聡明なひと

最近 聡明なひととお酒を飲む。

聡明なひとは少し、というかだいぶ変な奴だ。変人の巣窟みたいな僕の学生生活の中でも群を抜いて変だ。でも誰より聡明だ。僕は憧れている。憧れの人に取り入るのにお酒というツールが使えてしまうので、二十代って素晴らしいなーと思ってしまう。あんなに大人になりたくない、お酒なんて一滴も飲まないって言ってたのにね。

聡明なひとは高校野球が好きで、左翼で、新興宗教と社会の結びつきについての造詣が深い。野球・政治・宗教とかいう会話上の三大地雷に対して全く躊躇をしない。真っ向から切り込んで、考えて、「よだか、どう思いますか?」ととても楽しげに議論をふっかけてくる。「なんというかよく話しますよね」と言うと、「もちろん怒られることもあるんだけれど」と照れ笑いしながら、このテの話で初対面の大学教授と大喧嘩になって胸ぐら掴まれた話とかしてくる。照れながら暴力の話をするところが聡明だと思う。変とも言う。

聡明なひとはジョークが上手い。絶妙な理不尽をユーモアに昇華してぶん投げてくる。ある時お話の中でずっと「えんたーていんめんたー」という謎の単語が出てくるので「エンターテイナーですよね?」と確認のツッコミを入れたら「うっせぇわ!」と某ちっちゃな頃から優等生のポニーテールちゃんもびっくりの逆ギレが返ってきた。貴方が俗に言う天才です。

この間一緒にお酒を開けた時は、「このあとまだ作業が残っているので1缶だけ」と言いながらビールを開け、そのまま瞬く間に5缶飲んだ。小柄なのに良い飲みっぷりだなーと思いながら見ていると、6缶目を手にした聡明なひとに突然「止めろよ!!!」と怒られてしまった。理不尽の極みである。どうも最近、同じ学部の人に作品絡みで逆恨みされているらしく、ストレスから半月で約80缶を一人飲みしたとのこと。死なないでほしい。聡明なのだから。

聡明なひとは髪が長くてふわふわしている。手先が器用なようでヘアアレンジを見るのが楽しい。ファッションセンスも抜群だ。勉強もできる。運動もできる。ギターもできるらしくこの間は弾き語りを披露してくれた。歌も上手かった。多才すぎて悔しくなったが、絵だけは描けないようで、僕はいつも聡明なひとが描く味わい深い動物のイラストに笑わされている。いつまでもそのままでいてほしい。

夏休みが来る。聡明なひととしばらく会えなくなってしまう。(ジェンダー研究に携わっている人間が本来こういうことを言ってはいけないのだろうが一個人の気持ちとして見逃してほしい、のだが)男からこんなものを渡されたら気持ち悪いかな、と思いながら、貴方に負けじと学べた一学期間がとても幸せでした、という内容の手紙を書いて渡した。聡明なひとは受け取ってくれた。卒業までにはこちらからもお手紙を渡します、またね、と僕に妙に長期的な希望を残して深夜のバス停の明かりの下を去っていった。

聡明なひとと次にお酒を飲めるのはいつだろう。次は何缶で止めたらいいのだろう。そんなことを考えながら期末レポートを捌いている。このnoteはその息抜きだったりする。到底敵わないまま、聡明になれないまま、選ばれることが恐ろしいまま、聡明なひとには色々な意味で見せられないような文章を、僕はそれでも書かなくちゃいけない。勉強と創作だけが心の底から大好きなのだとこの春夏で知ってしまった。書いて書いて学んで学んで、できれば幸せになりたいだけ。貴方に、それから誰よりも僕自身に、それを許されたくて堪らない。

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