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邦題が好きな洋楽・3選

1曲目 My Blue Heaven 「青空」

Blue Heavenっていうのは地名なので、My Blue Heavenを「私の青空」としたのは誤訳なのだ、という話をどっかで読んだことがあって、その話から始めようとしたのだが、とりあえず確認しておくか、と検索したところ、そんな話はどこにも出てこない。
たしかに誰かのエッセイか何かで読んだんだけどなあ・・・。

ま、誤訳だろうがそうでなかろうが、My Blue Heavenを「私の青空」としたのは名訳と言って良いだろう。
ちょっと感傷的な感じもする印象的なフレーズで、脚本家がドラマのタイトルとかに使いたくなるのもわかる。

原曲は1927年(昭和2年)にブロードウェイのレヴューで使われ、ジーン・オースティンという人が歌ったレコードが翌1928年に大ヒットしたという。
驚くのは堀内敬三訳詞による日本語版が同じ1928年に発売されているということ。
なかなかの早業である。
歌い手は二村定一/天野喜久代、タイトルは「私の青空」ではなく「青空」
発売当時の表記だと「あほ空」
「あほ空」・・・もちろん旧仮名遣いで、これで「あおぞら」と読ませるのだが、当時の人はこの表記を見て変に思わなかったのだろうか・・・こういう言葉に対する感覚っていうのは十年もたつとかなり変わるものだし、記録にも残りづらいので、今から九十何年前の人が「あほ空」をどう思ったのかはちょっとわからない。

向こうでヒットした洋楽を、日本語の歌詞をつけて売る、というのは昔は盛んだったようだが今はあまり見かけない。
僕が音楽をよく聴くようになった1980年前後にはもうあまり無かったような気がする。郷ひろみがフリオ・イグレシアスの曲を歌ったりしていたけど、「なんかダサいな」と感じた記憶がある。
ああ、でもディズニーのアニメの主題歌なんかは今でも日本語版があるのか。
あれなんかも日本語詞はちょっと・・・と思うことが多いが、それなりに人気があるということはそんなに違和感を持っていない人の方が多いのかな。

「青空」はタイトルだけでなく、日本語詞も悪くない。

せまいながらも楽しい我が家
愛の灯影(ひかげ)のさすところ
恋しい家こそ 私の青空

2曲目 Sympathy for the Devil 「悪魔を憐れむ歌」

誤訳といえば、ローリング・ストーンズのSympathy for the Devilを「悪魔を憐れむ歌」と訳したのも誤訳ではないだろうか?
まあぼくの英語力では確かなことは言えないのだけれども、Sympathyは普通に訳したら「共感」だろう。
英和辞典のSympathyの項目には、何番目かの意味として「憐れみ」というのも出て来るけれど、歌詞対訳を読んでみても「憐れみ」の方を訳として選ぶ理由はちょっとわからない。
歌詞は「悪魔」の独白(自己紹介)だし、特に「憐れみ」を誘うものでもないと思う。
しかし、「悪魔への共感」とか、「悪魔へのシンパシー」というタイトルでは今ひとつ決まらない。
「悪魔を憐れむ歌」という語感のかっこよさがなければ、日本でのこの曲の人気はもっと低かったんじゃないかと思う。

歌詞対訳といえば、この曲が入っているアルバム「ベガーズバンケット」をこの間買った、というか買いなおしたのだが、これに付いていた歌詞対訳が、自分が記憶していたものと全然違っていた。
歌詞対訳が変わるのは別に珍しくもないけれども、この曲に関してはびっくりするほど印象が違う。
まあ自分が記憶しているのはずっと昔、レコードで買ったのに付いていた歌詞対訳で、記憶違いも多々あるとは思うが、それにしても新しい対訳はあんまりグッとこなかった。

たとえば有名なケネディのくだり、

I shouted out “Who killed the Kennedy’s?”
When after all it was you and me

今回買ったCDについていた対訳では

“誰がケネディー家を殺したのか”と私は叫んだ
でも結局、殺したのは人間たちと私

これに対してぼくのぼんやりした記憶にある訳は

誰がケネディを殺したんだい?
結局のところ、それは俺とお前さ

訳としての正しさはわからないが、後者の方が圧倒的にカッコイイと思うのだが・・・。

ちなみに12月3日から「悪魔を憐れむ歌」の録音風景を捉えた映画「ワンプラスワン」(J・ L・ゴダール監督)が上映されているが、単にストーンズに興味があるというだけで不用意に観に行くと、あまりの退屈さにびっくりするかと思うので、心して行ってほしいものです。

3曲目 Sitting In The Midday Sun 「日向ぼっこが俺の趣味」

最初の2曲と比べてずっとマイナーな曲だけど、キンクスのSitting In The Midday Sunを「日向ぼっこが俺の趣味」と訳した人は天才だと思う。
(今手元にCDがないので訳者が誰かわからないが)
普通に訳すと「太陽の下に座って」みたいな感じだろうか。
ここに「日向ぼっこ」という語を持ってきたのもすごいが、なにより「俺」という語感が良い。

「日向ぼっこが俺の趣味」

すばらしい・・・

「趣味は何ですか?」

「あ、俺の趣味は日向ぼっこです」

すばらしい・・・

キンクスはビートルズの後を追うようにデビューしたバンドの一つで、当初は激しいビートの曲が多く、後のハードロックや、さらに後のパンクロックにも大きな影響を与えたが、しだいに音楽の幅を広げ、歌詞に関しても、単純なラブソングから、平凡な人々のことを皮肉と愛情を込めて歌うような歌詞へと幅を広げていった。
「日向ぼっこが俺の趣味」は、そんなバンドのあり方まで象徴するようなタイトルになっていると思う。

今CDが手元にないのだが、歌詞はネットで出てくるし、訳詞をブログに載せている人もいるので、それを参考に、この曲の最後の方を適当に自分で訳してみる。

Everybody thinks I’m crazy
And everybody says I’m dumb
But when I see the people shouting at each other
I’d rather be an out of work bum

So I’m just sitting in the midday sun
Just soaking up the currant bun
With no particular purpose or reason
Sitting in the midday sun
俺は頭がおかしい、ってみんな思ってる
みんなが俺のことを間抜けだって言う
でも、みんなが互いに罵り合ってるのを見ていると
俺は自分が無職の怠け者で良かったな、って思うんだ

そう、俺はお日様の下でただ座ってるだけ
太陽の光を味わってるだけ
これといった目的も理由もないよ
お日様の下で座ってるだけ

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