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スモーク・トゥ・ザ・ヒドゥン /ベンダーミミックvsシルバーカラス

この作品は #ニンジャスレイヤー および #ベンダーミミック の二次創作インディー映画小説です。

重金属酸性雨の降りしきるウシミツアワー、バチバチと音を立てて明滅するネオンサインの路地を一人の男が歩いている。

(ブゥゥゥン)多数の自動販売機が居並ぶこの路地はオートレストランと呼ばれるネオサイタマ市民の憩いの場だ。「おうどん」「真のぬくもり」「おマミ」奥ゆかしいネオインサインを掲げるの自動販売機の列を抜け、男は「少し明るい海」と奥ゆかしくショドーされたタバコ自動販売機の前に立ち止まり、おもむろに電磁バールを振り上げ殴りつけた。

ガゴッガゴッ! 数振りで自動販売機は完全に破壊され残りわずかな「少し明るい海」を吐き出して沈黙した。男は「少し明るい海」を懐に入れると後ろ手に電磁パルスグレネードを投げ込みオートレストランを完全破壊して立ち去った。

スモーク・トゥ・ザ・ヒドゥン

《連続自販機爆破事件!! この社会不安を払しょくするためにはいますぐ政権交代だ!!》男はコインランドリーに放置されていた日刊コレワを手に取り見出しを一瞥する。ネオサイタマ市民の生活を脅かす連続テロ事件。しかし、たばこの自動販売機のみを標的とする奥ゆかしさがネオサイタマ市民の好奇心をくすぐりカルトヒーロー扱いするものすらいた。だが、この男にとっては他人事ではなかったらしく苛立たしげにゴミ箱へ日刊コレワを叩き込んだ。

(ゴウンゴウン)洗濯、脱水、乾燥。コインランドリーの工程はまだまだ長い。男はいったんランドリー店を離れたばこ店へ向かおうとして目を疑った。それまでなかった場所にたばこの自動販売機があるのだ。

昨日までなかったというレベルではない、ランドリー店へ入り装束をドラム式洗濯機へ投入して外に出るまでのわずかな間にたばこ自動販売機が出現したのだ。(夢……?)男は目を見開いた。

それは自販機テロ以降、そのメイン標的とされてきた「少し明るい海」の自動販売機であったのだ。しかも、売り切れではない。男は歓喜の表情でトークンをスリットに投入しようとして、アトモスフィアの変化を掴み「イヤーッ!!」フリップジャンプ回避!!「ビルビルビルーーー!!!」直後、自動販売機の取り出し口から何本もの触手が飛び出してきた。《都市伝説級バイオ生物》ベンダーミミックだ!!

男はタタミ3枚の距離を跳び離れ三点着地しながらフードをかぶりニンジャ装束となった。「ドーモ、シルバーカラスです」「ビルビルー!!」異形のバイオ生物へアイサツを決めるとシルバーカラスはコンマ1秒で自動販売機へ接近した。イアイ! しかし自動販売機の鉄分を吸収し鋼鉄鱗を備えた触手がカタナを弾き返す。竜巻のようなカラテ応酬が開始された。

「イヤーッ!」「ビルビルーッ!」「イヤーッ!」「ビルビルーッ!」「イヤーッ!」「ビルビルーッ!」「イヤーッ!」「ビルビルーッ!」「イヤーッ!」「ビルビルーッ!」「イヤーッ!」「ビルビルーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

徐々にシルバーカラスが自動販売機を押し込む。ベンダーミミックの圧力が減じたことを好機とみたシルバーカラスがカイシャクをしようと大振りにカタナを振り上げた瞬間、自販機後方から伸びた特殊な触手がシルバーカラスにまとわりつき放電した。

「グワーッ!?」ZZZT!シルバーカラスは感電し苦悶!

