魔法学園で落ちこぼれだと思われていたオカルトマニアお嬢様が一発逆転のために悪魔召喚をする話(仮) 冒頭

 喪服のように全身真っ黒の少女がオルテンシア魔法学園の廊下を駆けていた。
 駆けている、と言ってもその動きはいかにもどんくさく、息切ればかりしている。
 少女は顔のほとんどを覆うように髪を伸ばしているせいで前が見えておらず、対面を歩いていた少年たちのひとりとぶつかった。
 少女は尻もちをつき、持っていた紙束を廊下にぶちまけた。
 急いでいるのとは裏腹に、彼女の生来のどんくささが見て取れる動きだった。
 オルテンシア魔法学園には多くの貴族が通っており、少女も少年も貴族の一員だった。
 実家の身分差こそあれど、学生生活を送るうえでそれを過剰に気にすべきでないというのが学園全体の方針であったし、誰に対しても余裕を持って接することの方が美徳とされていたので、ぶつかられた側の少年は特に怒ったりもせず、少女が落とした紙を拾い始めた。一緒にいた少年もそれを手伝った。
「君、大丈夫かい?」
 少年が手を差し伸べると、目に見えて少女の露出が少ない面積の肌が赤くなった。
 少女は少年の手を取らずに立ち上がると、何故か意味のない愛想笑いをした。笑っていればそれ以上攻撃はされないだろうという、ある種の保身や打算が染みついた対応だったが、貴族らしい貴族である少年たちには意味がわからなかっただろう。
「フ、フヒ……。ぁ……ぁり…………」
 かろうじてお礼を言おうとしたのはわかった。しかし、声は最後まで聞こえなかった。
 差し出された紙束を受け取ると、少女は勢いよく頭を下げ、また逃げるように走って行った。
「……何だったんだ?」
「僕、聞いたことあるぜ。魔法が使えないせいで落ちこぼれて、悪魔学に傾倒したオカルトマニアの子の話」
 少女が急ぎ過ぎていたせいでまた落としていった羊皮紙には、彼らが普段の授業ではまず目にすることのない複雑な魔法陣が描かれていた。
「それって女の子だったのか。初めて知ったな」
「僕もさ。悪魔なんていないのにな。それより、なあ、どうだった?」
「どうって?」
「君はぶつかられたからわかるだろ! 彼女の胸はすごく大きかったじゃないか!」
「そ、そんなこと、ぶつかられてびっくりしたから気にしてられなかったよ!」
「嘘つけ、彼女が走ってる時にすごく揺れてたのを見てたからよけ損ねたくせに!」
 貴族の出とはいえ、親族や教師による束縛がないところでは彼らだって歳相応の馬鹿話をすることもある。
 少女の胸の感触がどうだったかを話してるうちに、彼らは少女が何で急いでいたのかについて考えることはなくなった。

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