坂元裕二作品に触れた人は皆語りたくなる『初恋の悪魔』に寄せて

日本テレビ系2022年7月期のドラマ『初恋の悪魔』全10話が放送終了した。
私も例に漏れず毎話何度も視聴。
物語の切なさに胸を苦しめつつ、今をときめく俳優陣の熱演に毎週心踊らせていた。
坂元裕二脚本の作品が始まったら、とりあえず観ないと!と見始めるが、気付けば夢中。登場人物と一緒に喜んだり笑ったり涙したり。作品から感じられる暖かいメッセージを受け取り、生きる活力になっている。

こんなにも自分の暮らしに還元される物語ってあまりないように思う。
彼は「少数派の人のために書きたい。」と言っているが、それは本当に少数派なのだろうかと思うほど、多くの人の心に届いている。

松岡茉優演じる摘木星砂の二重人格と、そのそれぞれの人格に付随する鹿浜鈴之介(林遣都)と馬淵悠日(仲野太賀)との恋愛模様が物語の一つの軸となっているが、
星砂の場合は、とてもわかりやすい二面性を描いただけで、私たちは様々な場面で違った顔を見せる。その中で多様な関係性を結んでいる。
いろんな人と出会い、手を繋ぎ、それってとても複雑で特別なことなんじゃないかと思う。

自分の中の多様な人格が集まり、折り重なって、自分という人間が出来上がっていく。
星砂(鈴之介のことを好きになった)が星砂(悠日のことを好きになった)を守るために出てきたように、自分で自分を守っていい。
そうすれば、いつか未来の自分が褒めてくれる。
大切なのは自分のままでいること。

星砂の二つの人格が同時に存在することはできないという、どうしようもなく切ない結末で終わり。という脚本ではないところに鈴之介への愛が感じられたし、この作品の本意はここにあるんだなと思った。

本当に会いたい人に会えなくはなってしまったけれど、もう自分は大丈夫だと言えるような経験をした。
「あなたを失うのが怖いんです」と思えるほど好きな相手に出会えること、
「あなたを好きになって良かったです」と言ってもらえること。
その記憶と共に一緒にいる。

かつて「僕が触れると花は枯れ、人は離れる」と言っていた鈴之介はもう彼の中にいないのではないだろうか。
痛みを抱え、強くなった鈴之介。彼の人生はより複雑になり豊かになった。

私は別に鈴之介に共感する部分はなかったけど、
林遣都さんの演技が凄まじかったせいか、鈴之介は本当に魅力的な人だった。みんなそう思っていると思う。




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