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友禅の魅力を届けたい〜染色作家・図案家 奥野むつみ〜

京都の今を生きるU35世代の価値観を集めたメディアです。
「京都市基本計画(2021-2025)」を出発点に、
これからの京都、これからの社会を考えます。

今回お話を伺うのは、京友禅の染色作家として活動している奥野むつみさん。

奥野さんが大切にされている「#自分を輝かせるドレスのようなキモノ」「#友禅を憧れの存在に」「#伝統を繋いでいく」について、お話しいただきました。

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職人になるまでの道のり

───早速ですが、普段の活動内容について教えてください。

普段は木村染匠株式会社で京友禅の染色作家として活動しています。。1日のスケジュールは、日によって様々ですが、朝にSNS等で木村染匠の活動を紹介し、日中は来客対応や職人さんたちのところへ外回り、企画書の作成、そして新作キモノのデザインや友禅といった職人仕事を行います。納期が重視される業界なので、時には作業が深夜に及ぶこともありますね。その合間を縫って自分のやりたい染色についても追求しています。

普段作っているもののほとんどがBtoBで、百貨店の店頭や呉服店の催事で販売されるキモノです。下請けで制作するキモノはもちろんのこと、デザインの模倣を防ぐためにも、販売するキモノのことを発信するのはこれまではタブーだったんです。でもお客様に『モノ』だけでなく『キモチ』も届けていく時代が来ていると感じていて。さらに、コロナ禍で制作数が減る中、どう生き残っていくかを考えなければならない状況で、若い世代の方々にもキモノの魅力を知っていただくために、自社に版権のある作品についてはSNS等でどんどん発信しています。コツコツ発信していく中で、結果として、BtoCの販路が拡大していると実感していますね。


───染色作家になられたきっかけを教えてください。


思い返すと、最初にキモノを好きになったのは3歳の頃でした。当時、出席した結婚式で着せてもらったキモノが忘れられなくて、キモノに魅力を感じるようになりました。祖母がキモノ好きだったこともあり、幼い頃は七五三やお正月にキモノをきせてもらいました。でも、成長するにつれて他に特別なことは何もなく、イベントや夏祭りで浴衣を着たりするくらいしか関わりしかなかったんです。それが成人式で振袖を着せてもらって、キモノへの情熱が再燃しましたね。
職人になる前は、大学で日本画を専攻していました。何かキモノに関わる仕事がしたいと思い、在学中はウエディングやイベントで着付けを行う着付け師を目指していました。その時も染色を仕事にすることは全く考えていなかったんです。でも偶然、大学の後輩の紹介を受けて京友禅の工房に入り、この業界で働くことになりました。


───職人の道に進むのはかなり覚悟が必要だったと思います。

そうですね。工房に入るまではどんなに大好きで勉強していても、趣味の範囲でいることしかできませんでした。絵を描くことも私の中では好きなことだったのですが、まさかこれらが仕事になるのかと驚きました。同時に、私の好きなことで人を喜ばせることができるのならやってみたいと思い、家族を説得してこの道に進みました。

工房に入ってからは約10年、師匠の元で修行期間を過ごし、その後、独立して3年弱ほど作家として活動していました。

弟子入りしていた頃は日本画調の師匠の作風を手本とし、アシスタントをしながら技術を学びました。京友禅の柄にはたくさんのパターンがありますが、先生の作風はセミフォーマルのキモノにあたり、上品で情緒的なキモノでした。そういうキモノも素敵で、この技術を次世代に繋ぎたいと思って技術を研鑽していましたが、私自身が「着たい!」と思うものとは少しズレがあったんです。
独立してからは、作家としてキモノのプロデュースなども行い、実際の販売に関わったりもしながら、自分の好きなものを大切に、『自分を輝かせるドレス』のようなキモノを作り始めました。


───活動の好きなところや魅力を教えてください。

私の作品を着てくださったお客様が「嬉しい!」と言ってくださる瞬間が一番好きです!お客様が「このキモノを作ってくれてありがとう」と言ってくださることに何よりもやりがいを感じます。

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キモノを通して成長する

───最近の活動の中で特に印象に残る出来事を教えてください。

京都市の「未来の名匠」という認定を受けたことです。それまでは、自分の技術を磨き上げることや生活を安定させることを考えていましたが、この認定を受けて、もっと京友禅業界全体のことを考えて後進を育てていく立場に自分は来ていると明確に感じ、職人として新しいフェーズに入ったと意識するようになりました。

─── 一方で友禅を始めた当初は苦労したこともあったと思うのですが、その中でも印象に残っていることはなんですか?