シルバーカラスは電撃に耐えきった。カタナを地面に突き刺してアースとするという対処法を過去のサイバーツジギリで学んでいなければ危うかった。

改めてカイシャクへ向かう。しかし、自動販売機の明滅は弱々しく触手の大半は放電に耐え切れずイカケバブが焼けるような匂いを発しながら自壊を始めていた。弱々しく残った触手を振り上げてシルバーカラスの前に差し出す自動販売機、その指先には「少し明るい海」が握られていた。

その何かを託すような姿にシルバーカラスはいぶかしみつつたばこを受け取る。すると、最後の触手が自壊して崩れおち消滅した。「ピルピルー」その時であった。シルバーカラスが手のひら大のベンダーミミックの幼体を見つけたのは。

それからシルバーカラスは忙しくなった。
自力で餌をとることができない幼体を世話するためにヤキトリやイカケバブを買い込みコインランドリー脇へ届ける毎日。シルバーカラスは危険を避けるために完全に自動販売機として生きることを伝え、幼体もそれに応えた。いざというときのカラテも教えたが軟体生物にカラテが伝わったかどうかはよくわからない。

シルバーカラスは片膝を突き、「上から」拳をゆっくりと下ろし、「下へ。……」ベンダーミミックに真似るように側面を叩く「ああ、多分それでいい。……上から。下へだ。拳を。そう」

しかし、灰色の生活が少しだけ明るくなった。テロ事件により入手困難になっていた「少し明るい海」に困らなくなったことが大きい。好きなたばこを好きな時に吸い、サイバーツジギリを行い、その収入で弟子を育て、穏やかに死ぬ。老い先短い病んだ体に刹那の幸福感が舞い込んだのだ。しかし、その穏やか生活にも不穏な影が近づいていた。

(自動販売機)囲っちゃうなんて」ノナコが笑った。「羨ましいだろ」シルバーカラスは身体を起こし、シャツを手探りで取った。「でも、それって、変なのォ。あなたが保護者? うえー、最近ちょっと変だよね」ノナコが彼の目を覗き込んだ。「そりゃあ、変さ。俺は死ぬんだ」「またそれ。変なの」「……」

その時、カギ・タナカのIRC端末が振動した。

**IRC NOTICE**
Mimi@CR:<タ><ス><ケ><チ>

繁華街を色付きの影と化して走り抜けるシルバーカラス。アトモスフィアはあった。このところ沈静化していた自販機テロがこれで終わるはずはなかったのだ。ヤツは慎重に獲物を選び標的を襲うタイミングを見定めていた。護衛がいなくなる瞬間を!!

◆◆◆◆◆◆◆◆

「ドーモ、ファインドアウトです」

自動販売機にアイサツをするニンジャあり。ファインドアウトはヨロシサン製薬による逃亡ベンダーミミック掃討プロジェクトを受注した傭兵ニンジャだ。逃亡ベンダーミミックが「少し明るい海」に逃げこんだという情報を得て次々と「少し明るい海」販売機を破壊。つまり、シルバーカラスの幸福なたばこ生活を粉砕した元凶である。

「……」

自動販売機は反応しない。

「まあ、いいか。やるべきことをやるだけだ」

ファインドアウトは電磁バールを振りかぶる。その時、飛来したダガーナイフがその腕を捕らえた。

「グワーッ!!」

「ドーモ。シルバーカラスです」

「ドーモ、ファインドアウトです。気でも狂ったのか!? 自動販売機を守るなんて!?」

「ああそうだ。俺は狂ったのさ。老い先短いんでな」シルバーカラスは無感情に答えた。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」

二人のニンジャが激突した。電磁バールの一撃は重かった。小ぶりなカタナを構えるシルバーカラスが不利に思われたが、タツジン! 最小限の動きで打撃軌道をそらし致命打を避け続けている。しかし、ふいにシルバーカラスが咳き込み体勢が崩れる! アブナイ! 

ガキン! 間一髪、電磁バールを鍔迫り合い姿勢で受け止めたシルバーカラスだが、ファインドアウトは電磁バールの放電機能をアクティベートした。

「グワーッ!?」ZZZT!シルバーカラスは感電し苦悶!

