失うことで始まる

青春18切符を使って広島から友人のTさん夫妻が訪ねてきてくれた。久しぶりに会うふたりは、以前に会ったときよりも元気な様子だった。


あの頃の二人は勤めていたお店が閉店の危機で多忙を極めていた。体力も気力も削られる日々だっただろう。そのお店は昨年に閉店してしまった。


あの店を心から愛していた二人のことだから、ひどく落ち込んだことだろう。それでもそれぞれ新しい職場で働き始め、新しい生活に落ち着いている様子だった。

こうして遠くからみていると、あの店の閉店は二人に取ってよかったのかも知れないと勝手なことを思ってしまう。

わたしたちの働くのは将来性のない業界だ。あのままギリギリの経営状態であと10年、20年と持ち堪えられたとしたも、それはお店が続く変わりにあの二人がすり減っていく日々だったのではないだろうか。

それも二人にとって本望なのかも知れない。けれど、友人としてボロボロになっていく姿を見ているのはつらい。

こうして二人揃って出かけることができるのもお店がなくなったからだ。お店に捧げていた時間を今はふたりの時間に使っている。

近況報告とたわいのない会話。きてくれて嬉しい。会えてよかった。ふたりのやさしい笑顔を忘れないでおきたい。

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