弟子入りしていた頃は、大学で日本画を専攻していたことを買われて図案を担当しており、生地を触るチャンスがなかなかありませんでした。ありがたいことに師匠は「職人として独り立ちするには自分で一反のキモノを作れる必要がある」という考えだったので、作品展の前には毎日夜遅くまで残って、自主制作の作品作りをさせてもらえました。その時はすごく辛くて、自分がどの立ち位置にいるのかも分からない状態でした。自分が成長しているのかもわからないし、売り場にも立たないのでお客様がどんな反応をしているかも分からず、師匠の名前があるから作品が売れているんじゃないかと思ったり……。
売れないロックバンドを続けているようで「これゴールどこ!?」という葛藤がすごくあったのを覚えています。

それにキモノは分業で作るので、どういう風に伝えれば自分が思った通りに加工してもらえるのか、最初はお願いする職人さんに意図が伝わらず苦労しました。分かりやすいメモをつけたり参考資料を用意したりと、自分の意図を正確に伝えることは、今でもとても意識しています。

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友禅を憧れの存在に

───今のスタイルのキモノを製作するきっかけはなんですか?

自分がどういう風にキモノを着たいのか、そしてお客様はどのようなキモノが欲しいと思っているのかを問い続けた結果今のスタイルに繋がったと思います。宝石などのモチーフやキラキラの表現は人気があり、今後も発展させたいです。

───和装文化を広めるために必要なことはなんだと思いますか?

友禅は堅苦しいものではなく,身近にあることが大切だと伝えたいです。例えば海外のハイブランドのように、みんなが知っている憧れの存在になって欲しいです。さらに、京友禅は衣類の枠を飛び越えて、美術的な価値があるものだと思うんです。そういう面をもっと知って欲しいです。  

───まだまだ一般的には敷居が高い印象ですよね。

より多くの人がキモノに触れやすいように、コストを抑えて友禅を提供するという手もあると思うんです。でもどんなに頑張ってもコストカットには限界があるし、手仕事で手間暇かけて制作している以上どうしても高価になってしまいます。京友禅はとても高価だけど、その分とても美しいものだから、それに憧れて欲しいという気持ちの方が強いです。普段着にするようなキモノではなく、ハイブランドのドレスのように、ここぞという時に着てもらう大切なキモノとして手に取っていただきたいですね。 

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京都という歴史ある場所で伝統を繋いでいく

───京都で暮らし、働く魅力はなんでしょうか?

京都のまちは色々なところに歴史と文化がありますよね。他の地域と比べて、京都では観光客の方がキモノを着ているなど、キモノを着ることがすごく身近にあります。また、身内に呉服関係者がいる人も多く、子供の頃からキモノを見る機会が多い場所ですよね。気軽に伝統や歴史に触れられる環境は本当に魅力的だと思います。

───京都のU35世代に期待することは何ですか?

「未来の名匠」に認定いただいた時に実感しましたが、私たちの年代は中堅の立場として、業界の発展や後進のことを考えだす世代だと思います。京友禅にかかわらず、いろんな業種の人とお話してみたいですね。横のつながりを深めることはとても大事だと思います。そうすれば業界の垣根を超えた連携でもっと新しいものが生まれると思うし、そこからさらに発展させることができますよね。そういう機会をもっと作っていきたいです。

───最後に、これから挑戦したいことを教えてください。

私たちの業界は、デザインに対して著作権があるという認識が薄かったと感じています。これは伝統工芸全般に言えることかもしれないですが、師匠が作ったものを模倣して少し変えるということを繰り返し、少しずつデザインが発展してきているんです。だから著作権は曖昧だし、古典的な文様になればなるほど、フリー素材化しています。ただ、その文様をどう配置していくか、組み合わせていくかに職人が培ってきたものが反映されるんです。
私たちの描いた文様を価値のあるものとして大切にしたいです。完成した布地だけではなく、デザインも展開し、未来にバトンを繋いでいきたいですね。

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インタビューを終えて

終始柔らかい雰囲気でお話してくださった奥野さん。そんな中でも、友禅が好きで誇りを持っているという情熱がひしひしと伝わってきました。

お話を聞いて、キモノは格式高くて手が出しにくいという塗り固められた価値観がガラリと変わりました。
自分を輝かせてくれる、とっておきのアイテムとして、美しい友禅を身につけることができたら。そんな世界になったら素敵だなと心から思える素敵な時間でした。

今回集まった新しい価値観は3つでした。
「#自分を輝かせるドレスのようなキモノ」
「#友禅を憧れの存在に」
「#伝統を繋いでいく」

※本記事は、京都市の委託に基づくものです。

プロフィール

奥野むつみ
染色作家・図案家
京もの認定工芸士(京友禅)

福井県越前市出身。京都精華大学芸術学部芸術学科日本画分野卒業。
在学中に雅和装学院師範科修了(学院長 大久保次江氏に師事)。
2009年より京友禅作家 高橋峰陵工房に弟子入り。
2018年に独立、宝石とドレスをテーマとしたキモノブランド「Bleuet.自分で自分に贈るキモノ.」を立ち上げる。
2021年より、木村染匠株式会社所属。

<HPリンク>
木村染匠株式会社
http://www.kimurasenshow.co.jp/

染色作家 奥野むつみ
https://www.mutsumi-yuzen.com/

取材・文:関 穂花(立命館大学映像学部)
撮影・編集:小黒恵太朗

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