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日曜日のクルーメイト #0060 Hi,what's up?

親愛なる読者諸氏ことクルーメイトへ、いかがお過ごしですか?

冲方は、電子情報世界にはびこるストレージ税から何としても逃れるため、PC、iPhone、iPad、グーグルやドロップボックスなどに保存された大量のデータを、ハーメルンの笛吹き男がネズミの大群を率いるごとく、自前のハードディスクにコピーし、さらにそのバックアップも作るということに血道を上げておりました。

と言っても、電子情報が秒間100メガ弱の短距離ダッシュに励むのを横目に、こちらもせっせと執筆し、データ量を増やしていただけの話ですが。

iPhoneのストレージ代は、アップル税だから仕方ない」などと皮肉交じりに諦める声もありますが、冲方はグーグル税だろうとマイクロソフト税だろうと、断固として拒否することを決意。
映画のチケットをオンラインで購入した際のQRコードのキャプチャー画像など、ゴミとしか言いようのないものを長期保存するために毎月少しずつお金を取られるというのは、どう考えても不条理であり、なんなら不適切と言ってもいい。

そう思い定め、全てのデータを自前で管理するか無料になるまで整理することで、「このままでは容量が足らなくなる! 最安値は月額500円!」と連日連夜叫ぶことをやめなかったiPhoneを、首尾良く黙らせることに成功したのでした。ハレルヤ!

加えて、カテゴリーごとにデータを整理することもでき、手持ちのコンテンツが倍増した気分も味わえます。最高ですね。

トップ画像は、長らく未整理のまま放置していたものの一つで、北極で撮った生シロクマのワンシーン。
二十年分の夏休みをいっぺんに取り戻すべく、大枚はたいてロシアの原子力砕氷船に乗船したのですが、このご時世で同様にすることは難しいでしょう。あのとき行っておいて良かったなあ、と心底思うのでした。

数キロ手前の船上から望遠で撮影。
人間が同じ空間に入るのは死を意味するとのこと。
氷雪の荒野を独歩する獣よ、その凶猛たる尊さよ。


さて。
電子の大掃除を終えたあとの爽快な心持ちで、今週も元気に参りたいと思います。

今週の宣伝

ここしばらく連載のお知らせを続けておりますが、やはり今週も連載のお知らせをお届けしたいと思います。

 『マルドゥック・アノニマス』第42回
 
SFマガジン6月号 4月25日発売 
クィンテット配下のグループ同士が抗争に突入。グループの分裂を促すシザースとマクスウェルが、ハンター陣営を揺るがさんとする。

 『骨灰』第9回
 
野性時代5月号 4月25日発売
2015年、再開発まっただ中の渋谷。解放してしまった「人柱」の原義一を探し回る光弘は、地下の「穴」に支配されていく。


 『マイ・リトル・ジェダイ』第5回
  
別冊文藝春秋 電子版43号・5月号 4月20日発売
息子のためにチームを結成した暢光は、ゲームの大会に出場するために必要なポイントを息子に与えるべく奮戦する。


 『剣樹抄』第16回
 
オール讀物 6月号 5月20日発売   
極楽組の鶴と錦を追って旅をする義仙と了助は、浅間山の噴火後、宇都宮の地に入り、江戸徳川幕府にとっての最大の「敵」に出くわす。


ぎりぎりSFマガジンが届かず、扉絵をご紹介できると思ったのですが、次回のお楽しみに!

投票御礼! 『さよなら、ブラック』相棒の名は?

クルーメイトの意欲的な一票と提案によって作られるお蔵ストック企画が、今週も前進。
主人公とともに時を歩むAIの名が決まりました。

投票の結果、主人公の眠りを管理するAIの名は、「バディ」となりました。
ずっと寄り添ってくれるであろうこのAIが機能不全となり朽ち果ててしまうシーンが胸を打つ予感がしてなりません。

新条拓那さんからのコメントです!

確かに、はからずもBBBとなり、何かの商品名のごとき人物配置となりました。これは作中で、誰かに言及させてもよいでしょうね。「お前たちB組には莫大なコストがかかっているんだぞ」というようなことを言う人物もいそう。

「バディ、まだ生きてるか?」は、時を経るにつれて、気軽でいて重々しい呼びかけになることでしょう。

ぼむちゃんさんからのコメントです!

