河童37

長(おさ)を背負った武が平太の村へと歩き出す。
「おい平太。儂らも帰るぞ」
ねむけ眼で武たちを見つめる平太に、歯の抜けた男が空気の抜ける声で急かす。
手には武器として使いこなすために得物を掴み、村に向かって歩み始めていた。

怪我をしている長を、村の外れの小屋へと案内して休んでもらう。
「ここなら、あんたらも気兼ねが要らんだろうから。水などはあとで届けるからゆっくりするといい」
そう云って小屋をあてがったが、村の皆が河童の仕返しが来るのではと嫌がり、家には入れたがらないので、仕方なく村外れの小屋を貸し与えていた。
村では「厄介者が来た」と、皆が不満を言う。
河童を切りつけ腕を落としたのが悪いだの、仕方がないだの、巻き添えだ迷惑だと、あくまでも他人事のように云っている。
自分が襲われ助けてもらったのならば感謝もするだろうが、直接その場にいなかったもの達には、迷惑この上ない話になっている。
それも仕方がないことでもあった。
争い事も少ない村では、戦で迷惑かけられ、日照りも続けば長雨もある。そして実際に河童を見たのは平太だけだときて、この村の大人は誰も、それ、をみていない。お伽噺を簡単には信じられない。
「賑やかな街道ではやる噂話でもないだろうに。」
まったく信じていない者もいる。
「石積みしたくないもんで、河童のせいにでもしてるんじゃないか」
見てない者たちの無責任が言葉に出てくる。
「だが、平太も他の者も切り落とした河童の腕を見たと言うし」
「ああ、その腕なら儂も見た。腕があるのは本当だ」
「作り物か猿の腕ではないのか」
「いや、どうだろう。河童の腕だと思うが」
「おまえは河童の腕を見たことあるのか」
「猿の腕か狸の前足だろう」
「毛がなかった」
「剃ったか、膚を患ったんでは」
「河童の腕を見たことがあるやついるか」
「見たやつはいないだろうが、確かに指の間に水掻きの膜があった。あれは水掻きだ」
「・・・・。」
沈黙もあったが、喧々囂々終らない無駄な話が続いていた。

武が目を覚ます。
少し肌寒い朝だった。
夜が明けてかなりの時間が過ぎているようだ。涼しさがあるがお日様は高いところにいた。
日差しが隙間から差し込んでくる。
武は身に掛けている筵を静かに払い起き上がる。
長は静かに寝ていた。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!