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【部員note】カミングアウト動画に出るまで

 ある日の夕方。わたしが所属しているデジタル雑誌「liflex magazine」の編集長と2人でzoomを繋いで打ち合わせをしていた。

その終盤、わたしは何気なく余談を話す。
「そういえば、YouTuberのかずえちゃんが投稿するカミングアウトデーの動画にちょびっと映ることになったんです」

実はこの打ち合わせの前日、その動画を自宅で撮影していた。
「え!すごいじゃん…!」
照れる。嬉しい。
「へへぇ、ありがとうございます!」
「縞さんの今までの人生って、ちゃんと点と点が線で結ばれていってるよね。」
うん、確かに。

「わたし、縞さんの今までを書いたnote読みたい!書いてみない?」
えっ。うそ。まじで?
「いや!誰も興味ないし、誰も読まないと思いますよ?」
「大丈夫、今まで出会ってきた人へのラブレターを書けばいいんだよ!」
と編集長が笑った。

だから、わたしは調子に乗ってラブレターを書くことにした。


わたしはXジェンダーを自認している。

Xジェンダーといっても十人十色。
わたしの場合は「男性と女性の間を揺れ動く性自認」。
好きになる人のセクシュアリティは、正直、まだよくわからない。


1.マイノリティのマイノリティ


 自分の性自認や性指向に対するモヤっと感、しっくりこない感はずっと強かったわけじゃない。徐々に強くなっていった感じ。

“イケメンって言われたい日と、可愛いって言われたい日があるけど、みんなもそういうもんだよね?”
“みんなとおんなじようにいつか恋愛できるでしょ”
なんて思いながら過ごしていた中高生時代。
“女の子が好きなのかもしれない”
“男の子になりたいのかもしれない”

そういうことをすごく強く思う日もあったからLGBTについて調べてみた。
当時はXジェンダーやクエスチョニングのワードに出会えず「どれにもしっくり当てはまらない自分はセクシャルマイノリティでもないのか…じゃぁなんなんだろう…?」ってモヤモヤが強くなっていった。

あの時のわたしは“セクシャルマイノリティ=LGBT”という固定観念でがんじがらめ。

だからXジェンダーやクエスチョニング、アセクシャルといったマイノリティの存在はLGBTというワードの影に隠れた“マイノリティのマイノリティ”だった。

でも、そんなモヤモヤを抱えていても、きっといつかは男性とちゃんと付き合えて、結婚して、子どもを産んで、家族を作る。
そういう未来が当たり前にやってくるものだと思ってた。
だから自分の気持ちを置いてけぼりに、固定観念に縛られたまま男性と付き合った、けど、わたしには男性と甘い関係になるのは無理だった。

キスをするどころか、手も繋げなかったから。

嫌悪感?コレジャナイ感?
どっちもあった。とにかくわたしは好き合って、付き合って、世間一般でいう付き合った先の行為をするのが無理だった。

だから誰かと付き合ったことがあるのはその1回だけ。高校生のとき、たった1ヶ月半だけ。

2. 点


 月日は流れて、わたしは作業療法士になるため4年制の専門学校に通い始める。気づけばハタチになっていた。
高校生の頃に感じていた“彼氏がいないとヤバい”みたいな風潮は和らいで、努めて彼氏を作ろうなんて思わなくなっていた。

そして20歳の夏「おっさんずラブ」というドラマをきっかけに、わたしはクエスチョニングを自認することになる。

「おっさんずラブ」は男性同士の恋愛を描いた作品で、笑いあり涙ありのラブコメディー。毎週土曜日の23時15分はテレビに釘付けだった。

わたしの心を掴んだのは、林遣都さんが演じる牧。牧はゲイ。田中圭さんが演じるノンケの春田に想いを寄せながらも、春田の幸せのために身を引くような人。
そんな牧の姿を毎週見るごとに「もしかしたら他人事じゃないぞ」と、なんか思った。だからもう一度LGBTについて調べてみると、高校生の時には見当たらなかった「Q」の文字に出会った。

なんだQって。クエスチョニングって読むのか…なにそれ。自分の性自認・性指向を決めかねている人…迷っている人……なるほど…ってあれ、わたしQかも。やっぱり居場所、あったんだ。よかったぁ。
…でもさ、セクシャルマイノリティの自分って幸せなの?

