河童54

「静かだ」坊主は呟く。
外には風の音。
雨はやみ雲が星の微かな光をもを遮る。
落ち着かせてくれるのは、囲炉裏の微かな熱だけだった。

22

静けさがしばらく続く。
ゆっくりと坊主は立ち上がり戸口に近づき、刀で空いた穴から外の様子をうかがう。
穴から見えるはずの供え物は綺麗さっぱりと無くなっている。
少し身体を動かし見える向きを変えると、あの河童の亡き骸がみえる。
それは明らかに物へと変化した扱いを受けている。
大事な仲間も、亡き骸は無きものでしかない様子。邪魔だと足で蹴りどけられたように妙な形で横たわっている。
供え物を持ち去るには邪魔になったようだ。
「しょせんは畜生並み」
死んだ仲間は物にすぎず、供え物は生きる糧。間違いではない。
坊主は考えてみた。
「ここを襲ったのは食べ物だけが目当てで、儂らはただ邪魔なだけだったのか。自分達の食べ物を横取りする奴等なだけだったか。邪魔なだけだったか・・・。」

考えてみればそれもあり得る。
夜が明ければ康介と娘を連れてここから出ていけるのか。
「出よう。ここから出よう。早いところ出てしまうがよい」
誰に聞かせるでもなく、自分にいって聞かせるように呟き、康介へと伝えようと顔を向ける。と、
「しっ」
康介が坊主の動きと口を制するように右手を伸ばし、左手の人差し指を、立てて口元へともってゆく。
痛みに堪えているのが判るしかめっ面で外の様子に気を集めている。
確かに。外には、なにやらあるぞと気配が立ち込めている。
平穏な気配ではない。
そう、違う不穏な気配。
今までとは違う気配が坊主と康介には感じ取れた。
康介は視線を坊主に向ける。坊主も気は同じ。康介と目を合わせると次の動作はいかようにも行える用に身構える。

幾人もの足音だとはっきりと解る。その足運びもただならぬ雰囲気を坊主と康介へ伝えるには充分。
どうする。どうする。どうする。
坊主と康介には焦りの汗が吹き出てくる。脇を伝わり落ちる汗。こめかみから目尻へと流れ込む汗。
どこからか現れた汗は不安と不快を肌に染み込ませながら流れ落ちてゆく。

坊主はゆっくりと立ち上がり、外の気配を掴もうと、戸口に空いた穴に顔を近づけたとき、
ガツンッ
戸口に何かがあたり戸をゆらす。
もう一度ガツンッ。
二発目は戸を打ち破り、ゴッと鈍い音を出して坊主の頭にぶつかり拳よりも大きな石が社の中で転がる。
転がる石には赤黒く見える血がついているよう。
仰け反り頭を押さえる坊主。
体制を保つと頭をおさえ片膝をつき、「うむむっ」かなりの衝撃だったらしく、「迂闊だった」と、うずくまりしばらく動かずにいた。


自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!