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小説|ともに生きる⑤

・・・約2ヶ月後

敏夫とノリコはあれから何度も話合いをした。
これまでの事や今後の生活、お互いの仕事の事など、今まであまり話してなかったことなど沢山話し合った。

ノリコは敏夫と話すうちに、改めて彼がどんな人か知ることができた。出産以来、子育てに必死でノリコ自身も敏夫のことを見ていなかったのかもしれないと思うようになった。
敏夫の将来の夢や、今取り組んでる会社のプロジェクトのこと、子供のことなども話すようになり、たまに2人で映画なども行くようになった。

敏夫はこんなにもノリコが必死に子育てや仕事を頑張っていたとは知るよしもなかった。家族として、良き夫として、良き父親として、今まで自分ではない誰かを演じていたような気分にもなった。
改めてノリコをみたとき、自分には勿体ないくらいの女性だと感じるほどだった。
そのうち、週末は2人きりで出かけるようにもなり、出会った頃のような心弾む気持ちにもなった。

一方、珠美は短期間で益々成長し、ひとりで担当する営業先も増えてきた。
仕事が上手くいくにつれて、お付き合いで取引先とランチしたり、プライベートでも仲良くなる人もできたりと社交の幅が広がった。

そんな日々を過ごすある日、敏夫は社長に呼び出された。

「梶野、新しい営業所の立ち上げを君に任せようと思うんだが、どうだ?」
「!!あ、ありがとうございます!・・ということは、あちらに住むことになるということですか?」
「あぁ、本来は僕が行くのが良いのかもしれないが、こちらでの仕事も多くてな。これを機会に君の成長にも繋がるかもしれないと思って、、、少し不便をかけるがお願いしたいなと思ってる。
ちなみに、月2回はこちらに帰省の交通費も出すつもりだ。
どうだ?任せていいか?」
「わかりました。僕もお受けできて嬉しいです!」
「ありがとう!」


敏夫は家に帰り、さっそくノリコに話した。
「そう、敏夫としばらく離れて暮らすことになるのね。なんだか、また結婚前の生活に戻るみたいね(*^^*)」
「あー、まぁな。そう思ってくれるなら嬉しいけど、子供の事とか任せっきりになっちゃうけど、大丈夫か?」
「もし、どうしても助けが必要な時は言うから心配しないで。私は息子との生活を楽しむようにするわ♡」
「ありがとう。」

2週間後、敏夫が赴任するための見送り会と称して、職場で飲み会があった。
「いや〜、梶野さんがいなくなるなんて、ただでさえ少ない事務所が寂しくなるな〜!」
もう1人の男性社員がわざとらしくビールを飲みながら言った。
「寂しくなるんじゃなくて、居心地が良くなるの間違いじゃないですか〜?」
事務員の山田がすかさずツッコんだ。
「何言ってるんだよー!俺は本心でいつも話してるんだから、俺と梶野さんの事をじゃまするな(笑)」と、いつもの和気あいあいとしたやり取りが続く中、小川があまり喋らず元気がなかった。

社長が「どうした?小川。いつもみたいな元気はどこにいった?」
「いや、そんなことないです。元気ですよっ(汗)」

「あれ〜?!もしかして小川、梶野先輩がいなくなるのが寂しいのか?!」
と酔っ払いながら男性社員が言った。
「こら!デリカシーなさすぎ!」
と山田のフォローがはいった。
続けて「小川ちゃん、遠慮せず話したいことあったら話してね。」と、山田は珠美を気遣った。

敏夫はそんなやり取りをみて、
「おいおい、別に俺この会社辞めるわけじゃないし、そんな変なやり取りするな(笑)」
みんなが笑顔になり場が和んだ。

「先輩!!」
急に珠美がせきを切ったように話し始めた。
「な、なんだよ!急に」
「あの!あちらの営業所にいっても、もし困ることがあったら電話させてもらってもいいでしょうか?」

敏夫はしばらく黙ったのち、ゆっくり話し始めた。

「ダメとは言わない。でも、今ある環境の中で、自分がどうしたいのか、どうしたら良いのかよく考えて行動するようにしろ。俺に頼る以外の方法はあるはずだぞ。
お前はもう一人前だ。自分なりの解決方法をきちんと考えて行動すれば必ず道はある。それに、俺以外の先輩もいるんだし、営業所のメンバーに頼ってもいいんだぞ。」

「そうよ、小川ちゃん。私も事務員だけど、取引先のことは、どんな会社か大体は私も把握してるし、わかる事はなんでも答えるから、遠慮せずいつでも聞いて(^-^)」

空気を変えるように社長が少し声を張った。
「そうだな。梶野の言う通りだな。
これからはここの営業所が本部になるから、皆がそれぞれの仕事を責任持ってできるように、これまで以上に結束していかなきゃいけない。
梶野が居なくなるのは、今までと環境が変わるから慣れるのに時間がかかるかもしれないが、みんなが新たな環境で新しいスタートするという気持ちで取り組んで欲しい!」

男性社員が席を立った。
「ということで、これから益々会社の成長を願って改めて乾杯しましょう!」

「カンパーイ!!」

そこにいるメンバー全員が笑顔で新たな門出を切った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

5年後。。。

会社を辞めた珠美は、新たに自分の会社を立ち上げた。

一方敏夫は、新しい家族も増え、赴任先に家族を呼び寄せて新たな生活を始めた。

《おわり》

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