見出し画像

なぜ停電が起きたのか。そもそも電気て何だろう?

北海道の地震をきっかけに起きた大停電は、北海道特有の事情があったにせよ、当たり前だった「電気」について、あらためて考える機会となった。電気も含めエネルギーは社会基盤の根幹なのだが、いかんせん、エネルギーは目に見えないので専門家以外の人間にはイメージしづらい。空気や水のように普段は当たりまえ過ぎて意識しないが、なくなって初めてその大切さを痛感する類のものである。今回の大停電については、一部の発電所がダウンしただけで、なぜ北海道全域が停電してしまったのか理解できない方も多いと思う。

そこで今回、この大停電について「交流」「電場」という電気のキーワードから説明を試みようと思った。もし認識に誤りがあったら、それは私の勉強不足。その時はどうかご容赦を。

(1)交流 (Alternating Current)
「電気には直流と交流がある」というのは一度は聞いたことがあるかもしれない。「直流」は一方方向に電気が流れるものを指す。小学校の理科の実験で電池と豆電球を繋いで光らせる実験をしたと思うが、あれは一方方向に電気が流れるので直流である。

そして「交流」。交流とは電気の流れる向きが交互に → となったり ← となったりするものを指す。電気の → ←という向きの変化 を1回とカウントして、1秒間に50回繰り返すものを50ヘルツ(50Hz)、60回繰り返すものを60ヘルツ(60Hz)と表現し、一般的には「周波数が50Hz、周波数が60Hz」などと言う。

通常、発電所から各家庭のコンセントまでの送電は交流である。電気をたくさん使う冷蔵庫や電子レンジは交流のまま使わることが多く、PCなどの小型電子機器は交流から直流に変換されて使われることが多い。PCの電源ケーブルをアダプターと呼んだりするが、アダプターの中でコンセントから流れてくる交流が直流に変換されていたりする。

【ポイント】電気の送電は特定の周波数の”交流”が使われている。

*豆知識 1
聞いたことがあるかもしれないが、日本では東日本の交流が50Hz、西日本が60Hzと、地域によって周波数が異なっている。この違いの由来は明治時代にまで遡る。関東では50Hzのドイツ製の発電機が普及し、関西では60Hzのアメリカ製の発電機が普及したから・・・というのがその理由。ちなみに北海道の周波数は50Hzである。世界に目を向けると国によって50Hzと60Hzで分かれているが、それぞれの国の近代史のなかでヨーロッパもしくはアメリカの影響を受けたことが要因だろう。

*豆知識 2
「直流」と「交流」については、19世紀の発明家トーマス・エジソン(Thomas Edison)と、エジソンの助手であったニコラ・テスラ(Nikola Tesla)の逸話がおもしろい。直流方式はエジソンが考案し、交流方式は当時エジソンの助手であったテスラが考案したものであった。互いに自身の優位性を主張して譲らず、次第に険悪な関係に。直感を信じ、努力と忍耐で泥臭く発明するタイプのエジソンと、数学と物理の理論を駆使してスマートに発明していく若き天才テスラとでは、人間的にも相容れないものがあったのかもしれない。最終的には遠距離の送電には交流が優位ということでテスラ方式に軍配があがり、今に至っている。もっと知りたい方はGoogleで「電流戦争」と入力して検索してみよう。ちなみに、イーロン・マスク(Elon Musk)の電気自動車「テスラ」は、ニコラ・テスラの名前から取ったものである。

*豆知識 3
エジソンが創業した会社はGeneral Electric 。今の「GE」である。創業から100年を超える(!)が、時代の変化にあわせて大胆に事業ポートフォリオを入れ替えていく優良企業として知られている。最近では、世界的な脱炭素化のトレンド(地球温暖化の要因とされる二酸化炭素の排出ゼロを目指すトレンド)を意識して、かつてはエネルギー事業の主力であった火力発電所向けのガスタービン事業から撤退し、風力発電に注力することを表明した。一方のテスラはというと、彼自身は電力会社を創業しなかったが、「ウェスティングハウス(Westinghouse)」という電力会社がテスラ方式を採用して社会に普及させた。この会社、ある時期までGEのライバル企業として名を馳せ、大手の原発メーカーとしても知られていたが、その後の時代の荒波に揉まれ、他社に買収されて事業は消滅してしまった(「ウェスティングハウス」というブランド名だけはライセンスされて残っている)。エジソンとテスラ、個人レベルの争いではテスラが勝利したが、会社レベルとなるとエジソンが勝った、とも言えなくもない。

