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【さっくり解説】有価証券の保有目的区分

そもそもなぜ有価証券は保有目的によって分類されるの?

なぜ、有価証券は株式や社債といった種類での分類ではなく、保有目的によって分類されるのでしょうか?


企業が有価証券を保有する目的は、資産運用、リスク管理、取引関係の維持など多岐にわたります。この各保有目的は、証券の選択、保有期間、リスク許容度など、企業の投資戦略に大きな影響を及ぼします。したがって、有価証券の保有目的を正確に理解することは、企業の財務状況とリスク管理の観点から重要です。

1. 戦略とリスク管理の観点: たとえば、売買目的の有価証券は、価格変動リスクが高い反面、短期的な利益獲得の機会も大きいです。一方、満期保有目的の証券は、定期的なキャッシュフローを確保し、長期的な収益を追求するために保有されます。子会社・関連会社株式は、企業の経営資源や戦略的な関係を保持するために保有されます。その他の有価証券は、長期的な資産価値の上昇や安定した配当を期待して保有されます。これらの保有目的ごとに異なるリスクと戦略が存在し、それぞれ異なる会計処理が必要となります。
2. 透明性の観点: 企業の財務報告の透明性は、投資家やクレジットレーティング機関などの利害関係者が企業の財務状況やリスクを評価するために不可欠です。企業が保有する有価証券の保有目的を明確に示すことで、これらの利害関係者は企業のリスクプロファイルや投資戦略をより正確に理解することができます。

たとえば、企業が大量の売買目的の有価証券を保有している場合、その企業の財務状況は市場の価格変動に敏感であると判断できます。この情報は、投資家がその企業の株式を購入するかどうかを決定する際に重要な要素となります。

このように、有価証券の保有目的による区分は、企業の投資戦略やリスク管理の理解、そして企業の財務情報の透明性の確保のために重要です。それぞれの保有目的にはそれぞれの評価基準とリスクが存在し、それを理解することが企業の真の財務状況を評価する上で重要となります。

保有目的別有価証券の取得時の計算方法

1.売買目的有価証券:これらの有価証券は、取得時の取得原価(取得に必要な全ての費用を含む)で計上されます。評価方法は時価評価であり、価値の変動は当期利益に影響を及ぼします。これは、これらの証券が短期間での売買を目的としているため、証券の公正な価値を随時反映することが求められるからです。

2.満期保有目的有価証券:これらの証券は、取得時の取得原価で計上され、その後は原則として償却後の帳簿価額で表示されます。この方法では価値の変動は通常、当期利益に影響を及ぼしません。企業がこれらの証券を満期まで保有し、固定の利回りを得ることを目的としているため、価格の変動は一時的なものとみなされます。

3.子会社・関連会社株式:子会社・関連会社株式は取得時の取得原価で計上されます。ただし、評価方法は保有企業の純資産に応じて調整される「持分法」が一般的に用いられます。持分法では、子会社や関連会社の利益や損失は親会社の利益に直接影響を及ぼします。これは、親会社が子会社・関連会社の経営に影響を及ぼし、その結果を共有するという経営の実態を反映しています。

4.その他の有価証券:これらの証券は、取得時の取得原価で計上され、その後は公正価値で評価されます。価値の変動は、一般的にはその他包括利益として計上され、当期利益には反映されません。ただし、評価損が回復しないときは、当期損益に影響を及ぼす場合があります。

保有目的による決算処理の違い

企業が株式を持つ理由は多種多様で、それぞれの目的に応じて決算処理の方法も変わります。有価証券の保有目的は、「売買目的」「満期保有目的」「子会社・関連会社株式」「その他の有価証券」の4つのカテゴリに分けられます。それぞれのカテゴリについて、詳しく見ていきましょう。



まず、「売買目的」の有価証券から見ていきます。これらの証券は企業が短期的な利益獲得を目指し、価格変動を積極的に利用するために保有します。企業は頻繁にこれらの証券を売買することで、価格変動による利益を追求します。売買目的の有価証券は、毎期末の時点で市場価格(時価)で評価されます。その結果、価格の上昇による評価益は、企業の利益として認識されます。一方、価格の下落による評価損も、企業の損失として計上されます。

次に「満期保有目的」の有価証券です。これらの証券は企業が一定期間保有し、その期間中に得られる利息や配当を見込んで保有します。例えば、債券は通常、定期的に利息を支払います。このような有価証券は償却原価法で評価されます。償却原価とは、有価証券を取得した際の原価から、期間中に受け取る予定の利息や配当を差し引いたものを指します。利息収入は収益として認識されます。

次に、「子会社・関連会社株式」です。これは企業が自社の経営資源として保有する証券で、企業の経営戦略に密接に関連しています。子会社の株式は、一般に連結財務諸表の作成に影響を与えます。これらの証券は、連結財務諸表上では母体企業と子会社間の取引を排除し、一体として評価されます。非連結の個別財務諸表では、時価の変動を投資成果と捉える必要がないので取得原価で評価します。子会社からの配当収入は、投資損益として認識されます。

最後に、「その他の有価証券」です。これは企業が長期的な価値上昇や配当を期待して保有する証券で、主に長期投資として保有されます。しかし、最終的には売却が予定されているものとするので期末評価は時価で行います。ただし、評価時点で市場価格が取得コストを下回る場合には、その差額を減損損失として計上することが求められます。

このように、有価証券の保有目的によって決算処理が大きく異なることを理解することは、企業の財務状況を適切に評価する上で非常に重要です。例えば、売買目的の有価証券が多い企業は、その業績が市場価格の変動に大きく左右される可能性があります。また、満期保有目的の有価証券が多い企業は、安定した収入を得ることが可能である一方、価格変動のリスクからは一部免れます。

同じく、子会社・関連会社株式を多く持つ企業は、その子会社の業績に大きく依存することになります。そして、その他の有価証券を多く持つ企業は、長期的な投資視点で経営が行われている可能性が高いです。

保有目的区分による決算処理の違いを理解することは、企業の経営戦略や財務状況を深く理解する一助となります。

端数利息について

有価証券、特に債券の売買においては、端数利息(accrued interest)の計算が重要な役割を果たします。この端数利息は、前回の利息支払日から売買日までの間に発生した未払いの利息を指します。

公認会計士試験では、この端数利息の計算方法と取引価格への影響について理解することが求められます。

1. 端数利息の計算: 債券の額面金額、年利、前回の利息支払日から売買日までの経過日数(通常は360日または365日を1年として計算)を基に端数利息は計算されます。
2. 売買価格への影響: 通常、債券の売買価格は「清算価格(clean price)」と「端数利息」の合計額で表示されます。これを「全額価格(dirty price)」といいます。清算価格は債券の価値を反映したもので、端数利息は売買日までに累積した未払い利息を示しています。

まとめ

今回は、有価証券の保有目的区分とその会計処理の違いを解説しました。具体的には、売買目的、満期保有目的、子会社・関連会社株式、そしてその他有価証券という4つの区分について見てきました。これらの区分は公認会計士試験において理解を求められる重要な領域であり、各々異なる評価方法や計算方法が存在します。

会計は数字だけの世界ではありません。それらの数字がどのように計算され、何を示しているのかを理解することが求められます。この知識は、財務情報の透明性を高め、企業の経営状況の理解に大いに役立ちます。公認会計士として活躍するためには、これらの保有目的区分とそれに伴う会計処理の理解が不可欠だと思います。

今後の勉強に向けて、保有目的区分ごとの有価証券の評価や計算方法の違いを深く理解し、各証券の特性やリスクを正確に評価できるスキルを一緒に身につけていきましょう‼️

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