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カラーで見る斎藤達雄

何気なくテレビで徹子の部屋を見ていたら、岡田美里が出ていた。父を E.H.エリック、叔父は岡田眞澄、元夫が堺正章という芸能一家。母の介護を中心とした最近の生活が、黒柳徹子のツボを押さえた質問の連続で明らかになっていく。下調べも念入りにやっていることも窺い知ることができる。

その日の夜に U-NEXT で「九ちゃんのでっかい夢」(山田洋次監督 1967年)を見た。岡田美里の父、E.H.エリックが変なフランス語を話す殺し屋役で登場している。奇遇を感じた。歌手の坂本九主演のこの映画の存在は知らなかったが、山田洋次の初期の作品を見てみようと思って適当に選んで見始めたら、なんと斎藤達雄が、倍賞千恵子の働くレストランのコック役で出演しているではないか。それもカラーの斎藤達雄を見るのは、私にはちょっとした感動ものでした。

斎藤達雄と言えば、小津安二郎の戦前の作品に数多く登場する名バイブレイヤーである。「突貫小僧」(1929)では人さらい役で、坂本武と並ぶ主役である。この突貫小僧から40年近く経っているのに「九ちゃん〜」での斎藤達雄の姿は、それほど年取っていないのである。年齢を確認すると1902年生まれなので突貫で27歳、九ちゃん〜では65歳である。さらに Wiki 情報では翌年の1965年に肺がんで亡くなっているではないか。「九ちゃんのでっかい夢」は斎藤達雄の遺作だったのである。

「九ちゃんのでっかい夢」は、昔からの脇役と、当時の新人に近い俳優が入り混じって、面白いドタバタ喜劇を作り上げている。日本最初の本格トーキー映画「マダムと女房」の主演の渡辺篤、コメットさんで売り出し中の九重佑三子、三波伸介、伊東四郎のてんぷくトリオ、小津の「お早よう」でテレビを持っている変わり者夫婦の夫役の大泉滉、さらに音楽担当の山本直純が指揮者役でそのまま劇場のオケの指揮者で出ている。

戦前に数多くのドタバタ喜劇を監督したことで知られる斎藤寅次郎の作品を思い起こさせる、昭和感たっぷりの作品にどっぷり浸かることができた。こういった楽しみは、情報を共有できる話し相手がなかなかいないのであるが、私には密やかな楽しみである。

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