河童12

細くまばらに、髪の毛は前に垂れている。
目を隠すほど邪魔にはならない、髪の毛の向こうで、よどんだ目は中の様子をうかがう。

異様。
その姿に娘は驚き息をのみ、後ろに手をつきわずかに後ずさる。
異様をみた康介は刀の先をわずかに隠したまま、いつでも斬りつけられるように痛む体を無視した。

斬る

その決断の時
「イヤーッ」
娘の有らん限りの悲鳴が社に響き渡る。

坊主はわずかに見えた細い指と康介の覚悟の構え、娘の悲鳴に、何が起こるのかと、足の裏に力を込めすぐに右でも左でも、前でも後ろでもと構えを練り込む。

意を決した坊主は戸に腕を伸ばし開こうとした刹那。

トン、と音をたてて戸がしまる。

康介が身体の痛みを押さえ込み戸口に向かおうとする。
空かさず坊主が康介へと片腕をあげ制する。
「待とう」坊主が声を小さくかける。
「待つんだ康介どの」
康介は素早く反応して動きを止めた。
押さえ込んでいた痛みを思いだし、その場にたたずみ息をとめ、ゆっくりと息を吸い込み長く息を吐く。

何があった。
何が起こる。

皆が思う。

康介は痛みが反発して沸き上がりその場に少しうつ伏せる。

坊主が康介へと
「動けるか」
へんじはない。
「すまない、使わせてもらう」
康介へと近づき、鞘に収まり直している刀を抜き取る。

大事な刀を抜き取る坊主に無礼と云う気がわくこともなく、
「うっ」納得とも、呻き声ともつかない返事をしていた。

康介がみる坊主は、
「できる」
元は刀を握っていた身分であると感じさせる構え。
足腰も腕っぷしも達者であると解る。

坊主は頼りになる構えから、足の指をあげ、一つ二つと摺り足で、戸口へと向かう。

構えた坊主。うずくまる若者。おびえ動かぬ娘。

三者がいる社は、不快な湿気、妙な温かさ。
粘りけのある汗が首筋を伝い、脇を伝い、臍まで降りて行く。

呼吸も聞こえない社には雨音だけがきこえている。
他は聞こえない。
「消えたか」
坊主がそう呟いたとき、バシャッバシャと外が騒がしくなる。

緊張が走る。
「いるか、幾人」
何人いるのであろうか、いや、何匹か。

複数の足音が、ぬかるんだ社の周りを動き回り、中を伺っているのが解る。

坊主は全神経を己のからだに向け、力のいれ具合を確かめる。気は外に向け動きを謀る

第六感を練り創り、腰を落として
「イザッ」最後の構えをした。

再び足音は消える。
気配から戸口の前に幾人か、幾匹か、集まっているのが解る。

耳に幻聴か、聞こえているのか、息を殺してヒソヒソと話す声が聞こえる。

息を沈め、動きを隠し、瞬きもせず、戸口を見つめる。

そして見つめる一点。戸口が動いた。

ガタガタッ

今度は強く戸口がゆれる。
そして引き戸が動く。

カッと血が湧く坊主と康介。
一気に戸が動く。
「斬れっ」と康介。
「斬るっ」と坊主。

戸を開けた何かが入ってくるであろう刹那、戸口に向かい刀を突き刺すように突きだす。

「違う」
坊主と康介
同時に叫ぶ。

坊主は戸口に居るものを突き刺すその刹那、手首を左に回し刃を左に向け、肘を左に曲げ、体も捻る。すべてを瞬時にこなし、「ちっ」刀は突き刺さらずに空を斬る。

「巧みな」康介は坊主の動きに魅了される。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!