2021/02/11日記 僕らは元気です

遠くの映画館へAKIRAを観に行った。ここ一年の僕の旅は全てAKIRAか鳥居を目指すものである。東洋オタクと呼んで下さい。

IMAXは期待を上回る良さだった。繊細な音響の違いがわかるベテランDTMerならばドルビーシネマの方に魅力を感じるのかもしれないが、僕は僕が思っていたより五感がバカだったらしく、IMAXの物理的な力強さの方に心惹かれた。良かったです。職業訓練校のシーンにて、山形がグルーピーのパンチパーマちゃんとチュッチュしてるのをガン見してたら甲斐くん(推し)の吐血芸を見損ねたのが心残りです。お金払って見る推しの吐血芸ほどゾクゾクするものないでしょ。色々他にも新たな気づきはありましたが、この辺にしておきます。日記としては豊橋という街のことを書いてみたいので。

豊橋という場所はなんだか面白かった。そして遠かった。自宅から三時間がかかった。がらがらの電車の中でチョコレートを食べる。名鉄に慣れていないので乗り換えでパニクる。豊鉄バスで映画館に向かう。都会マウント抜きで、ICカードが使えないバスに乗ったのは初めてだ。

映画が終わる。改めて映画版のラストって不安定だなァ、復興のビジョンとか映してくれないもんな、映画版のラストの向こうで金田たちはどうなったんだろう、とふと思ったらなんだか悲しくなってしまって、気持ちを消化したくて豊橋駅周りの街をぶらぶら観光する。14回も観てるのにこんな気持ちになったのは初めてだった。

スペースシャトルを脳天につけた廃パチンコ店が目を惹く。グーグルで調べてみる。口コミ平均2.5、91件。大丈夫かここ。いや大通り沿いで廃墟化してる時点で大丈夫ではないが。更に歩く。土産物屋を探している。地元名物がどうのと書いてあっても、肉屋や漬物屋はなんとなく敷居が高い気がして寄れない。僕は趣味や推し活以外の買い物に関しての度胸は小市民以下なのでただひたすら「豊橋銘菓」みたいなので誤魔化されたかった。適切に騙してくれる菓子屋を求めてうろつくが居酒屋とビジホと観光案内所ばかりで今一つ見つからない。誠実な街である。10分の書き散らしのルールを平気で超えてたった今13分目に突入した健康優良不良文字書きとは大違いである。

商店街のアーケードが見える。柱の裏でもこもこの鳩がくつろいでいる。鳥オタクのフォロワーに送ろうと思いつき写真を撮る。商店街には焼き菓子の甘い匂いが立ち込めているのに、開いているのは立ち飲み屋と本屋ばかりであった。どこもかしこも揃って厚焼き卵でも作っているのだろうか。小規模の大須商店街のような風景であった。タイルの上を進む。シャッターの錆びついたミュージックバーの外装。不良のグラフィティアートがぽつぽつ散らかっている。この辺りの治安はどうなのだろうとふと思い至る。この寒いのに、フラワトークのボトムスに似た、ペラペラのショートパンツから生足を伸ばしたレディが異様に多かった。目のやり場に困ってあちこちの看板を見上げながら歩く。味噌カツ、手羽先、小倉トースト。どうも名古屋名物の店が多い。誠実謙虚な街なのはいいがもう少しアイデンティティに自信を持っていただきたい。駅に引き返してギフトキヨスクでうずらサブレを買って帰った。

映画の終わり、コミック版と違って金田とケイと甲斐は身一つで崩壊したネオ東京に向かって走っていく。行ったところで他の生者もライフラインもやれることもあるわけなかろうに、と思ってしまうから、それがまるで死に向かって突っ込んで行くように見える(はっきり僕の恐怖の中身を話してしまうと、要は少女終末旅行みたいな経過と結末を想像してしまう……というか)。もう始まっているからねなんて説得力ないよ、行かないでほしい、と思う。けれどおそらく、彼らも別段真面目に都市部に帰る気があったわけじゃないんじゃないか。ちょっと引き返して、街で壊れたホテルやバーを眺めて、春木屋の看板の欠片とか拾って、それからちゃんとどこか、もっと崩壊の少ない場所へ向かって帰るんじゃないか。そんなことを勝手に想像する。大丈夫だよ。お前らなら生きていけるよ。僕らの2021年も世界中めちゃくちゃだけど豊橋まで映画とか観に走ってるし。彼らの2021年も大丈夫だよね。知らんけど。遠征の影響なのか、観賞後珍しくちょっとブルーな気持ちになった回でした。

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