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動径シュレディンガー方程式の境界条件

 動径シュレディンガー方程式において、動径波動関数が原点で満たすべき境界条件と原点近傍での振る舞いについて考える。

動径シュレディンガー方程式は次式で表される。

$$
-\frac{\hbar^2}{2m} \bigg[ \frac{1}{r^2}\frac{\text{d}}{\text{d}r} \Big(r^2\frac{\text{d}R(r)}{\text{d}r}\Big)\bigg]
+ \bigg[V(r)+\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\ell(\ell+1)}{r^2}\bigg]R(r)
= ER(r)
$$

ここで$${u(r)\equiv rR(r)}$$とすると

$$
-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\text{d}^2u(r)}{\text{d}r^2}
+ \bigg[V(r)+\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\ell(\ell+1)}{r^2}\bigg]u(r)
= Eu(r)
$$

と簡易な形に書き換えられる。

原点近傍での$${u(r)}$$の振る舞いを考えるにあたり、次の仮定を要請する。

$$
(要請)\quad \lim_{r\rightarrow0}r^2V(r) = 0
$$

この要請はポテンシャル$${V(r)}$$が原点で有限、あるいは発散するとしてもその早さは$${r^{-2}}$$よりも遅いことを意味する。

この要請のもと、

$$
u(r) = Cr^s \quad (r \sim 0)
$$

と置いて原点近傍での$${u(r)}$$の振る舞いを調べる。上式を方程式に代入すると

$$
-\frac{\hbar^2}{2m}s(s-1)r^{s-2}
+ V(r)r^s+\frac{\hbar^2}{2m}\ell(\ell+1)r^{s-2}
= Er^s \quad (r \sim 0)
$$

となる。

(a)$${V(r)}$$が$${r\rightarrow 0}$$で収束するとき
$${r \sim 0}$$では$${r^{s-2}}$$の項以外は無視出来るので

$$
s(s-1) - \ell(\ell+1)=0
$$

を得る。したがって、

$$
s = -\ell,\ell+1
$$

である。

(b)$${V(r)}$$が$${r\rightarrow 0}$$で発散するとき
$${r \sim 0}$$では$${Er^s}$$のみが無視できるので

$$
s(s-1)
- \frac{2m}{\hbar^2}r^2V(r)-\ell(\ell+1)
= 0
$$

となる。しかし、要請より第二項は結局無視できるので、

$$
s(s-1) - \ell(\ell+1)=0
$$

より、

$$
s = -\ell,\ell+1
$$

である。

以上の議論から原点近傍で$${u(r)=ar^{\ell+1}+br^{-\ell}}$$と表せると結論付けていいだろうか。答えはノーである。実際には、原点近傍で$${r^{-\ell}}$$のように振舞う解は規格化条件などから排除される。

このことを確認するために、原点近傍での$${|u(r)|^2}$$の積分を考える。ここで$${u(r)=ar^{\ell+1}+br^{-\ell}}$$とすると、

$$
\begin{aligned}
\int_0^\varepsilon \text{d}r |u(r)|^2 &= \int_0^\varepsilon \text{d}r \big[|a|^2r^{2\ell+2}+(a^*b+ab^*)r+|b|^2r^{-2\ell}\big]\\
&\sim |b|^2\int_0^\varepsilon \text{d}r r^{-2\ell}
\end{aligned}
$$

となり、規格化条件から上記の積分は少なくとも発散してはならないので$${\ell>1/2}$$のとき$${b=0}$$でなければならない。

それでは$${\ell=0}$$のときはどうだろうか。これは上記とは異なる理由から排除される。それは$${u(r)}$$が$${r^{\ell}|_{\ell=0}}$$とすると全波動関数は元の"3次元"シュレディンガー方程式の固有関数とならないという理由である。全波動関数は

$$
\Psi(r,\theta,\varphi)|_{\ell=0}=R(r)|_{\ell=0}Y_{0,0}(\theta,\varphi)
$$

と表され、$${u(r)|_{\ell=0}=b}$$のとき、

$$
\begin{aligned}
R(r)|_{\ell=0}&=\frac{u(r)|_{\ell=0}}{r}= br^{-1}\\
Y_{0,0}(\theta,\varphi)&=(4\pi)^{-1/2}
\end{aligned}
$$

である。これを元の"3次元"シュレディンガー方程式に代入すると

$$
\begin{aligned}
\nabla^2\Psi(r,\theta,\varphi) &\propto \nabla^2\frac{1}{r} \\
&= -4\pi\delta(r)
\end{aligned}
$$

という項が現れる。したがって$${u(r)=br^{-\ell}|_{\ell=0}}$$は元の3次元シュレディンガー方程式の固有関数とならないから不適である。

以上をまとめると関数$${u(r)}$$の原点近傍での振る舞いは

$$
u(r)=Cr^{\ell+1}
$$

である。また、境界条件は

$$
u(r)|_{r=0}=0
$$

である。

(参考文献)
F. Mandl 著/森井俊行・蛯名邦禎 共訳 『マンドル量子力学』 丸善出版

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