(2)電場(Electric Field)
日本語では「電界」といったりもする。今回の北海道の大停電は、一部の発電所のダウンが北海道全域に影響したのだが、その理由は1つの発電所の影響が、北海道に張り巡らされた電線を伝わって全域に一瞬で(光と同じ速さで)伝わったからである。その一瞬で伝わるものとは何か。それは「電場」である。電場とは、電子など電気的なものを帯びたものに影響を与える空間の性質である(もっと直感的にわかる説明を考えているけどひらめかない・・・)。金属である”銅”で作られた電線の内部には、電流の有無に関わらず、もともと多くの電子たちがギッシリと詰まっている。そこに電場が発生して電子たちがその影響を受け、特定の方向へ一斉に動く、つまり電流が流れる・・・というわけである。驚くべきことに、電線の中を動く1つ1つ電子の速さはカタツムリ並みの遅さだったりする。電場は一瞬に伝わり、電子はノロノロというのが電流の正体なのだ。

【ポイント】電線のネットワークでは、1か所の影響が”電場”によって一瞬で隅々まで伝わる

*豆知識1
電気には電場(Electric Field)があるように、磁気にも磁場(Magnetic Field)がある。じつは電気と磁気は表裏一体の存在で、電気が流れると磁気が発生し、磁気が発生すると電気が流れるという関係がある。物理学では昔は電気と磁気は別々に研究されてきたが、19世紀にドイツの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェル(James Clerk Maxwell)によって両者は一心同体であることが証明され、「電磁気学」(電気学+磁気学)が確立された。

*豆知識2
「電場が伝わる」と書いたが、より一般的な言い方で表すと、「”電磁波”が伝わる」となる。「電磁波」とは電場と磁場の両者が発生し広がるもの・・・と言えるだろうか。


ここまで、電気の送電は「交流」で行われていること、電線のネットワークでは一部の影響が全体に「瞬時」に伝わるということを説明してきた。ここでいう「電線のネットワーク」とは、いわゆる「電力系統」のことである。

電力系統で重要なのは、常に50Hzもしくは60Hzなどの特定の周波数を維持し続けなければいけないことである。もし周波数が乱れてしまうと、電線同士でつながっている発電所や機械が壊れてしまうのだ。

しかしそうは言っても、特定の周波数を維持し続けることは簡単ではない。電力系統全体で「発電する電気の量」と「消費する電気の量」がぴったり合っていないといけないのだ(専門用語で「同時同量」という)。どちらかに偏ると周波数がずれてしまうからだ。そのため、発電所では昼夜を問わず電力の需要と供給のバランスをチェックし、電力消費の状況によって発電所の出力を弱めたり強めたりと調整することで、特定の周波数を維持している。

今回の北海道の地震では、大きな発電量を誇っていた発電所がダウンしたため電力系統全体の需給バランスが大きく崩れ、結果的に50Hzの周波数を維持できず電力系統全体がダウンしてしまった、ということだと思う。

ちなみに、太陽光や風力で発電した電力を無制限に既存の電力系統に流すことができないのも、これらが気象状況によって変動する電気のため、電力系統の需給バランスを崩す恐れがあるから・・・と説明される。(その判断にも、いろいろ論点はあるのだけど)

今回の北海道の大停電は、これまで日本の高度経済成長を支えてきた、ある意味では効率的・合理的であった中央制御型の電力系統システムが内包するリスクについて、あらためて認識する機会となったと思う。

今後、目指すべき電力インフラはどうあるべきだろうか。私は小規模、中規模の発電システムを多様に組み合わせた「自律分散型」の電力系統だと考えている(中心という概念がないインターネットのような電力ネットワークのイメージ)。

「自律分散化」は電力に留まらず、社会のあらゆる仕組みについて世界中で起きているトレンドでもある。それはゆっくりだが、着実に進行している大きなトレンドなのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?