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【UO小噺】裸女と兵隊長

幼なじみのベテラン兵隊長アレンとフリッツ。要塞島サーパンツホールドに裸女が出没するという噂を聞きつけ二人は興味深々で調査に乗り出すのだが……。

この記事は #UltimaOnline の基本料金無料に備えて過去のメモ帖を掘り返していた時に発掘されたアイテムをサルベージ再利用するコンテンツです。みんなも #UO やろうね。

01

「出るらしいんだよ」
「何が」
「裸の女がだよ」
「はぁ?」

サーパンツホールド波止場の酒場「大漁旗」で戦士ギルドの隊長級が指し向かいで何事かの話をしている。二人の表情はいつになく真剣で酒場の空気は騒がしくも張りつめている。

「見たって言うんだよ、うちの部下がさ」
「見間違いじゃないか?ほっとけほっとけ」
「そうだといいんだがな……このままだと士気に関わるんだよ」
「そうは言ってもなあ」
「うちの若いもんがな、深夜に兵舎を抜け出して噂を確かめに行ったんだ。翌朝、やつは笑顔で帰ってきやがった」
「裸女に出会った?」
「そうらしい。しかし、詳しいことは覚えていないんだと。それ以来うちの部隊はその話題で持ちきりよ」
「それで士気に関わると」
「いや、それだけじゃない。深夜に抜け出したアホどものうち、半数は笑顔で半数は沈痛な面持ちで帰ってきている。ただの裸女ではなさそうなんだ」
「あぁ、違いない」
「お前の隊に飛び火する前に謎を明らかにしようと思ってな。お前を呼び出したのはそのためだ」

「つまり……」
「そう、つまり……」

「「この調査は決してやましいものじゃない」」

「我々は部隊のために献身的に事件解決へ乗り出した、と」

「その通りだ」

「さすがだなフリッツ。お前の周到さに敬礼するよ」
「そう言うなよアレン。もちつもたれつだろ?」

「あぁ、俺たちは寄宿舎の頃からいつもいっしょだ。乗ってくれるか?」
「もちろんだとも」

アレンとフリッツは腕を交差して乾杯し、そのままエールを飲み干した。

02

サーパンツホールドはブリタニアに勇名をとどろかす要塞島。ところどころに物見櫓とかがり火があり死角は少ないと言える。だが、いくつかの小島から本島に渡る連絡橋上だけは物見からの死角になっていると言う。そこが出現ポイントだというのがアレンの見立てだ。早速二人の隊長は兵士たちの勤務シフトを変更。隊長自らが不寝番を務めるという献身的な態度は兵士達からも歓迎された。

張り込みを開始して三昼夜。裸女は未だ現れない。連絡橋を見渡せる高台に登り絶えず目を配る。過酷な深夜任務であったが二人の気持ちが萎えることはなかった。裸女は深夜に出現すること多いという。(星明りに生白い曲線が浮かび上がっているそうだ)フリッツが目撃証言を伝えるとアレンの目に真剣味が増した。

「まず裸女で間違いない」
「生白いのか」
「なんせ裸女だからな」

(ごくり)(ごくり)

「こんなに緊張するのは久しぶりだな」
「覚えてるか?あのときのこと」
「裸女を救おうとして海へ飛び込んだらイルカだった件か?」
「違う。もう少し前のことだよ」
「じゃあ、女子寮を覗きに行ったときの事か?」
「そうだ。寄宿舎に入ったばかりで心細かった俺をお前が誘ってくれた」
「二人で女子寮の間取りを調べあげ、完璧な位置でスパイグラス(望遠鏡)を構えた。そこまでは良かったんだけどな」
「その日に限って更衣室のカーテンが閉まっていた」
「あぁ、残念だったな」
「完全にマークされてたな、俺ら」
「それからだよな」
「ん?」
「俺たちが生死の境を共にする絆を結んだのは。俺が背中を預けられるのはアレン、お前だけだよ」
「俺もだ。フリッツ、そんな二人が揃ったんだ。必ず……裸女を見つけてやろうな」
「ああ! 裸女に乾杯だ!」

そのとき、連絡橋の上に人影が現れた。
すわ、裸女か!
アレンは銀蛇が彫りこまれた隊長級スパイグラスを橋上に向けた。

橋上の人影は鉄細工師のネドリックだった。
(驚かせやがって)アレンは毒づきながらスパイグラスを下ろした。
「どうした?」「いや、ネドリックが歩いていただけさ」
「細工師がなぜ?」「さぁな、俺たちの同志かもしれないな」
「まぁいいさ、俺たちは自分の仕事を続けよう」

