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少しでも多くの人を幸せにしたい ~KAGANHOTEL 日下部淑世~

京都の今を生きるU35世代の価値観を集めたメディアです。
「京都市基本計画(2021-2025)」を出発点に、
これからの京都、これからの社会を考えます。

今回は、職住一体の共同住居『KAGAN HOTEL(河岸ホテル・以下、KAGAN HOTEL)』を経営する、日下部淑世さんにお話を伺いました。

KAGAN HOTELは下京区に建つ、コミュニティ型アートホテル&アートホステル。若手の現代アーティストの住む、職住一体の共同住居です。
日下部さんが大事にされている価値観「# みんなの力で、みんなをもっと幸せに」「#人と人の間の矢印は双方向である」「# 個人の面白さを大切に」 について迫ります。

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少しでも多くの人に、幸せな時間を過ごしてほしい

───普段、どのような活動をされていますか?

私たちは「株式会社めい」として、不動産の企画運営や売買、コンサルティングの事業を展開しています。大学卒業のタイミングで職住一体型のシェアハウスを始め、そのうちの一つKAGAN HOTELは「若手現代アーティストと世界を繋ぐ滞在型複合施設」をコンセプトに、2019年11月にオープンしました。もちろん、アーティスト以外の方々の宿泊も大歓迎ですよ。

事業のスタートは、自分たちや同級生たちの卒業時の悩みがきっかけでした。それぞれが夢を持っていても、「仲間や場所、お金がない」といった理由で諦めてしまい、就職をするという選択肢を選ぶことが多かったように思います。どうすれば、夢に打ち込める状況をつくれるんだろう。色々と頭を悩ませた結果、職場と住居が一緒になっている場所をつくれないだろうかと考えついたんです。

また、のちに共同創業者となる扇沢友樹は、出会ったばかりの頃「温かい不動産をつくりたい」と言っていました。夢と強い想いを持っている彼のことも、当時の私はアーティストではないかと思ったんです。彼の夢を応援しつつも、他の同世代たちと一緒に幸せになれる構造をつくりたい。そんな風に考えたことがきっかけです。


───日下部さんの中で、「幸せ」はどのように定義されていますか?

どんどん考え方は変わっていますが、今は「自分が納得のいく時間の使い方と、仲間に恵まれている状況」ですね。

大学を卒業したときは、「仕事と家族を両立できること」だと考えていました。家族というのは、結婚した夫婦だけでなく、様々なかたちがありますよね。友達と一緒に住むこともそうだし、周りにいる人たちに恵まれていることも、離れた大切な人がいることも、みんな家族とも呼べると思います。

また、一般的に仕事って、人生の3分の1以上を使うものですよね。毎日のように向き合うものだからこそ、我慢するのではなく楽しくしていきたいという考えも、一緒に持っていました。ただ、すべての人が、好きなことを仕事にできるわけではありません。自分自身の考えや定義を押し付けてしまっているだけでは、人を不幸にしてしまうこともあると気づきました。

そういった流れもあって、今は幸せとは「自分の納得のいく時間の使い方」と定義するようになったんです。

───価値観が変わっていったんですね。

これまでの社会では、もともとの家族や住んでいる場所、職場でコミュニティが形成されることが多かったと思います。しかし、そのほとんどは、自分自身では選択できないもの。そこだけに居続けてしまうと、精神的に疲れてしまうこともありますよね。

家庭や住居、仕事先以外のコミュニティを、一人ひとりが複数持てるような社会になったら良いなと思うんです。例えひとつのコミュニティで失敗したとしても、他の場所に逃げられるように。「ここでしか生きられない」と思い詰めるのでなく、たくさんの選択肢を持つことは、きっと幸せにつながる手段のひとつだと考えているんです。

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日常を拡張すれば、幸せがやって来るかもしれない

───仕事をする中で、印象に残っているエピソードはありますか?

私たちは、「日常を拡張せよ」というキャッチコピーで活動しています。日常の中に、非日常をミックスさせる。そのような取り組みをたくさん行っているんです。

例えば、運営しているシェアハウスでは、仲間同士だけではなく、私たちがいなかったら出会わなかったような人たちに入居していただきたいなと思い工夫してきました。ある意味パラレルワールドのようなものを意識しているかもしれません。もちろん、共同生活の中で葛藤もあると思います。そんな状況の中でも談笑したり、ご飯会をしたりと、想定されていなかった仲間との幸せな日常の状態がつくり出せているような気がします。

本来交わらなかった人生が交差して、幸せが生まれていく。そして私たち運営者がいなくても、幸せな状態がある。そんな状況が作れたなら、私たち運営者にとっても、何よりの幸せです。コミュニティ内で出会い、結婚したメンバーたちが挨拶に来てくれる時は、ものすごく感動します。

───京都を拠点に事業をする、魅力はありますか?
 
