断片#005|ふ菓子で撲殺
▲2023年4月20日(木)
悪いものはたいてい「見えない」のである。顔が「見えない」。姿が「見えない」。この場合の「見えない」は完全に見えない訳ではなくて黒い塊によって見えないの「見えない」。つまり顔が「見えない」は顔に黒い塊のお面をしているように見える。姿が「見えない」は全身が黒い塊に包まれているように見える。形を成していない場合もある。紙にマジックかなにかでぐちゃぐちゃと書いたようなやつ。悪いものもそれぞれという事か。そこに多様性はいらないだろ。わかりやすくひとつであれ。
ふとした時に思い出す事。お面をしていたという。Kを酷い目に遭わせた連中の話だ。「酷い目」というのはとてもじゃないけれど書けない。聞いた話を思い出しただけでも耐えられない。しかしKは顔色ひとつ変える事なく淡々とその時の事を話していた。そこまで詳細に伝えてくれなくてもと思ったけれど話を遮る事もできなかったのは何故なのか。
Kは未だに遺影を持っているようだしなんならご丁寧に飾ってあるらしいし趣味が悪いし気分が悪いし当てつけのようにも感じるし真意はわからないし。
罪滅ぼしにできる事は全てやったし現在進行形で全てやっているのだ。もう自分を責める理由は自分で封じ込めたのだ。しかし十年。十年なのだ。まだまだ折り返しだ。
Kの家にNを連れて行ったのはある種の「賭け」だった。Nは悪いものと違って「見える」。明る過ぎて見えないとも云える。Nの明る過ぎる明るさはKも気付いた筈だけれど、その事については未だに何も訊いていないしKも言わないから実際はどうなのかはわからない。
ああ、まただこの時間になると風呂場から不審な音がする。現在住んでいる物件が「事故物件」になってしまった原因は「殺人」だ。しかし妙なもので、被害者が殺されたのはリビングであり風呂場ではない。風呂場は既に息絶えていたであろう被害者が加害者に解体された場所である。亡くなった被害者の怨念ではなく加害者の執念か。生霊みたいなものも時々現れる。やはり一番恐いのは生きている人間かもしれない。