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〈白煙 コップ一杯の夢と適量のノンフィクション〉

初めて煙草を吸ったのはある秋のことだった。前々から興味はあったが一箱は消費しきれないので、アイツと会った時に話の流れで1本もらうことになった。吸いながら火を近づけ、数秒おいて息を吐く。咳き込むとアイツは少し笑った。慣れていないので時間がかかったし、肺のあたりが苦しくなったので半分ほどで捨てた。煙草の先に宿る火は晩秋の夕暮れの様だった、などというとクサく聞こえるが実際そう思えた。吐き出した煙は夕闇に消え、道の脇には赤い彼岸花が咲いていた。

数ヶ月して雪が降る頃になった。小学校の低学年くらいだろうか、朝の通学路で口からでる白い息に夢中になっている。私にもそんな頃はあった。手袋とマフラーを身につけて雪遊びをしたことが懐かしい。両手を擦り合わせ、手の平に息を吹きかける。真冬の白い吐息は美しさすら感じる。そんな彼らを尻目に、足もとに気をつけながら雪を踏み締めた。

アイツの訃報を受けたのは桜の季節だった。横断歩道で、大学生の初心者ドライバーとの交通事故だったそうだ。聞くところによると即死で、車のフロントから煙がのぼっていたという。顔は綺麗なままだったとも聞いた。爆発や火災にならなかっただけよかったのかもしれない。葬儀は既に終わっていた。その日は少し時期の遅い熱燗を呑んで弔った。

夏になり盆の時期になった。近親者でもないので法事には行かなかったが、何かしてやりたかった。線香からの煙はどこか儚い。代わりに煙草を買いにコンビニへ向かった。一箱使いきれるだろうか。慣れない手つきでライターの火をつけ先端に近づけた。相変わらず息苦しくなるので吸わなかったが、人差し指と中指に煙草を挟み空に掲げた。煙は夏らしいどこまでも青い空に向かって行った。アイツが少し笑った様な気がした。

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