京都は歴史の重厚感が話題になることが多いですが、大学も多いため、未来をつくる若者がたくさんいるのが大きな魅力だと思っています。これから先、歴史も若者もずっと消えないでしょうし、きっと一生京都で暮らしていっても飽きないと思います。

そして、海外の方や国内の他の地域の方から見て、魅力のある街と考えてもらっていることも大きいですね。人も情報も、出たり入ったりするので、どんどん新陳代謝が生まれてくる。私たちは小さなコミュニティから色々な実験をしていますが、ここで生まれた価値観も、いずれは日本中、世界中に広がっていくかもしれないと考えるとワクワクしますね。

───京都の同世代の方や、学生に対して、期待していることはありますか?

みんな、既に面白いですよね。きっと京都の若者って、もう様々なチャレンジを続けている世代だと思っています。私のまわりのみんなも、環境を整えて、自発的に動いていますし。

ただ、今はどうしても先行きが見えない世の中。目の前のことで必死になって、なかなか先のことまで考えられなくなることも多いと思います。この先どうなるかは分からないけれど、たまには未来を考えて、どういう行動ができるか考えてみるのも良いのかな。そうすると世の中って、もっと良い方向に変わってくると思うんです。環境がどんどん変化し、10年後、20年後に手遅れにならないよう、同時進行で今の幸せを感じながら、未来の幸せも見つめてほしいなと考えています。

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住居は最強のコミュニティ

───今後、京都も変わっていきそうですね。

これからの10年、20年で、どんな人が京都に残ってくれるかが、すごく大事だと考えています。魅力的な人たちが移住してきてくれたら嬉しいですが、それだけだと土地の値段は高騰しますよね。そうすると家賃も高くなり、結局また出ていかれ、空洞化してしまうかもしれない。人を呼び込むだけでなく、きちんとその後の暮らしのことも考えなければいけません。

また、人口が減ると、一人あたりが使える土地が広くなりますよね。同じコミュニティや地域の人同士で集まって、余った土地をどうやって使っていくか考えたら、そのエリアが面白くなるきっかけにもなると思うんです。

土地の高騰化を防いで、面白い人たちに留まってもらうこと。土地が余ったとしても、新しいきっかけが生まれるような取り組みをしてみること。これからは、そんな活動もしていきたいですね。

───最後に、これから挑戦していきたいことを教えてください。

挑戦したいのは、学生寮や社員寮。若者たちが切磋琢磨できるだけでなく、建物にメンターがつく仕組みをつくりたいです。メンターが若者に教えるだけでなく、若者からメンターも学べるような、双方向の矢印ができたらなと思っています。

コロナ禍で、世の中は大きく変わりました。学生たちも就職先がなかったり、働き始めてもリモートワークばかりになったりと、不安になる人も多いと思います。「場所がない」ことって、やっぱりしんどいですよね。だからこそ、住居は最強のコミュニティだと思うんです。家での暮らしが充実したら仕事も頑張れるし、仕事で満足した後は、帰ってきてからの時間も楽しくなりますよね。

ここKAGAN HOTELも、まだスタートしたばかり。これからも京都で、たくさんコミュニティの実験をしつつ、少しでも多くの人を幸せにできるお手伝いができたらなと思います。

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インタビューを終えて

初めて知った職住一体型のホテルにお邪魔させていただきました。「幸せ」を目指して生きていく人は決して少なくないこの世の中、「幸せ」の実体をきちんと考え、それを事業にする日下部さんの話に含まれている熱意を強く感じました。
コミュニティの形は、引きこもりのままでは「幸せ」というゴールを狙いにくいです。自分の居場所を広げ、他人と双方向の矢印を描くことが、これから突破すべきことだと日下部さんの話を通じて知ることができました。貴重な話を、本当にありがとうございました。

今回集まった新しい価値観は3つでした。

「# みんなの力でみんなをもっと幸せに」
「#人と人の間の矢印は双方向である」
「# 個人の面白さを大切に」

※本記事は、京都市の委託に基づくものです。

プロフィール

日下部 淑世
株式会社めい ファウンダー

2011年同志社大学経済学部卒。『アーティストの幸せとは何か』をテーマに様々な形態のアーティストにインタビューしながら、コンテンツ産業を専攻し、産業の成り立っている業界構造について学ぶ。大学卒業のタイミングで株式会社めいを設立。人口減少社会における不動産と同世代の働き方に関連した、職住一体型共同住居の企画運営を行う。2019年11月、アーティストが住みながら制作でき、販売したり働くことのできるKAGAN HOTELをオープン。


<HPリンク>
KAGANHOTEL
https://kaganhotel.com/

株式会社めい
http://mayshare.chu.jp

取材・文:張 周迎(立命館大学映像学部)
編集:小黒恵太朗

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