「おっさんずラブ」が最終回を迎えた。空虚感。焦燥感。そんな気持ちになるのはどハマりしたドラマが終わってしまったからだけじゃなかった。

そうしてこの頃からポツポツ日記を書くようになった。

20歳の秋。10月11日。世界カミングアウトデー。今度はYouTubeに投稿された1本の動画をきっかけにXジェンダーを自認することになる。
何気なくYouTubeを開く。オススメ動画。かずえちゃん。アイコン、イケメン。

「LGBTQ100人のカミングアウト2018」

なにそれ。タップ。Xジェンダー?FtX?ジェンダーフルイド?またしても、なにそれ。
その動画に映るみんながわたしに言う。
“ひとりじゃないよ”
笑顔。芯がある。真剣な眼差し。素敵な声。
響く、心に。なんか、泣きそう。

動画を見終えてすぐにわからない用語を調べた。隅から隅まで。知らなかった。こんなに色んなセクシュアリティがあるなんて。
そして確信した。わたしはXジェンダーだ。すごくしっくりきた。はっきりわかった。
それからもう1度、もう1度、何度も何度もその動画を見返した。

▷「LGBTQ100人のカミングアウト2018【大丈夫!あなたは1人じゃない】」


その時に書いた日記には
「自分のセクシュアリティをちゃんと自認できた。1人じゃないと思えて、今の自分を受け入れることができた。ここ最近は自分が何者か分からなくなって、夜不安になったり、友達と話す恋愛話に自分の未来が見えなくなって辛かった」

「でも、LGBTにも当てはまらない疎外感みたいなのは抜けきらない。わたしみたいなセクシュアリティは理解されるんだろうか。」

「今は辛い。でも、動画に出てる人たちみたいに笑顔でカミングアウトして、自信を持って生きていける人生があるのがなんとなーくわかるから、耐えよう。今を耐えよう」

と綴られていた。

Xジェンダーだとはっきり自認してから、自分の周囲の世界は何だかおかしいことに気づいた。

「友達が“将来あいつ以外みんな結婚して子供ができた時に、なんで自分は結婚してないんだろう、なんでできないんだろうって思ってほしい”って言ってた。すごい言いようだ。結婚しない人は無条件に結婚できない人になるのか。結婚しない人は無条件に不幸せ認定されるのか。なんなのさこんちくしょう」

「友達にカミングアウトした。“そういうの理解あるから大丈夫だよ” “おかしいことじゃないよ”あれ、なんか、違う。」

「わたしの知っている世界はあったかくなくて、冷たくなりきれてもいなくて、“普通”が正義らしい。でもこの間までわたしもそっち側だったよな。固定観念手強いな。」

「親に孫の顔を見せることができる可能性。ゼロ。ごめん。」

自分から見えている範囲の世界を捉え直す作業を繰り返す日々の中で、不平不満だらけの自分はこれから生きていけるのかなぁと思った。
性自認だけじゃなくて、見えてる世界がゆらゆら揺れて不安定になった。食事が喉を通りづらくなった。比喩じゃなくて、本当に。

自律神経失調症と咽喉頭異常感症。
「しんどいことから逃げなさい」といった先生はとてもいい人だったけど、わたしは自分のセクシュアリティから逃げるにはどうしたらいいですか?とは聞けなかった。

そんなネガティブまっしぐらな中、わたしみたいに辛かったり悩んだりしてる人ってどれくらいいるんだろう…こんなわたしだからこそできることがあるんじゃないかな…と思うことが増えた。

そして2月。もうすぐ進級判定試験。
暖房がゆるく効いた教室。足元が寒い。膝掛けを忘れた。太腿の下で温める左手が痛い。精神科の授業。パーソナリティ障害。双極性障害。性同一性障害。障害、障害、障害。うるさいな。
作業療法士になるための勉強の時間、作業療法士として働かない未来を少しづつ考え始めていた。

試験に合格し晴れて4年生になった21歳の梅雨。臨床実習が始まる。

3. 点と点


 臨床実習の途中、わたしは先生に辞退を申し入れた。このままの気持ちで患者さんの将来と向き合う仕事はできないと思ったから。

休学して、将来どうしたいのかしっかり向き合う時間が欲しかった。

勉強は好きだった。なにより、自分の知識量が患者さんの回復度に直結するって思ってたから必死に勉強してきた。成績は全部優だった。
そんなわたしの緊急辞退宣言。先生からの電話は毎晩。励ましの言葉が左から右へ抜けてく。

頑張れ。辛いのはわかるが今だけの辛抱だ。
ここで辞めたらもったいないぞ。

知ってる。だけど、先生はわたしが何に葛藤してるのか知らない。
ある夜、先生の必死の説得をかわす事に疲れてカミングアウトした。
先生は驚いたけど、なるほど、そういうことだったのか。と言って3つの選択肢を提示してくれた。

提案は

①今すぐ休学する
(この場合復学してからもう一度臨床実習に行き直さないといけない)
②臨床実習をやってから休学する
(この場合復学した後は国試勉強に専念するのみ)
③臨床実習やって国家試験も合格してちゃんと卒業してから将来を選ぶ
(この場合作業療法士として働くかそれ以外の仕事をするか来春選べる)

