【発狂頭巾】第八シーズンより『酔狂先生始末』
親愛なる読者の皆様へ
『発狂頭巾』とは、1960年代後半にドラマ化された時代劇シリーズです。何度か中断を挟みながら1970年代に里見浩太朗主演の第三~第五シリーズがファミリー層にブレイク。1980年代以降も山崎努、緒形拳、渡辺謙らが主演を務める長寿シリーズとなりました。2000年代以降はコンプライアンス的な問題もあり映像化が途絶えていましたが2016年に第八シーズンが放映されたことによりに再ブレイク。ハリウッドで映画化もされました。
シリーズ概略はこちら。
今回は2016年の第八シーズンから、豪華ゲストが登場した回の抜き書きをしたいと思います。
『酔狂先生始末』
(これまでのあらすじ)
江戸下町の発狂長屋に身なりの良い浪人が引っ越してきた。どう見ても良家出身の柔和な色男。文武両道ながら仕官を求めるわけでもなく、寺小屋で子供たちを相手ににこやかに過ごしている男だ。子供たちや奥様方にはもちろん、上方出身のせいか金離れが良く話が分かる男ということで旦那衆からも大人気。一件なんの問題もないように思えたのだが、彼にはある秘密があった。
「はい、今日はおしまい!」
「先生ありがとうございます!」「先生ここを教えて!」
「先生!」「先生!」
寺子屋での授業を終えた藤岡は、呼び止める子供たちの頭を撫でながら教室を出る。寺子屋の外には奥様方が行列で出迎えており、取り巻きのグレーター奥様が代表して藤岡に差し入れを手渡す。わざとらしく指を絡める奥様にも距離を保ち、涼しげな応対の藤岡にレッサー奥様方はさらに熱を上げているようだ。
藤岡先生は上方出身の浪人。身形の良さと教養を持ちながら仕官しようともせず、子供たちに手習いを教えるという酔狂ぶりから「酔狂先生」と呼ばれている。
子供たちに手を振りながら長屋へ帰る藤岡。引き戸を締めると途端にしゃがみ込み布団をかぶって震えだしてしまう。「怖い……」
(子供たちを撫でる手が血塗られている)
(指を絡めるグレーター奥様の手首からの流血)
(周囲で微笑むレッサー奥様の首を血が染める)
(それを遠くから眺める藤岡の妻の……)
そのころ発狂長屋の隣室、吉貝京四郎は壁の暦をジッと見つめていた。数刻の間、微動だにしない。(日めくり暦は数か月前の日付を指している)
深夜、寝静まった江戸の町に発狂頭巾の怪鳥音が響き渡る。
「ギョワーッ!!」「ギョワーッ!!」
安眠を妨げられた江戸町民は大激怒。
「発狂頭巾の旦那、最近どうしちまったんだ」
「やっぱり季節的なアレかねえ」
「まいったなあ、あの声を聴くと心が騒いでいけねえ」
「ちげえねえ」
早朝、未だ暦を睨み続ける吉貝の旦那の目元のアップ。その暦の張り付けられた壁の向こうにある隣室は、藤岡の部屋であった。
◆CM◆
吉貝の部屋を訪れる、ハチ。最近評判の藤岡先生の話題や材木問屋がまた買い占めを図っているらしいことを旦那と語り合い長屋を去る。その様子を陰から覗き見する男の影。
深夜、寝静まった江戸の町に発狂頭巾の怪鳥音が響き渡る。
「ギョワーッ!!」「グワーッ!」「ギョワーッ!!」「グワーッ!」
ハチが悲鳴が上がった材木河岸へ向かうと、そこでは惨殺された材木問屋と用心棒たちの姿が。彼らの死体は正視に耐えないほど損壊されていた。
「うっぷ、これはひでえ」
「狂人の仕業にちげえねえ」
「だがこの切り口、並みの腕前じゃあねえぞ」
ハチが材木河岸を離れよう振り返ると吉貝の旦那の影が路地へ消える姿を見かけた。
(まさか旦那がこれを……?)
◆CM◆
「ギョワーッ!!」「ギョワーッ!!」その晩、街路を走り回りながら怪鳥音をあげ江戸市中を走り回る怪人物の姿がある。白い着流しに白い三角頭巾。発狂頭巾? 否、これは我々の知る発狂頭巾の姿ではない!その 白い発狂頭巾の前に黒い影が立ちふさがった。黒い頭巾の発狂頭巾だ。
「材木問屋を殺ったのはお主だな」黒発狂頭巾が問う
「いかにも」白発狂頭巾が応える。
「なぜだ」
「狂人に理由などあるか」
「ならばお主も問うまいな」
抜く手も見せぬ居合切り!!切っ先が白発狂頭巾の胸元を掠める。咄嗟に身を引いた白発狂頭巾は流麗なステップで黒発狂頭巾の左手側へ入り込み抜き打ちをしかけるが黒発狂頭巾は回転して剣閃をいなしながら足払いを仕掛ける。白発狂頭巾は小さな跳躍でそれを避け零距離での柄頭打突!黒発狂頭巾はたまらず後退したたらを踏む。そこへ大上段へ構えた白発狂頭巾の斬撃!!間一髪、なんとか避けた黒発狂頭巾の後方で防火用水が爆発、水しぶきが舞い上がった!!白発狂頭巾は「ギョワーッ!!」と雄たけびを上げる。
「酔狂先生、もうやめにしましょう」黒発狂頭巾、吉貝が問う
「俺のほうが強い、俺のほうが狂っている!」白発狂頭巾、藤岡が応える
長屋で膝を抱え震える藤岡がてふてふを追い回す吉貝の姿を見る。その穏やかな姿に安堵を覚えた藤岡いつしか震えが止まっていたことを知る。藤岡は吉貝に憧れやがて市中を走り回るようになった。
「いっそ狂いたいのだ!おれは全てを忘れ!全てを……」
(血にまみれた腕、変色した女の首、妻を縊る義父を切り殺し出奔する藤岡……)
「ギョワーッ!!」斬りかかる白発狂頭巾と黒発狂頭巾が鍔迫り合いの体制になる。「ギョワーッ!!」「ギョワーッ!!」迫真の藤岡、圧倒的な馬鹿力で吉貝を押し込むが頭巾の下の憐憫の瞳を見てしまう。「ア……」 急激に力が弱まり、正気に戻る白発狂頭巾。黒発狂頭巾は刀を押し返し弾き飛ばす。
「狂っているのは……」
切断!
「俺かお前か!」 カァーッ!
チンッ
白頭巾がはだける。
◆CM◆
桜が散り季節は夏模様である。
「酔狂先生、故郷へ帰っちゃったんだってー」「あら早く教えてくれればよかったのに!」「そんなことよりジョン万次郎先生というアメリカ帰りの先生が寺子屋にいらしてね!」「あら、耳が早いわね!」「オホホホホ」「オホホホホ」
長屋の奥様連中の話題の移り変わりは早い。
藤岡は長屋連中に別れも告げずに江戸を去った。それを見送ったのは吉貝とハチの二人だけである。中山道を歩む旅姿の酔狂先生の姿と、相変わらず長屋でてふてふを追いかける旦那がカットバックされエンディングテーマがフェードインしていく。吉貝の部屋の暦は、真新しい日付を指していた。
発狂頭巾 シーズン8 第127話 (通算2048話)『酔狂先生始末』おわり
『襲来ジョン万次郎!』へ続く。
発狂頭巾シリーズこちらのマガジンに収録されています。みんなも思い出していこう。
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