適正量が食べられない

 妊娠中の食事療法は、母体の健康維持と胎児の健全な発育に必要なエネルギー量の確保、及び厳格な血糖コントロールを保つことが基本となっている。つまり、母の健康とお腹の赤ちゃんのためにしっかり食事をとりましょう。ただし、空腹時血糖値70〜100mg/dL、食後2時間値120mg/dL未満を目指しましょうということだ(日本糖尿病学会より引用)。

しっかり食事をとることと良好な血糖コントールの両立は、私の身体にとっては難しく、矛盾しているように感じた。食事指導で栄養士さんから教えて頂く適正量を食べたら血糖値がとんでもないことになった。栄養指導中に『適正量でも私はアウトなんです!』と何度も心の中で呟いてはプチ絶望的な気分になっていた。

 私はしっかりと食べることよりも、食事を厳しく節制して薬剤(インスリン)を遣わずに血糖をコントロールさせることがお腹のお腹の赤ちゃんにとってはいいのではないかと思い込んでいた。そして白米は一回の食事につき2〜3口分しか食べなかった。

 糖尿病科の医師からは「臨月になったらとんだけ食事を頑張っても血糖値は下がりません。なので、しっかりたべてしっかりインスリンを打ちましょう!」と言われたが、私はインスリンを打つことを躊躇していた。インスリンを打つぐらいならば、ごはんは食べなくていい、と思っていた。『薬に頼らず、血糖コントロールをしたほうがいい』『食事を厳しく節制したら血糖コントロールはできるはず』と信じていた。

 自己管理ノート(病院から配布された血糖値・注射したインスリン量を記録するノート)には下記のようなメモが残されている。
【糖尿病科の先生に相談すること】
自分としてはできるだけ食事療法のみ(インスリンを使わず)で血糖コントロールしていきたい気持ちがあるのですがいかがでしょうか。
あるいは、だいたいこの食事をとると2時間後血糖値が120mg/dL超えるのが予想がつく時だけインスリンを使用するというのはどうでしょうか?

客観的に考えてみよう。医学的には、どのような時にインスリンを使用すると定められているのか?
Q.どのようなとき、インスリンを使用するのですか?
A.母体の産科的合併症および児の周産期合併症を予防するためには、妊娠前〜妊娠中における良好な血糖コントロールの維持が重要である。妊娠前に診断された糖尿病患者では食事・運動療法で十分な血糖コントロールが得られない場合、食事・運動療法に加えて、インスリンを使用し、計画妊娠を行う。妊娠中に診断された糖代謝異常合併症妊婦では、食事・運動療法のみで血糖管理目標を達成できない場合には速やかにインスリン治療を開始する。

食事・運動療法のみで血糖管理目標を達成できない場合というのは、ドンピシャで私のケースではないか。おなかの赤ちゃんが元気に生まれてくれた今だから言えるかもしれないが、私はインスリンを使わず血糖コントロールすることが目的になっていたが、本来の目的は母体の健康維持と胎児の健全な発育のはずだ。血糖コントールは手段だ。しかしながら、当時は以下のような気持ちになって視野が狭まっていたのかもしれない。

・血糖コントロールが十分できない自分を責める
・インスリンに対してネガティブな印象をもっており、注射療法に対しても抵抗感をもつ
・インスリンをうってしっかり食べることに罪悪感をおぼえる
・インスリンをうつことじたい、食事療法がうまく行えていないのではないかと感じる
・母親だったらおなかの赤ちゃんのために少々きつくても食事・運動療法をがんばるべきと思い込む

【妊娠糖尿病の管理法】については以下のように定められている。
妊娠糖尿病管理のポイントは適切な食生活・適度な運動を中心とした生活習慣改善及び血糖管理である。目標血糖値を達成できないときにはインスリン療法併用による血糖コントロールに努めることが大切である。

適切な食生活・適度な運動って平常時も難しい~!そして、”生活習慣の改善”とか”目標値を達成できないときには”という言葉がチクチク刺さるのは私だけだろうか。

改めて、妊娠糖尿病妊婦への心理的支援は治療と並行して重要だなと感じる。


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