学費のことも踏まえて先生は提案してくれた。将来のことだし最後はちゃんと自分で選びなさい、と。

そして、わたしは③の道を選んだ。

臨床実習を終えたら、将来の道筋を立てるために行動しようと決めた。
自分で足を運んで、目でみて、考えて、ちゃんと決めるんだ。

臨床実習を終えたその月に、わたしはlag代表のしげさんの講演会に足を運んだ。わたしと同じXジェンダー。
はじめて“同じ人”に会った。セクシャルマイノリティだと自認する十数人と会った。人生に触れた。
やっぱり、モヤモヤはわたしだけじゃない。

年が明けた1月、かずえちゃんの講演会に足を運んだ。今まで一生懸命勉強した自分のおかげで国家試験の勉強に焦らなくていい。人生を変えた動画を作った人に会いに行こう。
講演会の最中、とにかくメモを取った。セクシュアリティについて活動するかずえちゃんの考えや想いを取りこぼしたくなかった。
そして、世の中を変えるためには「発信」することが大切なんだとわかった。わたしひとりだけじゃなく、隣の人の意識から変えないといけないんだと知った。

わたし、発信する人になりたい。

道筋、だんだん見えてきた。

国家試験に合格し無事卒業。学校長賞をもらった。これは自慢。
そしてわたしが選んだのは、

作業療法士として働きながら記事を発信する道。

それからliflex magazine編集部に所属、ジェンダー企画を担当。

セクシャルマイノリティだと自認する人がひとりぼっちだと感じてしまう大きな原因に、クラスメートや先生、親、きょうだい、身近な人たちが作り出す悪気のない空気がある。

セクシャルマイノリティの人たちだけじゃなく、シスジェンダーだと自認している人たちにも届けなくちゃ。他人ゴトから自分ゴトに変えなくちゃ。

副編集長がanone,というセクシュアリティ診断サービスを教えてくれた。この診断、すごい。細かい。丁寧。言葉選びも優しい。作った人にもお話聴きたい。それで出来上がったのがliflex magazine vol.2に掲載された「見直すワタシたちの色♯1」


自分で働いて稼ぐようになったら行こうと思っていたお店“どん浴”に緊急事態宣言解除後に足を運んだ。
オーナーの長村さと子さんとお話しさせていただく中で、取材したい!と思った。地方でひとりぼっちだと思っている人に“どん浴”という居場所があることを知ってほしい。こんなに自分のことをオープンに、安心して話せる場所がちゃんとある。話を聞いてくれる人がいる。
だから、思い切って取材を申し込んだ。それで出来上がったのが「見直すワタシたちの色♯2」



▷liflex magazine vol.2はこちらから


3.線で繋がる


 無事、記事が公開された。取材させていただいた長村さと子さんやanone,の中西高大さん、編集部のみんなや「縞さんの想い、届けようね!」と言ってくれた編集長、最後の最後まで細かいわたしの注文に、注文以上の仕上がりで返してくれたデザイン担当のじゅんちゃん。

みんなに支えられてできた。感謝を伝えても伝えきれない。
 
そしてXジェンダーという居場所に出会わせてくれた「あの動画」が今年も公開される。
動画に出演する人を募集してるらしい。
今年も楽しみだ。わたしもいつか出れるといいなぁ。

10月2日の朝。まだ出演者を募集してるとのツイートをみた。もうすぐ勤務先の病院に着く。ロッカーの前、スマホとにらめっこ。考えながら着替える。スタッフルームに到着。
リュックを背負ったまま自分の席に座ると、急いでかずえちゃんにDMを送っていた。


「参加したいのですが、まだ間に合いますか?!」



4.線上の今


 点と点が線で繋がった今。そして未来の点へと伸びる線上を生きるわたしは、もしかしたら、この“カミングアウト動画に出るまで”のnoteを書くという重要な点の上にいるのかもしれない。

どんどんこの世界は変わっていく。常識は変わっていく。自分自身も、自分のいいようにこの世界を変えていく。解釈していく。固定観念に囚われながら、そして、固定観念を塗り替えていく。生きやすいように、死なないように。

今の当たり前は変わるし、今生まれてない言葉や概念が生まれる。それはきっとこれからの時代を生き抜くためにわたしたちが創っていく。

悩んだ分、今のわたしが在る。
悩んで、向き合って、よかった。

なんだかラブレターとはお世辞にも言えない、人生振り返りシートを作ってしまったけど、まぁいいや。これはこれで。

点と点を結んでくれた多くの恩人に、ひっそり届きますように。

▷「LGBTQ100人カミングアウト2020【私たちはここにいる】」


liflex magazine編集部 縞(コウ)


◇縞(コウ)のプロフィール◇
Xジェンダー/ジェンダーフルイド/FtX虹 作業療法士 |
編集部/ジェンダー企画担当 | U25 |
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