変幻の地とはなんぞや、とさっそく検索。

なんと、表紙は天野喜孝さんの画! バリバリのファンタジーっぽい印象に、大いに興味津々。
しかしなんと……電子化されていないらしく、中古品を買い求めることになりそう。
浅学の身なれば、こういうご紹介は大変ありがたいことです。

帯ONEさんからのコメントです!

アルジャーノンも良いですね! Bに対するAが来ました。そして無限に賢くなっていきそう。

バディに対抗する存在として、「人間を五万年も生存させることは良いことなのか?」と懐疑しているAIがいてもいいかもしれません。
もしくは、ひたすら賢くなるシステムを「アルジャーノン」と呼ぶのもありかも。
素敵な発想ありがとうございます!

デウカリオンさんからのコメントです!

ブラックに対する言葉に、一工夫して、ライトをチョイスするのは良いアイディアだと思いました。
導きの光か、はたまた自分たちの位置を示す光か。
人物名か、組織名か、システム名か、なんであれ主人公にとって無視できない存在になることでしょう。

森人さんからのコメントです!

AIといえば女性の声で話すというイメージが強かった時期がありますね。高い女性の声のほうが、より人間の認識が早くなるという説をどこかで聞いたことも。

デイジーは良いチョイスですね。とあるディズニー・アヒルの片割れの名前でもあり、一般的に知られた名です。
ちょっかいをかけてくる存在として、ブラックの周辺に配置してもいいかもしれません。

女性名と言えば、こちらのツイート。先週はnoteの許容限界を超えたか何かしたか、途中から転載できなくなっておりました。

新条拓那さんからのコメントです!

アリスもかなり一般的な名ですので、何かに使いたいところ。
極甘党の彼女としては、きっと「ザ・女の子っぽい名前」が恥ずかしかったりするのかも?


さて、ここで新たな投票を、と思いましたが、個人noteの方に設置した企画ページが初期のままですので、いったんそちらに手を入れさせて頂こうと思います。

そちらを整えてのち、それを御覧頂いた上で、またさらに何かしらのアイディアを募り、投票を行いたい次第。

また、このところ個人の創作術noteのほうの更新がさっぱり進んでいないため、そのうちサミットの宣伝用noteと、交互に隔週で更新することになるかもしれません。
(週一で両方とも更新するのは、〆切の都合上、途方もなく無理であることがわかりました)

クルーメイトへのお尋ねの続き

先週は途中でツイートが転載できなくなったため、残るツイートをご紹介し、賢明なる読者諸氏ことクルーメイトから、刺さる漫画作品の教示をたまわらんと思います。

森人さんからのご紹介!

チャンピオンで女子バレエ、という組み合わせにまず驚きました。
どこもそうですが、ジャンルがどんどんジェンダーフリーになっている印象です。

個人的には映画『リトルダンサー』を思い出しましたが、バレエが子どもの肉体に不適切な負荷をかけかねないことにも言及していて、作品としての信頼感が大変素晴らしい。
これはやはりポチってしまいます。

新条拓那さんからのご紹介!

『ファイブスター・ストーリーズ」! 最初期のアニメを見て、グンバツのデザインに驚嘆したのを覚えております。いったい何年前のことでしょうか。

第1話で最終回を済ませているという、安心の物語(?)に加えて、常にテーマもトーンも変わるのが魅力で、冲方もずっと追いかけてましたね。
最近の展開はどうなっているのでしょう。久々に読み返したくなって参りました。

森人さんからのコメントです!

おやおやおやおや、何を仰るのですか。
これはいよいよ分身の術を手に入れるときが来たのでしょうか。
その前に、あのヘルメットみたいなのをかぶりながら仕事をするのはメタバースの世界に行かない限り難しいでしょう。

薔薇肉船舶さんからのコメントです!

そう。あらゆるコンテンツの制作コストが日進月歩で下がっていることから、今後ますます「若手」と「低成長経済国」の参加が容易になることでしょう。

小説においても、歴史物・時代物に若手が参加するようになったのは、電子化により「低価で資料を閲覧できる」ようになったことが大きかったのだと思います。

ただし最悪なのが、ネットによって参加者が増えることで、「クリエイターへの報酬を上げ渋るか、下げる形でのコストダウン」が蔓延すること。

日本のアニメ業界などはこれが本当にひどく、委員会制度の拡大化と複雑化が、利益分配をややこしくし、クリエイターの低報酬化に追い打ちをかけたと冲方は思っております。

ひとたびこうして多数の者がガレー船のオール漕ぎと化すと、当然ながら人材育成に難をきたし、新しいものを作る時間も予算もなくなり、他の業界からコンテンツや人材を借りてしのぐことで精一杯となりがちになります。

