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憧れの人・独創と独走〈コップ一杯の夢と適量のノンフィクション〉

あの人は今でも憧れの人だ。

10年近く経っても初めて話した日のことを鮮明に覚えている。異彩な雰囲気を放っていた。誰とでも仲が良く、普段から口角が少し上がっていて、勉強もスポーツも万能。誰もが認めるリーダーシップのある人だった。私は慣れていたので適当に流していたが、軽いいじめの標的にされていた時もすぐに声をかけてくれた。

いつからだろう、嫉妬するようになったのは。トラブルが起きても決して怒りの表情は見せず、少し困り顔で周囲に頼っていた。壁を段差のように捉え、階段を4段とばしで飛び越えているような人だった。

「独創」的な人は同時に「独走」もしている。時々考える。クリエイティブな人は誰もが思いつかないアイデアを創造するあまり、周囲の理解が追いつかず独り走りしてしまう。だがどうだろう、あの人は相手によって態度を変えず、チームの皆を紡ぐ架け橋、潤滑剤のような役割を果たしていた。羨ましかったし、やがて憧れている自分に気がついた。

自分の道を切り拓くのは難しいが、誰かの人生を変えるのは案外簡単である。

どこか知らないところで私も誰かに影響を与えているのだろう。

数年が経ち久しぶりに会いたくなった。けれど随分と忙しいみたいで、前日に断られた。もはや雑踏で声を聞いただけでは分からないほど変わっているのかもしれない。もう関わることもないのかもしれない。いや、でも私にとってのあの人は変わらずあの頃のままで居てほしい気持ちもある。

それに無理に会わなくても自ずと会うべく時は来る。

淡い期待を寄せ、携帯の連絡先にはまだ残しておくことにした。

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