河童25

ひとり笑う男の姿を、
「とうとう恐ろしさで狂ったかな・・・。」
子供は不安に見つめる。
男は身体の力を抜いて構えを解く。
一呼吸のちに振り向き。
「寝よう。儂らは見えないものを見たのかもしれない。猿か何か・・何かを見ていたにすぎない、山の夜には時にあることだ。儂も歳のわりに小心すぎた。」
男は肩の力を意識して抜き。
「今となっては恥ずかしいぞ。うん、明るくなり思い返せば顔が赤くて恥ずかしいばかりかもしれん。これが誰かの悪戯だとしたらただの笑われものだ。」
男は握っている棒を側に寄せたまま、その場に座り込み、
「寝るぞ」そう言って大の字にひっくり返る。

幼き年よりは、男の判断に不安を感じている。
あれは絶対に「何か」である。自信がある。
だからと言って幼い自分が何を言ってみても聞き入れてはもらえないだろう。子どもの言うことは聞き流される。普段の経験でわかりきっていた。
「よし、おいらが眠らずに見張っていよう」
幼き年よりは胡座を組み、口を一文字に閉め、肩に棒を立て掛け、夜の闇を睨み付けていた。


どれ程過ぎたか。
子どもの眼で夜を過ごすのは厳しく、座ったままコクリコクリとしている。
薄い意識の中に、コツ、コツと、石を投げて、その石が石にぶつかるような音が、眠りに落ちそうな意識を叩いてくる。
「うん、」
音に気づき辺りを見回す。
「なんだろう。」
辺りを見回し、再びコクリコクリと頭が泳ぐ。
泳ぐ頭を、コツ  コツ  音が止めに来る。
「あれ、」幼き年よりは辺りを見回す。
音は水路の方から聞こえてくる。
水路に水を流すために、川に石を積み上げている。そちらの方から聞こえてくる。
石を積みあげ、川の流れを変えて村人が作った水路から田へと水が流れるようになっている。
「あっ」
幼き年よりは見張りの意味を思い出した。
大声で叫びたくなる自分の口に手をあて、漏れ出る声を押さえ込む。
「おじさん」押さえこんだ小声で、
「おじさん、おじさん。水路の方から音がするよ。誰かが水の流れを変えているよ。」
男は目を見開き
「なにっ」
素早く首を起こした。
「おじさん声がでかいよ。」
あわてて男の口を小さな手が覆う。
男は慌てて息まで止めて動きを消す。
口元から子どもの手が離れると、静かに身体をおこし、立ち上がる手前で身体を止めて耳に意識を集中する。気配をうかがう。

聞こえる。
男の耳にも確かに聞こえる。
コツ  コツ
石と石がぶつかる音。
一抱えありそうな、石積みに使っているほどの大きさの石がぶつかる音。そして、
水が跳ねる音。
水の中を動き回るような音。
男は得物をつかみ立ち上がり、ふと思う。
「・・・一人では・・。」
一人で対処できるのか。
音からして複数いる。
一人では無理のようだ。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!