河童15

社に落ちている腕の指。
戸口に見えた指。

そう。
この社のすみに落ちている腕の指と同じだ。

戸口に見えた指。
「あの指は、これだ」
康介は呟き、坊主に視線を戻した。
異様な腕が転がり、異様な指がみえ、不気味この上ないが、物語に出てくるような生き物をたった今、確かにみた。
娘は微動だにせず一点を見つめたままでいる。
坊主は「ふぅー」と息をゆっくり吐きながらその場に腰をおろし、娘へと視線を向ける。
娘の胸元に視線を向け、それから社の隅に転がる腕へと視線を走らせた。

その視線の動きに刀を向けられていた男が気づき、坊主の視線をおう。おった視線の先に転がる水掻きのある腕に気づく男。
「あっ」
驚きの声と同時に、それ、を指差した。
「あっ」の声に驚き指差す方を見た他の男たち。
「あっっ」「ああっ」
一度に驚きの声をあげる。
びしょ濡れの男三人。驚きの表情で水掻きのある腕を見つめていた。
社の中の囲炉裏の火は、おき火になり、恐怖が混ざる汗と湿気が、体臭と何処かから流れ込んでくる生臭さで、不快この上ない居心地になっていた。

      9

社の中からこぼれる灯り、そこより少し離れた草むらでは、気味も悪い生き物が、統率があるのか、ないのか、社を囲っていた。

辺りに生い茂る雑草と変わらぬ背丈をいっぱいに伸ばし社を伺うもの、座り込み社の方を見つめるもの。腹這いになり辺りをゆるりと動き回るもの。
たまに漏れる月明かりによって、時々蒼い体が闇に染み出ている。

その中の一匹、腕を腹に抱え込むように背を丸め、「フーッフーッ」と息も苦しそうに社を見つめている。
もう、片方の腕には、仲間らしき生き物の、いや、おなじ種らしきものの死体が足を掴まれて引き摺られている。
息も苦しい、気味悪い生き物が、腹に抱え込むようにしていた片腕を、目の前まであげて見つめている。なくなった腕は切り取られたであろう。その部分の肉は、残った腕の部分から押し出されたように、少しモコモコと盛り上がっている。雨で乾ききれない血が、すぐそばにある肘関節を伝わり、蒼白く細い上腕部を伝わり、しずくとなり、雨と一緒に地面へと落ちてゆく。
足元はすでに水を十分に吸い込んでいるために、血は地面でより薄められ、闇の方へと吸い込まれてゆく。

「フーフー」と苦しさの解る息づかいで社を見つめる。見つめるを通り越し、睨み付けているのが解るほど殺気を含んでいる。
気味の悪いその生き物は、徐々に息を荒くし、目玉が飛び出るように、上下にある瞼らしきを拡げ、
「カーッ」としゃがれた奇声を喉の奥から絞りだし、死体を引きずり社へと走り出した。

なくした腕を腹に押し付け、ドタドタと不器用に死体を引き摺りながら走り出した次の瞬間。奇声をあげた生き物よりすこし小さく、ゴツゴツと関節も丈夫そうな素早い動きの生き物が、片腕の生き物の背中に飛び掛かり、首もと噛みつき、力任せにねじ伏せる。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!