【発狂頭巾】S2 第二話 「火事と喧嘩は江戸の華」
本記事は #テキストライブ でライブ執筆した内容を誤字修正したものです。(約3000文字 約5分で読めます)
(これまでのあらすじ)
江戸の八百八町を騒がせる狂人、吉貝京四郎。
法や暴力で裁けない社会悪を「狂人特有の理屈」で捻じ伏せる正体不明の男。人々は彼を「発狂頭巾」と呼んだ!
◆◆◆
「てぇへんだ!てぇへんだ!」
今日もハチが大騒ぎで居酒屋に駆け込んできた。
「火事だよぉ!キチの旦那!火事だ!!」
浪人吉貝京四郎は火事と喧嘩が大好き。
底の抜けた柄杓を放り投げると一目散に店の外へ駆け出していった。
「旦那!お勘定!」
女将のいつもの叫びが通りに響き渡った。
吉貝の旦那は猛スピードで江戸の街を駆け抜けていく。裾をたくし上げ下帯がまろびでるのも気にせず駆ける!駆ける!駆ける!
八百屋のスイカを蹴飛ばし、レタスを蹴飛ばし、行き合った魚屋が桶をひっくり返してウニがあたり一面に散乱する!
エッホエッホ! 辻籠を追い抜き!
アラヨット! 飛脚を追い抜き!
吉貝の旦那は煙へ向けて一目散だ!!
「イテテ!ウニ!イテテ!ウニーッ!」
ハチは路上散乱したウニで傷だらけになりながら後を追うのであった。
◆◆◆
発狂頭巾
火事と喧嘩は江戸の華
◆◆◆
「ウーカンカンカン!」
火事はボヤのうちに消し止められていた。屈強な火消しファイター達は自慢の筋肉を見せびらかしている。
「坊や、怪我がなくてよかったな!」
「うん!」
「優ちゃん!」
「おっかあ!」
火事を聞きつけて駆けつけたのは吉貝とハチだけではない。火事の第一発見者である優一少年のシングルマザーも仕事を抜けて駆けつけたのであった。
「心配させて……怪我がなくてよかったよお」
涙ながらに優一を抱きしめる母。
目を細めて眺める二人。だが、抱きしめられ微笑む少年の瞳に浮かんだ影を見逃す吉貝ではなかった。
「ハチ……また火事が起こるぞ」
「へ?」
「今日は帰ぇろう」
「ハイ、おかしな旦那だなあ」
一度落ち着くと吉貝の旦那は背筋の伸びたシャキッとした侍なのだ。二人はゆったりと居酒屋へ帰っていった。
◆◆◆
「へぇー!その子が無事でよかったでござんすね!」
「そうなんだよ、今時良い親子だよぉー」
「……」
居酒屋に帰り着いてからというもの吉貝の旦那はむっつり思案顔。視線を店の四方に巡らせてなにやらぶつぶつとつぶやいている。
「ぶつぶつ……そうか岡場所は……ぶつぶつ……」
「吉貝の旦那はいつも通り、そろそろアタイの気持ちに気付いてくれてもよいもんだけどね」
「ちげえねえ!」
◆◆◆
数日後、夕刻。再び火の手が上がる。またしてもボヤで食い止められた。
ハチがたどり着いた時には、すでに吉貝の旦那が到着していた。
「あれっ、吉貝の旦那!はやいですね!」
「シッ!聞かれておる!!」
「へ?」
「こっちへこい!あの樽を見ろ、密偵が潜んでおる!あの屋根の瓦の下に無数の忍びがおるのがわからぬのか!」
「へ、へい……」
材木河岸に場所を移す。
「するってーとなんですかい? あの親子が騒動の火種だと」
「うむ、あの息子が怪しい。アレはキグルイの顔じゃ。こわいこわい。あやつめ、母に会うために何度でも火をつけるぞ!」
「うへえ!あそこで抱き合ってる親子はとても思いあっているようにみえますがねぇ」
「ボヤは仕事を中断させる!!あの人にまた会えると思ったのだ!」
材木屋の影でこそこそと話す二人(吉貝の旦那は大声)を見守る影あり!影は彼らを見遣り何処かへ去っていった……。
◆◆◆
数日後、夜。謎の影が優一少年と話をしている。
「優一くん、すばらしい調子だ。この調子で江戸を革命の火に包もう」
「でも、僕……町の人たちが怖い顔をしているのが怖くて……」
「気にするな!母上も帰ってきてくれるようになったじゃないか」
「でも、でも……」
「この調子で毎日、江戸を焼こうぜ。派手にやろうじゃねえか」
「そうはさせぬぞ!!」
「貴様は、……何者だ!?」
謎の影に声をかけたのは覆面姿の長身の侍。
(ナレーション)
法や暴力で裁けない社会悪を「狂人特有の理屈」で捻じ伏せる。人々は彼を「発狂頭巾」と呼んだ!
