河童11

康介は知っている。時代は次へと向かい、世は修めるものが変わったと。
認めたくはない。今は下を向くだけだった。


       8

あちらでも、向こうでも、蛙が鳴いている。
坊主は腕を組み、まだ何かを考え込んでいる。
康介は背中を向け、先程の現実の言葉が気に入らないのか、拗ねたように壁に向かい寝転がっている。

娘は静かに火を見つめていた。短い時間ではあるが落ち着いた沈黙があった。が、
その沈黙を払うように、今まで鳴いていた蛙が沈黙に向かった。
火の音しか聞こえない中で、坊主と康介が身を固め動きを起こした。

坊主が顔をあげ片膝たてる。康介が息を止め、痛みに耐えて身体をおこす。

娘は坊主と康介の動きに身を固め。蛙が泣き止む意味を考え身体は硬直する。

坊主と康介は娘が現れた時を思いだし、
「今度はなんだ」と、高鳴る心臓を押さえ込み身構える。

耳をすまし目を開き、唇の乾きに舌で潤いを与え、身体の気をより一段と張り積めて行く。
男たちの身体の毛は逆立ち女の身体は丸くなって行く。
康介は刀に手をやり自分の間合いを作る。
坊主は引き戸に向かい低く構え、間合いを崩さぬようににじり寄る。
総身の逆立つ毛が空気の動きを読みとる。
男たちは脇を引き締め身構える。
戸が揺れ、そしてカタリと動く。

戸の微かな動きが然りとわかる集中力。
「はっ」娘の口から驚きの息。
引き戸はカタカタとゆれ、軋みをたててより開く。

なに、何が来る。坊主は身を堅し、低く構える。脇から臍へと気を張り巡らせ肩の力を抜き、片足の裏は床を踏みしめる。
康介は鞘から刀を一寸抜き、目の高さに構えている。
我が身の的なら迷わず斬る。手負いの体でも戦いの準備は万端だった。
三人の目は、開き始めた引き戸の真ん中へと集まっていた。が、気配が現れたのは引き戸の足元だった。
視線を下げる三人。
「ゆび」指が見える。
それは少しずつ戸をつかみ、指に力を入るのがみてとれる。
戸が少しずつ動く。
一度止まる戸。
新たに力を入れ直しているのがわかる指の動き。
戸の脇にいる坊主以外の娘と康介にはその姿が、頭らしきが見える。
頭の次、
それが確かに生き物であるとわかる。しかも、「身近でない」と解る目が二人には見えた。

引き戸の向こうに広がる闇と同じ暗い瞳。
それが這うように身を縮め、中を覗きこみ二人を見定めて、更に中をうかがうように瞳を動かしている。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!