海のはじまり 特別編と第9話 誰も恋人に選ばれない

全体を貫く選択というテーマのなかで、大きな決断が描かれた2話。

失われるものがあっても、一番大切なもののために選ばなければいけない苦しさと悲しさ。

津野を選ぶことで一番大切な海が一番大切なものでなくなることを恐れる水希。自分の心の弱さを伝えて、納得しないまでも受けれいた津野。

今まで津野は水希の物語の外野として描かれていて、それがみていて苦しかったので、ふたりがこうして分かりあえたことがあったのを知り、わたしはとても救われた気持ちになった。

そして、夏に自分の思いを伝えた弥生。それを受け入れられない夏。津野と水希の関係性よりも、ずっと親密であった夏が受け入れられないのは当然。

だが、視聴者は夏が拒否されることもまた当然だと感じている。何度も描かれるすれ違い。弥生の苦しさに気づかずに傷つける夏。

夏は序盤で決断をせかさないでと行っていたのに、弥生に決断を迫っている。楽だと思ったというセリフは本心だが言い換えが可能な気持ちだと思う。弥生のために伝える言葉を選びなおす余裕がない。海のことが最優先だから。

わたしのなかでは海のペンダントを触ろうとした弥生を制止した夏の言葉が決定的だった。夏は弥生と一緒に海の親になるつもりなら、ああしたことは弥生と相談してやらなくてはいけない。子どものためにすることは、すべて二人で話し合ってから決めるのは当然のこと。

物語の中心にいた夏がここにきて外野になる。父親の回でも外野の辛さを訴えていたが、次元が違った。

弥生の物語とそれを共有してきた視聴者にとって、夏は完全に蚊帳の外になっていた。

外野に追いやられた夏の姿はとてつもなく悲壮だった。

生方美久は前作「いちばん好きな花」で「二人組」になれない人たちが4人でいることで救われる物語を描いた。これはもちろんアンチテーゼになっていた。今までのドラマが恋日を選ぶラブストーリーであるゆえに、そうではない物語を描いてみせた。

「海のはじまり」もまたそうしたラブストーリーのアンチテーゼになっている。

誰かを選ぶ物語ではあるが、誰もが恋人は選ばない。水希は恋人として夏も津野も選ばずに子どもである海を選んだ。弥生は恋人である夏を選ばずに自分自身を選ぶ。

津野は水希を選んだが拒否をされた。夏の前からは水希と弥生が去っていく。

今後の物語では海が何を選ぶのかが焦点になるのだろう。


「海のはじまり」は「はじまり」と「おわり」は同じ場所という意味だろう。終わる場所から次の物語が始まる。

「選ぶ」ことは「おわり」であり「はじまり」

「選ばれない」ことも「おわり」であり「はじまり」

そうだと思えばこの物語は終わらないのだろう。誰もの心の中に水希がいるのだと思えば、水希の物語も終わってはいない。

最終回に何をみせてくれるのか楽しみでならない。


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