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【短編】窓

星新一の作品をモチーフにしている
題も同じ作品から

ある夜、テレビを点けると奇妙な番組が放送されていた。映ったのは街の景色。暗い夜の街を、街灯とネオンの光が、汚いイルミネーションのように、ただ嵩張るだけの明るさで照らしている。知らない女が夜の街を漂うようにふらふらと、崖に立たせたら呆気なく落ちてしまいそうなほど不安定な状態で歩いている。後ろ姿なので表情はわからない。きっと淀んだ目をぎらつかせて、だらしなく口を開けて笑っているのだ。あんな状態なら無表情の方が不自然で、笑みを浮かべている方がまだ可能性としてはあり得ると思う。
表情は大事だ。どんな不細工や附子でも、ニコニコしていればまず大半の人間からの悪い印象は抑えられる。逆に無表情は、美人なら悪い印象にはならないだろうが、不細工や附子がそれをやれば、まず良い印象を与えない。そしてこの女は恐らく顔のパーツが整っていないだろうし、ニコニコもしていないだろう。ニコニコというのは愛想のいい笑みを形容した音であって、仮に笑っていたとしても、その女がそういう笑みを浮かべているとは思えない。つまり予想するところ、女は所謂附子であり、無表情ではないものの、狂気を孕んだ笑みを浮かべているのだ。その証拠に、擦れ違う人々は女を見てその様に目を見開き、女を避けてまた歩く。更に女の黒く長い髪はぼさぼさで、肌は病的なまでに青白い。履物も履いておらず、幽霊色の足先は汚れているのかうっすらと黒ずんでおり、暗い街との境界が曖昧になっている。ただ着ているワンピースだけは、新品なのか白く輝き、街からも女からも浮いていた。果たしてこれは何の番組なのだろうかと思いながら見続けていたが、面白くも美しくもない。飽きたのでチャンネルをまわそうとした時、女が足を止め、突然振り返った。
病的なまでに青白い肌の顔は、目鼻立ちが非常に整っており、瞳は月のように蒼く澄んでいる。口元には柔和な笑みを浮かべており、その様はニコニコではないものの、にっこりという表現が最も適切だと思った。左に分けた前髪には紅い花の髪飾りをつけていて、その色は白と蒼、黒で構成された女の中で一際目立っている。擦れ違う人々は女を見てその様に目を見開き、女を避けてまた歩く。女は女神のように笑みを湛えたまま、そこに佇んでいる。その姿の上に、光の反射で自分の醜い顔が水鏡のように映る。顔のパーツはちっとも整っておらず、淀んだ目がぎらついていて、だらしなく口を開けたまま見惚れている姿……。

作家修行中。第二十九回文学フリマ東京で「宇宙ラジオ」を出していた人。