それに対し漫画は、大手出版社の漫画編集部が、人材の高報酬化に寄与したことに、業界としての成功の鍵があったのでしょう。
もちろん、だからといって誰もがすぐさま高い報酬を手にすることはできませんが、様々なかたちでチャンスが提供されているさまは、全ての業界が虚心に学ぶべきことと思います。

どの業界でも、より多くのクリエイターが、安心し、やり甲斐を覚えることが普通で、満足かつ幸福となれる世になることを、念願してやみません。


さて。
先週今週と、様々な作品のご教示ありがとうございました。

おかげさまで、ここしばらく忙しさにかまけて漫画と小説の読書を怠けていた我が身を省みるとともに、いよいよ溺れるほどコンテンツを鯨飲したくなりました次第。

しばらくのち、また同じ問いかけをさせて頂くかもしれません。重ねて感謝を申し上げます。

あとがき

先日、「バズってますね」と担当から連絡があり、なんだろうと思って見たら、ずいぶん前のあれでした。

とはいえ面白いのは、バズったのがこのツイート自体ではないということ。
ここに書かれていることを、引用するのではなく、「風の噂で聞いたことがある」とでも言いたげな、どなたかのツイートが、バズったそうです。

結果、こちらのツイートにも反響が跳ね返り、九年も前の呟きを話題にしてもらっているようです。

面白い、と言ってしまうと不適切な面もありますが、同じようなことが過去にもあり、これでなんと冲方が知る限り、三回目となりました。

ある考え方が、それこそ冲方丁という名前が消えた状態で、娯楽か言論かはたまたウンチクの話題の中へ漂い出し、勝手に広まっていく。当然ながら、冲方にはいかんともしがたく、「風聞の鳥」が宛名も差出人も失って飛び立っていくがごとき気分です。

もちろん、こうしたことで感情を害するはずもなく、実のところ、作家冥利につきる、ひそかな満足もあります。
個人の想像力が、やがて「そういうものだ」と大勢を納得させるに至るのですから、誰も知らないところで、ちょっと鼻を高くしたくなる気分、わかってもらえるでしょうか。

一方で、古来の学問を全て学びきったとでも言いたげな、そもそもの学説がどうだから我が言説を聞け、といった不自由な言説もわき出ていると知ると、思わず悪臭に鼻をつまんでしまいます。
そんなときは、下記のように想像的で清新な言葉の連なりを口ずさむことで、後味の悪さをスッキリ消したくなるのが、正直なところ。

(中略)ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほりに書いたまでです。
 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでせうし、ただそれつきりのところもあるでせうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
 けれども、わたくしは、これらのちひさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。

宮沢賢治 大正十二年十二月二十日 記

(中略)わたしはそのころすでに、世の中には想像力が麻痺するか枯渇するかして、単色に近い精神状態で生きている人間があまりにも多すぎることを知っていた。これら想像力に欠ける人々の多くが、単にわたしが理屈に合わないもろもろの恐怖におびえているだけでなく、ほとんどあらゆることを心の底から無条件に信じているという理由で、わたしを憐れむか軽蔑していたとは(少なくとも当時は)露知らず、いつも彼らを気の毒に思っていた。

Sキング『ドランのキャデラック』序文より

インターネットにおける文言は今いよいよ、特定の思想ばかりか、言葉そのものをも、「事実か」「そうでないか」という馬鹿げた二項に分断しつつあります。
アメリカにおける狂乱怒涛の分断がさっそく上陸するかたわら、日本における匿名の濫用が一向にやまず、他人の悪罵に屈服させられるような思いをする人々が後を絶たないというのは、言葉がいかに人々の生活および心を豊かにするか、という観点をあえて無視した態度にほかなりません。

親愛なるクルーメイトにおかれましては、そのような文言からしっかり遠ざかり、健やかな日々をお送り下さいますことを、心から念願する次第です。

*読み返していまいち意図が分からない文章になっていましたので修正しました。

どうか、良き日曜日をお送り下さい。

冲方丁


今週の飯テロ うなぎ蒲焼き ぬりや泉町店

しばらく前、水戸に取材に行った際、ごちそうになったうなぎ。
べらぼうに美味しく、感極まりがっつきました次第。
改めてご馳走様です。

うなぎの油で火事になったこともあると伺い、それはもう、さぞよだれが溢れそうな美臭が漂ったことでしょうと不謹慎なことを思ったのは内緒。

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