03

哨戒任務は続き時刻はすでに夜半過ぎ。屈強な兵隊長にも疲れの色が見えてきた。
「なぁ、あの日、更衣室のカーテンが閉じていた理由を知っているか?」
「なんだよ急に」
「いいから。お前は知っていたかと聞いているんだ」
「いや?」
「密告だそうだ」
「レベッカを覚えているか?」
「あぁ、俺たちの天使だった」
「彼女からそう聞いた」
「いつの間に……」
「お前が伝説の武器を求めて島を空けていた時期があっただろ。そのとき、彼女の部屋で聞いたんだ」
「アレン、抜け駆けはしないと……」
「それはどうかな」
「なに?」
「お前にそれを言う資格があるのか、と言っているんだ」

二人の間に妙な空気が生まれた。ガラス製の風船のようなあとわずかでも強く押せばきしんで割れてしまいそうな張り詰めた空気だ。

「レベッカは手紙文字に見覚えがあったそうだ。そう、お前の筆跡だよ」
「……」

「お前は俺に彼女の裸体を見られることがイヤだったんだ」
「そうだよアレン。手紙を出したのは俺だ。大切なものは眺めているだけでも良い気持ちになるものだ。だが、お前は思い違いをしている……」

双方共に柄に手をかける。二人のソードマスターの圧力により空気が悲鳴を上げた。フリッツが口を開く。「俺は」

「女だ!」
アレンがスパイグラスを橋上へ向ける。

「なにっ!?」
フリッツがスパイグラスを奪い取ろうと腕を伸ばす。

屈強な肉体の衝突によって弾き飛ばされたスパイグラスは、弧を描きながら木の柵を飛び越えて水面に飛び込んだ。

「くそっ!フリッツ!お前が余計なことを」
「俺の話を聞いてくれ!!俺は!!」

桟橋から連絡橋まではかなりの距離があり肉眼で観察することは難しい。アレンは裸女を目視するべく連絡橋へ向けて走り出しフリッツがそれを追った。

二人の速度は互角、幸運でさえ彼らは等分に与えられていた。
同時に連絡橋上へ躍り出る。目の前には長髪の後姿。二人はスピードを緩めることなく、丸みを帯びた双丘に飛び込んだ——

04

現場を目撃したサーパンツホールド勤務 鉄細工師 レドリック(38)は語る。
はい、それは私がエルフ族のヒューマンへの転生作業を行っていたときのことです。 転生を終えたばかりの「全裸姿」の男性の生白いでん部に二人の戦士が飛び込んでいったのです。

彼らのうち一人は沈痛な面持ちで、もう一人はちょっと嬉しそうな顔で夜明け前の要塞へ帰っていきました。近頃多いんですよね、この手の若造が……。

完(おしり)

★★★

用語と解説

【Ultima Online】中世西洋ファンタジーオンラインMMORPGの老舗。プレイ人類が絶滅したため新たな種族をテラフォーミングするために今春に基本料金無料(F2P)へ踏み切る。

【サーパンツホールド】サーペンツとも。銀蛇騎士団の本拠地である難攻不落の要塞島であり血に飢えた傭兵がたむろしている。長らく特に用事のない町であったが新天地へ向かう洞窟が発見されて冒険者が集まるようになった。

【戦士ギルド】屈強な戦士達が集まる男所帯。皮鎧がくさい。

【転生クエスト】この時期にプレイヤー種族が追加されたためヒューマン族からエルフ族への転生、エルフ族からヒューマンへの転生クエストが実装された。これまで特に注目を浴びてこなかった土地に急にクエストが投下されたためにわかに活況したような、とってつけたようなクエストで混乱が起こったような。

【ネドリックさん】ヒューマンへの転生クエスト担当に抜擢された超常者。彼の手によってエルフ族はヒューマンへ転生できるが生まれ変わった姿は全裸でありダーマ神殿のように無防備。

【アレンとフリッツ】実際にゲーム内に存在する固定NPC。この小説はノンフィクションであり綿密な取材と妄想によって組み上げられた。


(こんなのがいっぱいあります)

追記

※半端なデータの完結編を発掘できたので追加しました。ホメテ!

いつもたくさんのチヤホヤをありがとうございます。頂いたサポートは取材に使用したり他の記事のサポートに使用させてもらっています。