JOKERというその男

悪役とされる人が如何にして悪に堕ちるに至ったのか、みたいな話にとても心惹かれてしまいます。
スターウォーズならダース・ベイダーが好きだし、ダークナイトではバットマンより断然ジョーカーに熱を上げました。
「悪役」というわけではないけれど、ムーミン谷の住人ならばモランにいちばん愛着をおぼえます。
ここ最近すっかりご無沙汰ですが、引っ越す前はちょこちょこ通っていた池袋は新文芸坐にて何年か前にダークナイト三部作がオールナイトで一挙に上映され、なんとはなしに観に行ったのがわたしの触れた初めてのバットマンシリーズでした。
(バットマン・・・フーン・・・こうもり・・・)くらいの軽い気持ちで観に行ったわたしは、度肝を抜かれてしまいました。
シリーズ二作目に登場する最凶の悪役ジョーカーが、主役を喰ってしまう程の魅力に溢れていたから。

金が欲しいわけでもなければ人を殺すという行為を目的にしているわけでもなく、ただ誰だって持っているけれども普段はあまり表に出さないような「悪」を炙り出し、人々が壊れていくところを心底愉快そうに見ている。
言葉は届かず暴力は大した痛手を与えず、彼自身はそれほど屈強なわけでもないにも関わらず、マフィアの力を以てしても飼いならすことが出来ない。
スクリーンの向こう側だからこそ呑気に言えることですが、あの突き抜けたキチガイ具合にはすっかり魅了されてしまったし、一抹の羨ましさすら感じました。
だからこそ、映画としては別物とはいえそんなジョーカーをまた別の人が演じるということには(フーン・・?まあちょっと面白くはありませんが・・・)みたいな気持ちがありました。
が、新しく作られている映画がひとりの男が「ジョーカー」になるまでの前日譚のようなお話であるということ、加えて公開前に巻き起こったべらぼうなまでの絶賛の嵐により、いやがおうにも興味を抱かざるを得ませんでした。
そして公開して間もなく観に行った『JOKER』、これはもう・・・すごい映画を観てしまったな、すごい映画を作ったな・・・と思った。
一緒に観た友人は「まるでドキュメンタリーだね」と言いました。
冒頭から人を食ったような態度で笑っているのかと思いきや、自分の意に反した笑いを止められない時の彼はむしろ泣いているかのようだった。
彼が置かれている環境や降りかかってくる災難を「残酷だ」と言うことは簡単だけれど、もしも自分が地下鉄に乗っているときにひとり笑い続けている見ず知らずの男がいたら?わたしはおそらく、暴力は振るわないまでも、言葉をかけることなくその場を離れるでしょう。
時代も舞台も今わたしが暮らしているこことは違えども、それでもそんなに遠い話とは思えないのが辛かった。
狂気の淵を歩きながら、コメディアンになることを夢見て優しい人間でありたかったひとりの痩せた男が、あまりに優雅な舞を経て堕ちていきそして甦るその様は、なんともやるせないハッピーエンドでした。
観終わった後の気持ちは如何とも形容し難く、感情がバラバラになったかのようだった。

愉快な気持ちになる映画ではありませんでしたが、確実に心を鷲掴みにされた映画であり、そしてとても美しい映画でした。
遍く映画というものは映画館でかけられることを前提に作られているわけですから映画館で観るのがいちばん良いなんてことは当たり前なのかもしれませんが、それでもこの映画もまた、おうちのテレビではなく映画館で体感したい映画の一本であると強く思います。
何が本当で何が虚構なのかも分からなくなってくるから、たくさんの観た人たちの感想を聞きたいものである。色んな解釈が生まれて面白そうです。

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