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これからのリーダーシップ

※この記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業「クリエイティブリーダーシップ特論」の課題エッセイです。授業では、クリエイティブとビジネスを活用して社会で活躍されているゲストを毎回お招きしてお話を伺います。

2021年10月4日(月) クリエイティブリーダーシップ特論 第13回 ゲスト
吉澤到さん / 博報堂 ミライの事業室 室長

吉澤さんは博報堂でコピーライター、クリエイティブディレクターとして長く活躍された後、ロンドン・ビジネス・スクールに留学され、現在は博報堂ミライの事業室 室長として、新規事業開発部門をリードされている。「コピーライターから新規事業のマネージャーへ」のタイトルでご講演いただいた。


コピーライターの仕事

コピーライターは広告会社が関係するありとあらゆる言葉まわりに責任をもたなければならず、コピーとは経営そのものであるそうだ。良いコピーとは、本質をついているけど曖昧さがあるもの。なぜかと言えば、そのコピーに関する人みんながコピーを自分なりに咀嚼する余地があるからだ。確かに、それぞれが考えることでジブンゴト化ができる。

「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」はファーストリテイリングのステートメントであるが、柳井社長もこのステートメントが自身の指針となっていることを語られている。


ロンドンビジネススクールとリーダーシップ

吉澤さんは42歳からロンドンビジネススクールに留学された。印象に残った話として、経営に必要な力は、アカウンティング、ファイナンスなどの「算数」、組織行動論や意思決定バイアスなどの「心理学」、真・善・美の「哲学」の3つであるという話があった。

特に哲学の話は面白く「自分の葬式でどんな弔辞を読まれたいか?」文章化する授業があったとのことだ。要はどのように生きたいかを問われている。


博報堂のイノベーション文化

社会を変えるようなアイデアは一人の天才から生まれるか、それともグループから生まれるかというのは長年行われている論争だと思う。この答えについては、自分はよく分からない。だが、少なくとも博報堂ではグループジーニアス、つまり一人の天才より集団知が勝るというスタンスをとる。そのため、共創が重要視されている。博報堂の打ち合わせでは、集団知を引き出すために様々な工夫がなされている。

また、博報堂の DNA の一つに「生活者発想」がある。人を「消費者」として見ると、消費行動の一側面しか見なくなる。だが、人々がどのような価値観を持って、どのような暮らしを営み、何に喜びを感じるのか、生活を丸ごと見れば商品やサービスの価値を提供できる機会がより広がる。これが「生活者発想」だ。


これからのリーダーシップ

これからのリーダーシップとして吉澤さんが紹介されていたのが『これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。』という論文集にある、システムリーダーシップの話だ。課題が複雑化する中で、一つの解決策を打ち出すのでは足りず、システム全体を変化させる必要がある。このような状況の中で、『問題に関わる多くの人を支援し、「自分も変わるべきシステムの一部なのだ」と気づかせ、それぞれが変化を起こせるように導く』(p.31)ことが必要とされている。これがシステムリーダーシップだ。このシステムリーダーシップについては、この後の感想の3つ目に続きを書きたい。


感想

印象に残った話を3つ書きたい。

1つ目が哲学の話。講義後に行われた質疑応答の時間で、この哲学に関する質問があった。なお、質問内容は忘れた。なので何の回答かよく分かっていないが、吉澤さんは「哲学には時代背景やコンテクストがある。(自分の悩みと)似たものを探す。ヒントをもらう。」と話されていた。

哲学を学ぶ意味として、シンプルにこれが答えだと思った。何か自分が悩みを抱えている時、似た悩みを過去に考えた、しかもそれが歴史的地理的にも批評に耐えてきた人であれば、その人からヒントを得るのが恐らく賢い。

自分も振り返ってみると、東北で震災が起きて心がザワついている時に読んで良かったと思ったのは方丈記だった。また、種子島に移住する前に地域関連の本を多く読んだが、一番役に立ったのは和辻哲郎の風土だった。両方ともその当時の自分の置かれている状況に合っていた。(哲学と古典がすり替わっているように見えるが置いておく)


2つ目は「生活者」というワード。とても良い言葉だと思う。反対語は何か考えると「供給者都合」とか、技術開発の場面であれば「技術起点」となりそうだ。産官学連携の仕事に携わっているが、産学官連携でよくある失敗と聞くのが「シーズベース」になりがちということ。極端なことを言えば、生産者や供給者側の視点でモノやコトがつくられるが、誰も使う人がいませんでした、みたいな怖い話。

シーズの反対語はニーズとなるのだが、ニーズベースという言葉も消費という一側面やユーザーの周りの人への影響を捉えられていない気がして、しっくりきていなかった。だが、ニーズでなく生活という単語を使えば、より高い視座から考えられると思う。

吉澤さんもスマートシティのプロジェクトに現在携わっており、「この技術をお使いください。」との企業とは基本一緒にやらないと語られていた。共創の場において、「生活者を良くするには?」というレイヤーを一つ上にした話をすることを意識されているらしい。この「生活者」という単語、今後使わせていただきます。


3つ目はシステムリーダーシップの話。上記『これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。』の中で、『あまり効果を生めないリーダーは、自ら変化を起こそうとする。これに対し、システムリーダーは、変化が生まれ、その変化が自律的に持続するような状況づくりに焦点を当てる。』(p.37)とある。吉澤さんも講義で紹介されていた一文だ。

感想の2つ目に書いた話と少しかぶるが、自ら変化を起こそうとするリーダーシップは、供給者視点やトップダウンと相性が良いのかなと思う。(他者に)変化を求めるが自己変革の話には触れられず、少しズルさのようなものを感じる。一方、システムリーダーの議論では、自分もエコシステムの一部であるため、変化の際には自己変容も伴う。共創の場を見る際に、各プレイヤーが自己変容を行うオープンさがあるか、は一つ大切な観点かと感じた。


最後に

「クリエイティブバックグランドでリーダーシップに生きたことは?」と最後に質問があったが、「答えがないことへの耐性」、「手を動かしていれば何か生まれるという自信」と回答されていた。

個々の先生が言っていることもやっていることもバラバラなムサビの教育であるが、唯一共通しているのが「手を動かせ」という点だ。先の見えない時代、特に頭だけで考えがちな自分にとって、手を動かす重要性を現在進行形で体感している。手を動かし続ければ何か生まれる自信はまだないが、徐々につけていけたらなと思う。

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