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軍事――日本のメディアが疎い分野

装軌車はなんでも戦車/砲塔を搭載していたらなんでも戦車

テレビを見ていたら、陸上自衛隊幹部候補生学校に入校中の候補生で、2名の女性隊員にスポットをあてて紹介していた。
行軍のあと敵陣地を奪取する想定で行われた訓練は、16式機動戦闘車も支援に駆けつけて、さすが幹部候補生の訓練は豪華だなと思いながら見ていた。

ところが、ナレーションと字幕スーパーに、一気に興ざめしてしまった。なんと機動戦闘車を「戦車」と呼び、字幕にも「戦車」と出た。スタジオにいる幹部自衛官たちも、だれひとり「いや、あれは戦車ではない」と異議を唱えない。あるいは異議を唱えたが、編集で意図的にカットされたか。

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↑(TBS「ジョブチューン」より)16式機動戦闘車

このような例は枚挙にいとまがない。
先日も、お笑い芸人のあばれる君が千僧駐屯地で78式戦車回収車に乗っている写真をInstagramにあげて「戦車と迷彩服姿で2ショット」とキャプションがついていた。

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↑ あばれる君インスタグラム(@abarerukun)より

ほかにも偵察警戒車や装甲戦闘車を戦車と表記している例もある。両者とも砲塔を装備していて、外観のシルエットが戦車と似ている。
だが装備してる砲の口径を見てほしい。戦車砲とは似ても似つかぬ小口径だ。

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↑ 87式偵察警戒車

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↑ 89式装甲戦闘車

ひどい例になると、かつて装備されていた60式装甲車や73式装甲車を、戦車と表記している例もあった。この両者の共通点は「装軌車」であることだ。
ちなみに装軌車とは、足回りに履帯(キャタピラ)を履いた車輛のこと。タイヤを履いた車輛は「装輪車」という。

どうやら外見上「装軌車」または「砲塔を搭載している」、どちらかの特徴があれば「戦車」と思われているようだ。
だから装軌車はなんでも戦車、偵察警戒車や機動戦闘車のような装輪車でも砲塔を装備していたらなんでも戦車になってしまうのだ。

日本のメディアのほとんどが、同様の誤解をしている。いや誤解というより「知らない」のだろう。

こういうことをいうと、必ず「戦う車だから戦車でいいじゃん」という、無学まる出しの屁理屈をいう奴が現れる。
そうではない。戦車とその他の車輛は、根本的に別物なのだ。

戦車の使い方を一言でいい表すなら、戦車の敵は戦車である。戦車と互角以上に戦える兵器は戦車だけだ。

歩兵や砲兵が装備する「対戦車火器」は、一方的に撃つのであれば戦車をやっつける威力がある。だが、戦車から反撃されても戦えるだろうか。

偵察警戒車や装甲戦闘車はどうだろう。
装甲戦闘車は、もともと歩兵の支援を任務とする車輛だから、戦車部隊を相手にガチで戦う仕様になっていない。
偵察警戒車はその名のとおり偵察車輛だし、装甲車は戦場で兵員を運ぶための「輸送車輌」だ。

何がいいたいかというと、それぞれに用兵思想が異なる車輛であるということ。
装軌車だから、砲塔を装備しているからと、なんでもかんでも一括りに「戦車」と表現してしまうのは、己の無知を晒すだけだある。

※トップ画像 74式戦車

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