電撃に打たれたシルバーカラスは、間一髪でカタナを地面に突き刺して消し炭になるのを防ぐ。しかし、その生命はロウソク・ビフォア・ザ・ウィンド。シルバーカラスは「少し明るい海」に背を預けもたれかかった。

「そんなに大切か、その自動販売機が!!」

ファインドアウトが迫る!シルバーカラスはもはや満足に立つことができず這いつくばりながらも不敵に笑う。

「タバコ無いか。『少し明るい海』。無いよな。あるなら、いただこうと思ってな。お前の死体を漁って」

ファインドアウトは激高!!

「まずはお前の命からもらうぞ!シルバーカラス=サン」

ファインドアウトは電磁バールを大上段に振りかぶり、叩きつけようとする!そのとき、シルバーカラスは自販機の側面を二度叩いた。

「ああ、やるよ。……中身をな」

「ビルビルー!!」
シルバーカラスの餌やりによって成長したベンダーミミックの触手がファインドアウトを捕らえた。「グワーッ!」上から下へ上から下へ。何度も地面に叩きつけられるファインドアウト!!「ビルビルー!!」彼は一気に自動販売機内へ引きずり込まれ、おとなしくなった。

「少し明るい海」が心配げににじり寄ってくる。しかし、シルバーカラスはそれを強く押し返した。

「面倒を抱えるのは俺だ」

「ビルビル……」

「面倒は嫌なんだよ」

「……」

しばらくして「少し明るい海」は何度も振り返りながら雑踏に紛れた。あれだけの養分があれば、十分に逃げ切れるだろう。

「虫の良すぎる話だったな。お前まだ子供だってのに」

シルバーカラスは、深くタバコを吸い。少しだけ目を閉じて祈った。

スモーク・トゥ・ザ・ヒドゥン

おわり



【少し明るいニンジャ名鑑#01】
シルバーカラス
フリーランスの傭兵ニンジャ。たばこの銘柄にこだわるハードボイルドな男。自らの病巣に気が付いており自暴自棄になっていたがベンダーミミックの親子をみて考えを改める。なお、本作の撮影時にカギ氏の出演ブッキングができず過去作の音声素材の流用出演となっている。(試写会にも来なかった)

【少し明るいニンジャ名鑑#02】
ベンダーミミック(成体)
「少し明るい海」に擬態したベンダーミミック。知性はヨタモノより高い。ファインドアウトから逃亡しているうちに偶然シルバーカラスの前に辿り着き、たばこと引き換えに幼体を託して死んだ。

【少し明るいニンジャ名鑑#03】
ベンダーミミック(幼体)
「少し明るい海」に擬態したベンダーミミックの幼体。シルバーカラスに保護されて自販機として奥ゆかしく生きるように教育される。彼のにおいを覚えている。

【少し明るいニンジャ名鑑#04】
ファインドアウト
ヨロシサン製薬にやとわれたバイオ生物捜索ニンジャ。むやみに「少し明るい海」の自販機を破壊して回ったことによりシルバーカラスの怒りを買った。


#DHTPOST

#実在しない映画 

#シルバーカラス 

#たばこ 

#ファミリー向け 

#ニンジャスレイヤー

#ベンダーミミック



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「「「ザッケンナコラー!!ドコイッタコラー!!」」」
クローンヤクザの声が遠ざかっていく。カタナを抱えた女子高生姿の少女が自動販売機の影から身を起こし礼を言った。

「ありがとう、もう行ったみたいだ」

すると、まるで自動販売機が(それ自身に意思があるかのように)自ら移動してバリケードを解除した。それは「少し明るい海」の自動販売機と、少し小ぶりの自動販売機たち。

ガゴン。「少し明るい海」が身体を震わせると取り出し口にたばこが1箱落ちてきた。

「アタイに?」

「アリガトウゴザイマシタドスエ」

マイコ音声が答える。

少女は微笑み「少し明るい海」を懐に入れると目的地のアケガネ駅へ向かって走り出した。


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