河童45
「来るかッ、来るゾッ」
坊主が身構え康介は刀を構える。
娘は短刀を掴みながらも腰を抜かししゃがみこむ。
「どこから来るッ」
辺りをうかがえば戸口がガタガタと揺れる。
坊主が戸口に向かい四股たちで身構える。戸口に向かう意識は自分の足元へと変わる。
ゴンッ。
床下から響く。
社のすべてから音がする。
辺り一面出せるだけ音が鳴り響く。
康介は固まり刀の向きを迷う。娘は驚き這いまわり音からにげる。
御神体の間からは何かが倒れる音。
そしてガタガタと激しく揺れる戸口。
その音を合図に、
「わぁーっ」坊主が叫ぶ。
康介の手から刀を奪い戸口に突き刺し素早く引いた。
手応えはなかった。
次の瞬間は康介の背にする壁から体当たりするような音。
康介が脇差しをすでに構えていた。
娘は音がする度に音から逃げ、這い回り右往左往する。
再び戸口から音。
坊主が二突き三突きするが手応えなし。再び御神体から激しい音。
「戸板を剥いでいるのかっ、康介どの来るかも」
坊主の言葉に慌てむきをかえる康介。
坊主が康介に視線を移し動きを確かめると戸口に向き直る。
「あっ、戸口がっ」
戸口が開いている。
「なっ」目を見開き後ずさる。
その隙間には、不気味な頭といびつで華奢な身体を無理矢理ねじ込むようにしてもがいている河童がいる。
「わっ、来たぞきた。」
たくましく雄々しく感じる坊主も不気味さに腰が引いている。
刀を振るより腕を振り後ずさる。
「おっ、おおっ」
言葉も身体も思うように動かせない。
康介も坊主の狼狽えに度胸を削がれ「あっ、ああ」と脇差し構えうろたえ尻餅をつく。
手で身体を支え娘が目にはいる。娘は座り込み固まっている。
坊主は我にかえったのか、まだ正気じゃないのか、刀を上段に構えている。
「坊主どの違うっ」
坊主の大きな構えに康介が
「低めにっ」
中段に構えろと促す。
「おおっ」
坊主が剣先を下げる。
すべての者の動きがとまった。
ぴたりととまった坊主。
戸口の河童も戸に挟まれたまま動かない。
康介が痛む身体を起こしながら、
「動かない。どうなりました」
康介は坊主に声をかける。
康介は耐えきれず再び尻餅をつく。
坊主は剣先を動かぬ河童に向けて動かない。倒れた河童から視線を外さぬように康介と娘をチラチラと見る。坊主は一度頷くとジリジリと河童に近づきながら、挟まれている戸口から外の気配をうかがう。