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小説|ともに生きる④

朝起きたノリコは、昨日よりは体が楽になっているのを体感した。
ふと時計をみると、10:00am過ぎ。体温を測ると37.8℃あった。
とっくに夫は出かけているだろうなと思いながら、まだ少しふらつく体を起こし、ベットに腰掛けた。

あれ?キッチンの方からなにやら音がする。

ノリコがキッチンのドアを開けると、そこには敏夫がいた。
「あ!ノリコ!大丈夫か?!」

「え、まぁ、昨日よりはマシかな。それより、敏夫どうしたの?仕事は?」

「今日は土曜だし、別に出勤日ではないし、ノリコの体が心配だから家で今日は主夫をすることにしたんだ」

「そうなんだ。ありがとう。」

ノリコは病院で見たことを少し思い出したが、今は言う気になれなかった。

「もう少し寝てきていい?」

「あぁ、それより病院はどうだったんだ?医者はなんて言ってた?」

「また、あとで話す。今はまだ少しシンドいから寝るね。」

「あ、あぁ」
敏夫はどこか様子がおかしいノリコの雰囲気に少し違和感をいだいた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

一方で珠美はだんだんと元気になっていた。

昨日の1日を振り返りながら姉との会話を思い出した。

不倫はダメよ!・・
か・・・

自分が不倫するとかなんて、考えたこともなかったし、学生時代とは違い、そもそも恋愛自体に今はあまり興味がなかった。

もう2年くらいは彼氏がいないが、気づけば珠美は今年で29才になる。珠美の友達はまだ結婚してる子はいないが、将来このままシングルでいる気はない。

かといって、今は仕事以外の楽しみなんてないし、誰か新しく知合う男性もいないしなー

一番身近にいつもいる男性は先輩だけ・・か・・・

あ"ーーーーっもう!考えても仕方ないなっ!
もーいいや!
今は仕事!仕事!仕事!
仕事をもっと頑張って覚えて、一から十までひとりで営業できるようにならなきゃ!
いつまでも先輩に甘えてはいられないな!

珠美は急にエネルギーが湧いてきた。

よし!資料つくろ!
資料作りとか計画とかしっかり立てて、先輩に「小川、あとは一人で任せたぞ」って言わせるぞー!

珠美の心は燃えた。体調不良だったのが嘘のように元気になり、土曜日にもかかわらずスーツに着替え、会社に出勤して資料作りに励んだ。

┈┈┈┈┈┈┈

日曜日になると、ノリコの熱はすっかり下がり、家事も少しはできるようになっていた。

「大丈夫?」
敏夫は心配そうに聞いた。

「うん、もうかなり良くなってきたよ。そういえば、病院での事だけど少し検査してもらったの。それで、検査結果が明日には分かるみたいだから、また明日病院行ってくるね。」

「そうか。」
敏夫は妻がそんなにも体調が悪かったとは思わず、金曜日の自分の行動を振り返りながら複雑な気持ちになった。

あの日妻に付き添っていた方が良かったのかもしれないな。
この頃仕事ばかりしていて、家の事や妻のことおざなりにしていたかもしれない。。。

なぜかふと珠美の顔が浮かんだ。
そーいえば俺、このごろ小川のことばかり考えてたな。なんでだろ。でも段々と成長していく小川をみてると、自分も嬉しくなって、もっと色々教えたくなるんだよな。
あの素直で前向きな姿勢が、すごく俺のやる気を出させてくれるっていうか、一緒に仕事するのが楽しいんだよな。。。

敏夫はそんなことを思い返しながら頭を整理した。

するとノリコが
「敏夫、少しいい?」
となにやら神妙なおももちで敏夫に言った。
「え?いいよ。何、あらたまって」

「いや、すごく言い辛いんだけど、どうしても頭から離れなくて、、、
あのね、金曜日、私が病院行った日覚えてる?」
「あ、あー。覚えてるよ。」
「あの日、あなた会議があるって言ってたじゃない?」
「お、おう、言ってたよ」
敏夫は少し焦った。

「あのね、あの日、病院であなたが会社の女性といるのを見かけたんだけど、私の見間違えかしら?」

「・・・・・」
ノリコの急な問いかけに、敏夫は言葉が出てこなかった。まさか、あそこにノリコがいたとは思いもしなかった。まさかそんな、、、、!?

「何も言わないってことは、やっぱり会議は嘘だったのね。」
「いや、そうじゃないんだ!」
「そうじゃないって何?しかも会社の子、普段着だったじゃない。あなた、仕事にちゃんと行ってるの?それとも彼女とデートする日だったの?なんなの?」
「違うんだ、ノリコ!少し落ち着いて話を聞いてくれ。きちんと嘘なく話すから」
「嘘つく人に嘘つかないって言われても信用できないじゃない!」
初めて見るノリコの表情に、敏夫は少したじろいた。

「いや、あの日は本当に会議だったんだ。それは、社長に聞いてもらってもいい。
それで会議の準備をしていたら、大事な資料を彼女、いや、小川に渡してたのを思い出したんだ。それでその日、小川が体調不良で休んでることを後から知って、電話したけど繋がらなくて。」

「は?!それで、心配で彼女の家に行って、一緒に病院行ったってこと?」
「資料だけ受け取ろうと思って行ったけど、あまりに体調が悪そうだったから・・・」

「じゃあ、なんでメールであんな嘘ついたの?!私、てっきり私の体調を心配して病院まで駆けつけてきてくれたのかと思って、嬉しい気持ちになってたのに、ふと見たらあの子と一緒にいるから、驚いたじゃない!」
ヒートアップするノリコを初めて敏夫はみた。

「それならなんで、お前だってその時言わなかったんだよ!!」
敏夫も訳がわからなくなり思わず口走ってしまった。

「なんなのあなた?!体調悪くてそれどころじゃないことぐらい分かるでしょ?
私より彼女の方が心配?大事な会議だから心配かけたくないって私は気をつかったのに、こんな仕打ち受けるなんて、敏夫ヒドい!!」

「俺だって、状況を細かく説明してる暇がなかったから、とりあえず会議中だったって言っただけだよ。職場のヤツと会ってただけだから仕事には変わりないだろ!」

2人は知り合って以来、はじめて激しく言い合う大喧嘩をした。

「少し出かけてくる」と、敏夫は外で頭を冷やすことにした。

一方ノリコは、あんな敏夫をはじめてみて心が揺れた。

「ママ、パパ、大丈夫?」
と昼寝をしていた息子が起きてきた。

「ゴメンね。起こしちゃったね。大丈夫よ。」
と息子をハグしながらノリコは自分自身を慰めた。

しばらくすると、敏夫からLINEがきた。

「さっきはごめん。」

ノリコは返信ができなかった。
涙が止まらず、どうしたらいいか分からなかった。病院での出来事、嘘のメール、と思えば次の日は優しい夫、もう訳がわからなくなっていた。
敏夫にとって私はどんな存在なんだろう・・・
なんで、敏夫は嘘なんてついたの?
今までは嘘付いてなかったのかしら・・・
そんなことが頭をよぎり、混乱しながら出つづける涙と鼻水を拭うことしかできなかった。

……続く

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