河童17

「えっ」と康介が声をあげ、坊主の方へと視線を投げる。
その視線を受けて坊主が頷き、ゆるりと立ち上がり年寄りへと言葉を向ける。
「それはまことか、今すぐこの目で見てみたいが」

坊主は言い終わると同時に、年寄りの指差す奥の引き戸を開けていた。
中を見回す坊主の背に、年寄りが言葉を投げる。
「御神体は今一つ奥の部屋で、勝手に見ることはできないが、河童の手はいつ見たところでかまわねぇ。」

年寄りが静かに立ち上がり坊主の背中に歩み寄る。
「ほらっあれだ。あの箱に入っている」
年寄りはブツブツと小声で祝詞なのか経なのか唱え、坊主の横をとおり奥へと入ってゆく。
奥にある箱に手を合わせ、それを手にして戻ってきた。
坊主の横を通るとき、鼻のまわりにはかび臭さが強く漂い始める。

年寄りは囲炉裏のちかくに腰を下ろして胡座をかき自分の脛の前に箱をおいて、今一度手を合わせた。年寄りは合わせた手を解くと箱の蓋を静かに開けて、
「これじゃ、同じだ。」
すみに落ちている腕と見比べながら呟いた。
箱の中には確かに同じような腕が納まっている。違うところと言えば、腕が茶褐色に干からびていることだろうか。

皆が首を伸ばすように覗きこむ。娘は静かに目をそらし、坊主と康介はそれを見つめ続ける。
百姓たちは、見慣れているのか、ただそれを見ていた。
「なぜ、これがここに。」
坊主は干からびた腕を見つめたまま年寄りへと言葉をむける。

「これはな。」
年寄りは茶褐色の腕を見つめたまま話し始める。
「儂が幼き時のことだ。この辺りには飢饉がきての、それに慣れていることもあり、蓄えもそれなりにしていた。近くの集落どうし協力して、少しずつだが、近くの川から水を引けるようにも、協力して水の路も造りため池もつくった。だから、なかなか雨降らぬ年でも、雨ばかりの年でも何とかしのげていた。」
年寄りは自分の話に頷きながら話しつづける。
「が、その年はちがう。まったく雨が降らず、池の水も川も、終いには井戸も乾き始めた。そうなると病は流行る、獣は山から降りてくる。人は襲うは、それは子供の目から見ても大変な日々だった。それでも、山から湧いて出る水がチョロチョロと流れている。」
ふぅ、と年寄りはため息をつき、話をつづける。
「ある日、川が塞き止められているのを見つけた。それがどこの誰の仕業かと騒ぎになり、近くの集落、村々、で騒ぎになり出す。自分達だけ好いような行いは慎もうと、村々も話し合い協力しての乗り切ろうと決めたのに、何度も川や水路が塞き止められる。もう、そうなれば大怪我する争いにもなる。」
年寄りは囲炉裏から天井へと目を移し、
「考えてみれば皆協力して一番育ちのよい田に水を引いて、皆でそれを分けてゆくことにしていたんだから、水を止めて得する奴などこの辺りに居るわけもなく・・・。ならば見張りをたて、水の流れを管理し、自分達の思い通りの流れを保つため、見張ろうとなったんじゃが」

     11

見張りは常に二人、三人といた。
日の出からお天道様が頭の上まで、頭の上から日が陰るまで。
日の入り辺りから日の出まで。
時に丑三つ時前に代わったり、お互い都合よくやっておった。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!