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『悟浄出立』はB面の人々

中国古典のスピンオフ短編集。
身もふたもないことを言えば、FGOの幕間みたいな感じです。
ストーリーよりはキャラクターに焦点が当たっている。
ハイテンションな雰囲気の万城目作品にしてはしっとりしている。落語家が人情噺やるみたいな感じだろうか。

悟浄出立

悟浄自身の話というより、彼が八戒の過去を知っていく話だった。

悟浄は、八戒が本当はすごい奴なのではないかと疑っている。
凡人だと思っていた仲間が実はずば抜けた才能を持っていたという事実は、凡人という自覚がある者にとっては脅威である。悟空ならまだしも、八戒が、だ。

そしてやはり、八戒は優れた軍師だった。
悟浄はそれを知っても、悔しがったり嫉妬したりすることはない。

ということは、悟浄の本当のすごさは、自分がまったく平凡な存在だと当然のように受け止めているところではないか。

メタな読み方をすれば、沙悟浄とは最初から脇役として生まれたキャラクターであり、そんな彼が「自分は脇役だ」という自己認識を抱いているという点がなかなかエグいような気がする。

ただ、私は歳を重ねるほどに脇役をやっている自分に劣等感を覚えなくなってきているので、そういう自己認識ってエグいわけでもないのかも。

なお、原作はもちろん『西遊記』だが、より直接的な元ネタは中島敦『悟浄出世』と思われる。

あと、西遊記以前の沙悟浄は「河童=水」ではなくて「沙=砂漠」の神さまだったというネタ、どこかで読んだんですが忘れてしまった。

玄奘との因縁話がなかなかエモかったのは覚えているんだが……。

趙雲西航

趙雲から見た張飛の話。
趙雲については、無双シリーズで幸村に似てる人ということしか知らないため、川に立ちションしたり感極まって太鼓を叩き始めるシーンがシュールに感じた。

これは完全に私の無知のせい。何か元ネタがあるんでしょうか。
無知がつらい。

虞姫寂静

虞美人から見た項羽は軍人でも政治家でもないという、よく考えれば当たり前だけど誰も見たことのない側面を見せるところが、スピンオフ的面白さなんだろうな。

法家孤憤

秦の役人から見た荊軻の話。
そういえば荊軻って男だった……と思ってしまう程度に毒されている。

父司馬遷

娘から見た司馬遷の話。
娘の名前が『栄』なのは、この故事に由来するとのこと。

葛飾北斎の娘も『栄』なので、この父娘関係にもひっかけてるのかなと勘ぐっている。たぶん関係は無い。

BGM

ドラマ『西遊記』の主題歌を聴きながら読んでました。
サントラも持っていたんですが失くしてしまった。

ウッチャンの沙悟浄が好きだった。

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