です。

また、論文中では実験前後の腸内環境を調べ、短鎖脂肪酸の総量がBFMでは増加したこと、ブレーべ菌などの菌数が増加したことなどを報告しています。一方で増加幅としては10~20%程度であり、劇的な環境改善とまでは言えない結果になっています。

筆者の見たところ、臨床症状ではBFM群が優位に改善した一方、内視鏡的なスコアではプラセボ群も減少しており差は僅かに見えました。この事からUCの病変の劇的な改善効果というよりはむしろ症状の緩和や腸内環境の改善といった間接的な効果がBFM飲料には認められると解釈できそうです。

論文ではさらに結びとして5-ASAまたはSASPと併用したBFM補給の重要な利点は、副作用や毒性がないことを指摘しています。日常的な血液化学検査や尿検査の結果に大きな変化はなく、アレルギー症状も認められなかったとのことです。

論文中で実際に飲まれたヤクルト製品は?

残念ながら論文中では以下のように紹介されているだけで、どの製品が実験で飲まれたかは分かりません。

ヤクルト株式会社(東京、日本)から提供されたもので、ヤクルト株ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ヤクルト株ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ヤクルト株ラクトバチルス・アシドフィルス株の生菌を含み、100mLボトルあたり少なくとも100億個であった。

Alimentary Pharmacology & Therapeutics, 20: 1133-1141.を筆者日本語訳

ヤクルト株ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ヤクルト株ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ヤクルト株ラクトバチルス・アシドフィルスをヤクルトの製品で含むものを探してみます。

  • ミルミル:ビフィズス菌(B.ブレーベ・ヤクルト株)が100億個以上含まれます

  • BF1:B.ビフィダム Y株(B.ビフィダム YIT 10347)が30億個含まれます

  • 守る働く乳酸菌W200:ヤクルト製品でアシドフィルスを含む製品は見つかりませんでしたが、アサヒ飲料の守る働く乳酸菌W200にはL-92乳酸菌(L. acidophilus L-92)が200億個含まれます。

乳製品がお腹に合わない方には無理に薦められませんんが、ヤクルト飲料を12週間飲むことで今回の論文のような結果が報告されています。治療効果を期待するというよりはむしろ腸内環境改善のためくらいであれば試してみても損はないかもしれません。(論文中の数値の差分などを見ると比較的マイルドな差なので過度な期待はできなそうです)

ご注意

  • 本記事の内容は潰瘍性大腸炎に対する研究結果を紹介するもので、特定の治療法を推奨したり、治癒効果などを謳うものではありません。

  • また、筆者の論文理解が不十分な事がある可能性もありますので、あくまでも参考情報として読んで頂ければと思います。何かあればご指摘ください。適宜レビューし、記事を修正いたします。

参考情報

引用元論文

  1. Kato, K., Mizuno, S., Umesaki, Y., Ishii, Y., Sugitani, M., Imaoka, A., Otsuka, M., Hasunuma, O., Kurihara, R., Iwasaki, A. and Arakawa, Y. (2004), Randomized placebo-controlled trial assessing the effect of bifidobacteria-fermented milk on active ulcerative colitis. Alimentary Pharmacology & Therapeutics, 20: 1133-1141.

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