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セレンデピティと不易流行

※この記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業「クリエイティブリーダーシップ特論」の課題エッセイです。授業では、クリエイティブとビジネスを活用して社会で活躍されているゲストを毎回お招きしてお話を伺います。

2021年9月20日(月) クリエイティブリーダーシップ特論 第11回 ゲスト
三木健さん / グラフィックデザイナー、大阪芸術大学教授

三木さんは1982年に三木健デザイン事務所を設立された。ブランディング、アドバタイジング、パッケージ、エディトリアル、空間など様々なフィールドにおいて、五感を刺激する物語性のあるデザインを展開され活躍されている。現在は大阪芸術大学の教授も務められている。

大阪芸術大学で実施されている「りんご」を使ったデザイン教育はとてもユニークだ。普段目にしているりんごを15のプログラムを通して、徹底的に観察しデザインの理解を深めていく。このプログラムは受けてみたい。いかに自分がモノを見ているようで、見ることができていないか気づかせてもらえそうだ。

最近では、兵庫県立美術館で行われたコシノヒロコ展のディレクションを手掛けられている。コシノヒロコさんと対話を重ね、「未来へ」というコンセプトをつくった。美術館に足を踏み入れた瞬間からワクワクする仕掛けが施されており、自分も行ってみたかった。(展示は既に終了している)

授業では、三木さんがデザインの仕事や教育において、心掛けていること、意識していることを教えていただいた。キーワードは多くあったが、今回は自分が印象に残ったものを2つ取り上げたい。


セレンデピティ

デザインを行う際に発想が重要なのは言うまでもない。三木さんは良質なアイデアを生むためにセレンデピティを意識している。セレンデピティとは、偶然に思いもよらない幸運を発見する能力を指す。カタカナにすると難しいが、「偶然」に出会う打席数を意図的に増やすことが必要で、もっと簡単に言ってしまえば、「いかに道草を食えるか」がセレンデピティを高める鍵となる。

例えば、三木健事務所では本棚を整理することを禁止している。取った本は元の位置に戻さなくて良い。そうすると目当ての本を見つける間に、本来の目的と関係ない本に多く出会える。目的との関係ない本に書かれているワードやビジュアルが、今までになかった発想を生み出すことがある。

この話を聞いて、くまモンの生みの親である小山薫堂さんの「神様にフェイントをかける」という言葉を思い出した。いつもと同じ帰り道でなく、違った道から帰ってみるなど、普段の自分がやらないことをやってみることで新しい出会いや発見があるという意味だったと思う。普段の自分がやらないことを「神様にフェイント」というのがおしゃれだ。このセレンデピティは、一流のクリエイター、デザイナーには重要な能力なのかもしれない。

自慢じゃないが、これまでの自分は道草を食い続けてきた。だが、自分の場合は道草を食いすぎて本来の目的を見失うことが多い。これが活躍されている方と自分の違いなのかもしれない・・・。


不易流行

不易流行とは、松尾芭蕉のつくった言葉で、伝統(不易)を踏まえつつ新しいもの(流行)を取り入れていくことが大切という意味を持つ。三木さんのお話では、デザインをする際に「何を残して何を新しくするか」を見極めるという意味で不易流行という言葉を使われていた。

仕事で地域に関わることが多いが、これからの地域社会のデザインにおいて、この不易流行という概念は重要となっていく気がしてならない。日本全体が人口減少を迎える中、特に過疎化が進む地域では、インフラ、文化、産業などの維持が難しくなる。国が一つひとつの地域を救うことも困難で、地域ごとに自立が求められる。

地域に住む人には、住む地域に対する思いや愛着がある。その思いをちゃんと言語化し、大切なものを残すため(不易)に何を変えていく(流行)必要があるか議論していかなければ、住民が主体性を持って持続可能な地域をつくることは難しいと思う。

お恥ずかしい話、三木さんのお話を伺うまで、不易流行という単語を知らなかった。仕事で地域の人と関わる際にこの単語を使わせてもらいたい。


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