「なんだと!?」
(ナレーション)
市中に蔓延る悪意に敏感な発狂頭巾は悪意を嗅ぎつけ悪を倒すのだ!!
「くっ!そうだったのか!近頃嗅ぎ回っていたのはてめえか!やろうども出てこい!!」
(ナレーション)
ズラリと並ぶ不貞の輩。彼らこそ由井正雪の手下である!
「そこまでバレちゃあ、仕方ねえ!殺せ!」
「何をブツブツ言っておる! 貴様らの悪事はお見通しだ!!」
カァーッ(例の音↓)!!
◆◆◆
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◆◆◆
カァーッ!!
火事と喧嘩は江戸の華!!
吉貝は火事と喧嘩が大好き!
「ワハハワハハ!」
ひとり、ふたりと殴り飛ばし三人目と四人目は頭をかち合わせる!五人目はローキックで膝を逆方向へ曲げる!六人目は投網打ち!七人目にはドロップキックだ!八人目をヘッドロックに捕らえたまま壁を蹴り上り一回転して脳天杭打ち!八人目は体幹を垂直に伸ばして昏倒!
「ウィーー!」
心なしかパンプアップした発狂頭巾は上半身をはだけ片腕を突き上げて勝利の雄叫び!
「貴様ラノ気違イ染ミタ悪行!許セン!」
「なんだこのキチガイは……」
ジリジリと後退する由井正雪……だが、気勢は衰えていなかった。
「てめえはなにも分っちゃいね!江戸、入鉄砲に出女……シングルマザーが働くためにどれだけのことを犠牲にしなくてはならないのか!幕府は何もしない!寺子屋も保育園も足りない!日本死ね!全てを灰塵に帰して……ぶべっ!!」
発狂頭巾の鉄拳制裁!由井正雪は最後まで言葉を継ぐことなく材木問屋へ飛び込んだ!
「何ヲ言ッテルノカワカラン!」
発狂頭巾は赤いファイヤパターンの覆面を脱ぎ捨てると金髪をなびかせて去っていく。
その大きな背中を優一少年だけが見つめていた。
◆◆◆
「昨日そんなことがあったらしいんですよ」
「へぇ、近頃のボヤは由井正雪先生の塾生さんのしわざだったっていうのかい?」
「へえ、なんでも改革の炎を!とかいう言葉を勘違いした過激派のしわざなんだとか」
「由井先生も大変ねえ」
「ちげえねえ。ところで吉貝の旦那!聞いてます!?」
「ちゃぽちゃぽ」
吉貝は水桶の水を穴の抜けた柄杓で掬うのに夢中だ。
「旦那の推理、ひとつも合ってねえじゃないですか。真剣に聞いて損した……」
「まあまあハチさん、旦那の言うことですから」
「ちげえねえ」
「「「アッハッハッハッハ!」」」
「あら、吉貝の旦那まで笑っちゃって!」
「「「アッハッハッハッハ!」」」
天下泰平お江戸の町に狂気の炎が灯るとき
吉貝の心にもまた、正義の炎が燃え上がる
狂っているのは江戸か己か。
狂っているのは江戸か己か。
【発狂頭巾:火事と喧嘩は江戸の華 】おわり
これはなんですか?
解説
1960年代からスタートした痛快時代劇シリーズ「発狂頭巾」の第二作。江戸初期を舞台にダークヒーロー発狂頭巾が法で裁けぬ悪を退治する。三代目発狂頭巾として里見浩太朗が定着するまで発狂頭巾の中身は固定されておらず、体格や素振りで複数人説が語られていた。監督インタビューによるとアクション吹き替えのコスト削減のため体が空いているスタッフが発狂頭巾を演じていたようだ。