河童48

くるくると走り辛そうでも、年寄りの前に走り出た「それ」を背負った男。

年よりはその男をあえて先に走らせたまま後ろに続く。
追い抜き、先に村まで帰りつくのも男が不憫に思えた。

それに、追い抜き様にその男から自分へと飛び移ってくるのも嫌だった。
背中に「それ」をのせたままの男は必死に叫ぶ。
「平太じぃっ、こいつはなんだ。河童かっ、何とかしてくれ平太じぃっ」
男の叫びに、
「おおっ何とかしてやるから村まで急げ、皆でどうにかしてやる」
年寄りは叫んでみたが、どうすれば良いのか知恵が浮かんできたわけではなかった。
村へとたどり着けば誰かが何とかするだろうと期待して叫んでいるだけだった。
「もう村につく。あとわずかだ」
励ますように叫ぶ年寄り。男も気持ちの励みになったのか、よろめく脚が速くなる。
「大丈夫だっ。直ぐだ」年寄りが叫ぶ。
「おおっ。先にたどり着いたものが村の者を集めているぞ。火もみえる」
励ましの叫びを続ける。その叫びに反応したのは背中の河童の方だった。

今まで驚きと走ることに必死でいたが、男の背中にしがみついている河童が、噛みついてる首もとから口を離し、後ろの年寄りへと揺れる背中で振りかえる。

振り返り様に年寄りをみつめているようす。
真っ黒な目。
気味の悪い不気味な顔つき、幼き頃にみた顔をつい昨日のようにおもいだす。
「うっ」
思わず脚を止めた年寄り。
脚を止めた年寄りを見て河童は男の背から飛び降りる。
急に背中が軽くなった男は、事を理解し、一切後ろを振り向かずにここぞと村へと走り出す。
「ああっ、しまった」
年寄りが叫ぶ。
目と目があう。時がとまり静寂になる。
年寄りは河童の出方をうかがい、河童は年寄りをどうしてくれようかと考え見合う。
河童は身動きせずジッと年寄りを眺める。年寄りがピクリと脚を踏み出したそのとき、いきなり両手をあげ威嚇を始める。
いきなりの動きに、弱りかけている年寄りの心臓は一瞬動きを止めた。

河童の細く青白い腕があがり、年寄りの心臓を一瞬止めたあと、それがそのままの姿で走りよってくる。
滑稽にみえる河童の走る姿。その姿が年寄りの心臓を再び動かす。
滑稽さに判断を惑わされ。走るかどうするか、思考をとめられてしまう。
決断の誤り。
滑稽な走りも見た以上に素早い。
「あっ」
後ずさる。
その間に走り出せば良いものを、滑稽さを見つめてしまい。河童が飛び付き、首もとに抱きついてきた。

「うおっ、いかん」
すでに遅し。
年寄りの体力では、子供のように抱きつく河童を引き剥がせそうにない。河童は器用に動きを背中へと回り込む。
もがき振り払えることもなく、首もとを噛みつかれた。それは何かが刺さる感覚ではなく、
「挟まれた」感覚だった。

抱き着かれ首もとも噛みつかれ、腕も首もとに巻き付いているのか、意思とは無関係に膝が落ちる。
暗い辺りが白み始める。
「おおっ、あの世から迎えが来たか。」
声にもならず、呟くともなく、まぶたは落ちてくる。

目を開けているのか夢か幻か。お日様差し込み明るくも感じる。よくよく見ると火の玉がいくつか浮かんでいる。
「これが迎えか。三途の川の渡し賃は・・。まだ身は重いのう。」

年寄りは覚悟を決め成り行きに任せる。
年相応の覚悟に体は軽くなって行く。

「おいっ、平太じぃっ」

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!