フジロックの思い出⑤(終)〜総括編〜
(↑前回までのあらすじ)
日本初の大型野外フェス「フジロック」に参加した高校生3人組、G君とI君そして僕。会場への道程ですでに混乱に巻き込まれるものの、遅れて辿り着くやいなや鬱憤を晴らすが如く音楽に合わせて暴れ回る。疲弊した体は豪雨を浴びて急速に冷え込み、さらには帰りの送迎バスが来るまで何時間も立たされる。這って宿に生還した3人は、翌朝のテレビで2日目中止の一報を知るのだった…
(続き)
この初年度の開催は全2日だった。2日目はウィーザーも観たかったし、当時はザ・ストーン・ローゼズに熱狂していたのでザ・シーホーセズに最も注目していた(※ザ・ストーン・ローゼズのギタリストだったジョン・スクワイアが解散後に新たに結成したのがザ・シーホーセズ。今思えばだが、初日のフー・ファイターズと同じように別バンドのはずなのに勝手な期待を寄せてしまっていた)。ベックも当然気になっていたし、何よりグリーン・デイは観ておきたかったなと現在からでも思う。
さらに2つ目のステージに目を移せば、リー・ペリーの凄さはこのときまだ認識してはいなかったけど、トリがマッシヴ・アタック。最初の年から、かなり面白いラインナップだったことが分かる。
2日目の中止はにわかには信じられなかったけど、ケータイすら普及していなかった時代、裏の取りようもなかった。しかし先日のあの惨状を思い出すにつけ、まぁそうだろうな、と妙に納得していた。とにかく汚れた水たまりだらけになった地面の状態が酷く、長靴を履いていたとしても何とか歩けるかぐらいになっていたのだ。寒さをしのぐために貸し出していたのか、はたまた参加者たちが持参していたのか毛布類も泥水を含み、それらをそのまま打ち捨てているものだから、足元も危うい。他にゴミ類も吹きつけられ大量に折り重なり、後片付けも到底追いつかなかったのでは。暴風雨にさらされ、電気まわりなど設備も支障をきたしていたのかもしれない。
初日の途中から、臭いも凄かった。どこも水浸しだし、誰もが汗だくだし。あのままだと、もし乾かしたとしてもかなり不衛生な環境になっていただろう。
あっさりと諦めた僕たち3人は、他にできることもないし、さっさと帰ることにした。当時は千葉市に住んでいて、滅多に都内まで出る機会もなかったし、途中通りかかった御茶ノ水で中古CD屋を覗いた。どうせチケットは半分払い戻しだし、その浮いたお金で。
16歳だった。ロックに夢中だった。小4から続けていて惰性で入った野球部は数ヶ月で辞め、勉強にも突然身が入らなくなり成績は急降下していた。クラスの端っこにいる目立たない、暗いニキビ面の冴えない少年だった。女の子にはフラれっぱなしだった。
翌1998年。
一時的な回避地として、東京・豊洲での開催に。この年も全2日間の開催だったが、2日目だけ行った。初年度に山道で足をつったG君と、彼の父と一緒に参加した。その父は、ビールの紙コップに忍び込んでいた蜂に唇を刺された。
真昼の炎天下でミッシェル・ガン・エレファントが轟音で煽り、埋立地を振動させていた。一つの全盛期だったのだろう、自分も大いに感化されてその後しばらく入れ込んでいた。なぜかベン・フォールズ・ファイヴもコーンも全く記憶がなく、布袋寅泰に至ってはどちらかというと嫌われていた雰囲気すらあったが、最も楽しみにしていたのはイアン・ブラウン。やはりまだザ・ストーン・ローゼズ伝説の続きを期待してしまっていた(※ザ・ストーン・ローゼズのヴォーカル担当だったのがイアン・ブラウン。その後ソロに転向していた)。自分とG君としては大満足だったが、周りはそれほど熱狂していない温度差は肌で感じていた。ゆっくりと夕暮れになっていく中で聴けたプライマル・スクリームの"Higher Than The Sun"は心地良かった。大トリはプロディジーというところに時代を感じる。
これが自分にとっては今のところ最後のフジロック。
繰り返しになるが、3年目に今の苗場に移ってからは一度も行ったことがない。
もちろん、今に至るまで観たかったミュージシャンを数え上げればキリがない。フジでしか公演がなかったものも多く、いつも指を咥えていたし、涙を飲んでいた。
でも、フジロックは一年間がんばって働くなり一生懸命に生活してきた人たちが、毎年その週末に思いっきり楽しむ場であるようで、ちゃらんぽらんな自分はそこまで捧げることができない。普段からがんばってもいないから、そのご褒美を受け取る資格もまたないのだ。
言い方を変えれば、もう少し規模の小さな、より近くにあって行きやすい、自分が身近だと感じられる別の音楽フェスを一年に一度の楽しみにしている。音楽ファンそれぞれに、通いたくなるその人なりのフェスを見つけられればそれでいいのではと思うのだ。
話が長くなってしまった。
丁寧に振り返ろうとするとこれだけの分量になってしまう。変に細かいところまで記憶していたのが意外でもあった。
ロクに校正もしていない書きっぱなしの文章をここまで読んでいただいて、ありがとうございました!
今度は他人のフジロック話、あるいはフェスの思い出を聴きたいな。
(完)