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『君たちはどう生きるか』感想

(※インスタにも載せてる)

2023/7/14

『君たちはどう生きるか』
 宮﨑駿監督

 本当に宮﨑駿は物語を創るのをやめるのかもしれない、と思った。

 落ち着いたら加筆すると思うけど、とりあえず勢いのまま書きたい。
(※私はキャラクターの気持ちにあまり興味がなく、作品全体(作者)の思想などに思いを馳せがち)


観た直後

 私は原作至上主義者なので、原作と違うところがあると楽しめないという理由で書籍は読まずに鑑賞。
 勝手な感想だが(感想というのはいつでも勝手なものだけど)、観終わって最初に思ったのは「これは創作をする者のための物語ではないか」ということ。『風立ちぬ』も創る者の物語だったが、より個人的な世界になったような。
 でもそれはたぶん少し違う。きっと物語を創るというのがこの監督の人生で、それを踏まえての『君たちはどう生きるか』なんだ…………。

 この人の作品は自然の描写が凄まじい。火、植物、水、光、影、風、侵食された人工物。絵や映像というのは作り手の視界が表されるものだと思うが、誰もこの人の視覚を越えられないんじゃないかと思う。
 宮﨑駿の描く自然が凄まじいのは、彼が「自然を超えるものを作れない」と思っているからではないか…?

 これまでの宮﨑駿の作品が端々に感じられた。『となりのトトロ』『耳をすませば』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』……彼の作品の印象に残る美しい絵を少しずつ集めたような。でも決して寄せ集めではない。「美しい」というのは単純に綺麗というより、風情のない言い方をすると「よくできた絵」と言えばいいのか…。

 舞台は第二次世界大戦中だが、主人公眞人の母が亡くなったのは火事で、おそらく空襲などではない。これは意図的なのかなあ…悲劇はいつでも起こりうる、というような…。
 眞人が頭につけた傷は喧嘩に箔をつけるためで、その見栄が「悪意」ということだろうか。本当より良くみせること、それは監督的には許されざることだったのだろうか…深読みしすぎ…?


(ストーリー全体やキャラクターについては他の人の考察などを読んでから書き出していこうかな、とりあえず色んな婆さんが出てきてよかった。大叔父も眞人も監督本人の投影と考えるのはあまりに安易かな?さらっと「インコに食われたのかな〜」とスルーされた鍛冶屋?が気になる)

 眞人は想像の世界でなく、戦争の最中の、辛いことが待ち受ける世界で生きることを選ぶ。どれだけ素晴らしい物語を創ることができても、ちゃんと現実を見て、現実の世界のことを考えなければならないんだよ、きっとそれが監督の信念というか哲学なんだ、と思った。
 私は「現実逃避の合間に人生やってる」タイプの人間なのでとても身につまされる。現実逃避するには逃げられるくらい現実が生ぬるいものでなければならぬ…楽しくはなくてもすべてが崩壊するような世界にならないように考えて生きなければ。

 現実をしっかり見ることの必要性は、ただ現実を生きる上でのことだけでなく、そうしなければ素晴らしい創造もできないから。想像力の糧となるものはやっぱり現実に存在する美しいものや恐ろしいものなわけで…。

 タイトルは監督の「私はこういう考えのもと生きているが、君たちはどうか」という問いかけなのだろうか。むしろ、もっとダイレクトに「信念をもって生きよ」ということなのかも。そう思ったのは私がなんとなく現実をやり過ごして生きているから抱いたにすぎない感想かもしれない。
 ある意味、物語というのは心に空虚がある人間のためのもので、現実を十分に味わっている人には必要ないものである。私は身近に物語を必要としない人がいるのでそれは良く分かっている。
 宣伝がないばかりに見逃されるとしたらあまりに惜しい作品だが、生きるのに物語が必要でない人が観たら「なんかジブリ盛りだくさんだな〜」くらいの感想になってしまうのかもしれない。
 個人的にはかなり深く余韻が残る作品だった。

 明らかにベックリーンの『死の島』をオマージュした場面があったので絵画好きは「おお!」となるはず。
 ひとつイラッとしたことがあるとすれば「女の子に感傷に浸らせてモタモタさすな」ってとこかな…笑

 石をひとつ持ち帰った眞人は世界にどんなものを創るのだろうか。
 普遍的なことを言っていると思うが、やはり創作する人はきっと色んな意味で「私はどう生きるのか……」と考える作品だと思う。創作をしない人には分からないかもしれない、でも創作をする人は……何を思うだろうか、という作品。

 内容に関係ないが、仕事で戦前の活字を見ることが割とあるので、タイトルの活字や作中の書籍の活字に「ああ…好き…」となった。

 ものすごく個人的な感想。私の曽祖母は人力車で移動してて「自分で歩いたことはございません」って感じの人で、敷地に入ってからすげえ石段を登る家に住んでて池があったりしたらしいので、最初の方は「知ってるぞこの家…(※知らん)」という気持ちだった。

あと駿はインコに嫌な思い出でもあんのか?


追記


 落ち着いて改めて振り返ると、これはかなり考察が捗るというかメタファーが予想しやすい作品なので、それが好きなタイプはそれなりに楽しめるが、純粋に物語の魔法を楽しむという点ではちょっと物足りないかなあ、とは思った。
 私は考察が好きな方だけれど、同時に物語はそれ自体で鑑賞者を楽しませて欲しいなとも思う。絵や描写の素晴らしさはともかく、純粋なストーリーから得られるものは少ないかな…だから予告とかなくて良かったと思う、どこも切り取れない、作品自体が宮﨑駿のハイライトみたいなとこあるから……。フィクションのドキュメンタリー(矛盾)と思えばいいのかな…あれだけメタファーが分かりやすければ一種のドキュメンタリーと思って良いと思うんですよ。
 だから純粋なファンタジーや魔法や感動を求めて観に行ったらかなり肩透かしだったと思う。私は作り手に思いを馳せる方だけど、数年前ならがっかりしていたと思う。

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